シンガポールの南洋理工大学(NTU)は8月22日、従来は大型シンクロトロンでしか実現できなかった「水の窓」領域のX線を、テーブルサイズの装置で自在に生成できる新手法を発表した。研究成果は学術誌Nature Photonicsに掲載された。

サンプルホルダーに載せたグラファイトがX線実験のために電界放出型走査電子顕微鏡に装入される様子
(出典:NTU)
水の窓X線とは、波長がおよそ2.3~4.4nmの範囲にあるX線を指す。この領域では水は透過し、生体分子は吸収するため、細胞内部を染色や破壊的処理なしで高コントラストに観察できる。しかし、従来の卓上型装置は限られたエネルギー範囲しか扱えず、全域をカバーするには家屋規模のシンクロトロンが必要だった。
NTU電気電子工学部のウォン・リャン・ジエ(Wong Liang Jie)准教授らの研究チームは、厚さ10~170nmの薄いグラファイト片に電子ビームを照射することで、幅広いエネルギーの水の窓X線を生成できることを実証した。装置は実験室規模に収まり、研究環境に依存せず利用可能である点が特長だ。
さらにチームは、電子ビームのエネルギーやグラファイトの傾斜角を調整することで、X線エネルギーを自在に制御できることを示した。これは結晶に照射された電子の散乱を精密に解析する枠組みに基づいており、X線生成を支配する基本的なスケーリング則を予測し、実験で確認した。これらの知見は今後のX線発生装置設計に重要な理論的基盤となる。
本成果は、生体観察や新薬開発で用いるX線イメージング装置を小型かつ柔軟に設計する道を開くものだ。従来必要だった複数の装置を使い分ける手間を省き、研究コストや環境的制約を大幅に軽減できると期待される。同准教授は「私たちの手法は、シンクロトロンを持たない研究者にも先端的なバイオイメージングを可能にします」と語り、研究の社会的意義を強調した。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部