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大規模な金融緩和政策パッケージの発動

2025年05月22日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):帝京大学経済学部 教授

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。信金中央金庫、日本大学を経て2018年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)など。

 中国人民銀行は5月7日、各種の金融政策手段を網羅した金融緩和政策パッケージを発動した。人民銀行総裁は同日、国家金融監督管理総局局長、中国証券監督管理委員会主席とともに記者会見を開催した。その内容について概観したい。

金融緩和政策パッケージ

 時間的な流れを見ると、中国人民銀行のウェブサイトでは5月7日の午前9時25分に政策金利である7日物リバースレポ金利の引き下げが発表され、その後、次々と各種の金融政策手段の実施が公表されたが、それに先立つ午前9時から記者会見が行われた。記者会見には中国人民銀行の潘功勝総裁、国家金融監督管理総局の李雲沢局長、中国証券監督管理委員会の呉清主席が出席し、冒頭で潘総裁が金融緩和政策パッケージの具体的内容について言及した。以下、潘総裁の記者会見の発言に沿って、今回の政策パッケージの概要を説明することとしたい。

 金融緩和政策パッケージの内容は、3つの政策分野、10項目の措置にわたる。政策分野の第一は数量型政策手段であり、預金準備率引き下げ等により中長期の流動性供給を強化し、市場の流動性の充足を保持する。第二は価格型政策手段であり、政策金利や各種金融政策手段の金利、住宅公積金貸出金利などを引き下げる。第三は構造性金融政策手段であり、現存の構造性金融政策手段を強化するとともに新しい政策手段を創設する(構造性金融政策手段については 2023年3月のコラム 参照)。具体的には次の10項目の政策を実施する。

①  5月15日から預金準備率を0.5%ポイント引き下げる。大型銀行の準備率は8.0%から7.5%となる。これによって1兆元の資金が解放される。

②  預金準備率制度の改善を図り、自動車金融会社や金融リース会社の預金準備率を現行の5%から段階的に0%に引き下げる。

③  政策金利である7日物リバースレポ金利を5月8日に現行の1.5%から1.4%に0.1%ポイント引き下げる。14日物リバースレポと臨時レポの金利は7日物リバースレポ金利に対してそれぞれ0.20%減、0.50%増と定められているが、この増減幅は不変とする。この金利引き下げに伴い、今後、貸出市場報告金利(LPR)も0.1%低下する。同時に利率自律機構を通じて商業銀行を指導し、預金金利の相応の引き下げを促す。

④  構造性金融政策手段の金利を5月7日から0.25%ポイント引き下げる。1年物各種専用構造性手段と農業・零細企業支援再貸出金利を1.75%から1.5%に引き下げる(これは人民銀行が商業銀行に再貸出を行う際の金利である)。この結果、商業銀行は毎年150億~200億元のコストを節約することができる。また、担保付補完貸出(PSL)の金利を現行の2.25%から2.00%に引き下げる(PSLは人民銀行が政策性銀行に資金を提供する手段である)。

⑤  個人住宅公積金貸出の金利を5月8日から0.25%引き下げる。5年以下と5年超の1軒目の住宅の貸出金利はそれぞれ2.10%、2.60%となる。5年以下と5年超の2軒目の住宅の貸出金利はそれぞれ2.525%と3.075%を下限とする。この結果、同貸出の借入利息を毎年200億元節約することができる。

⑥  科学技術イノベーションと技術改造再貸出の限度額を5000億元から8000億元に3000億元拡大する。

⑦  5000億元のサービス消費と養老再貸出を創設する。

⑧  農業・零細企業支援再貸出の限度額を3000億元拡大する。農業支援再貸出と零細企業支援再貸出の枠はそれぞれ8350億元、1兆8750億元だったが、2025年4月1日に2つが統合されて2兆7100億元となっていた。

⑨  2024年10月に資本市場の安定した発展支援のために導入した2つの手段である証券・ファンド・保険会社スワップファシリティと株式購入買い増し再貸出について、それぞれ限度額が5000億元と3000億元であったのを5月7日から統合し、合計8000億元として弾力的に運用する(2つの手段の内容については 2024年10月のコラム 参照)。

⑩  科学技術イノベーション新債券のリスク分担手段を創設する。金融機関や科学技術型企業、私募株式投資機関・ベンチャー投資機関などが科学技術イノベーション新債券を発行し、調達した資金を科学技術イノベーション分野に使用することとする。人民銀行は同債券の購入に対して低金利の再貸出資金を提供するほか、地方政府などと協力して共同担保などによる信用供与の多様化を進めて一部の債券の未償還リスクの分担を図る。

政策決定と公表の過程

 2024年9月に預金準備率の引き下げと政策金利の引き下げが実施された際は、人民銀行のウェブサイトで9月27日に正式に発表される前に9月24日の記者会見で潘総裁が政策変更の内容を公表した(2024年10月のコラム 参照)。今回も潘総裁はウェブサイトでの発表に先立ち記者会見で公表した。金融政策の決定権限は2023年3月以降、政府の国務院常務会議から共産党の中央金融委員会に移転した。昨年9月のケースでは、24日以前に中央金融委員会で政策変更が決定され、それを24日の記者会見で公表した後、26日に党中央政治局会議で同内容が取り上げられるという順序であった。今回は4月25日に中央政治局会議が開催されており、同日その内容が公表されている。そこでは以下のように今回の政策パッケージの内容が具体的に述べられている。

「より積極的で有効なマクロ政策を実施することが必要であり、さらに積極的な財政政策と適度に緩和的な金融政策を実施する。(中略)適切な時期に預金準備率の引き下げと金利の引き下げを実施し、充分な流動性を維持することによって実体経済に対する支援を強化する。新たな構造性金融政策手段を創設し、新型の政策性金融商品を導入、科学技術イノベーションを支援し、消費の拡大や対外貿易の安定などを図る。各種政策の一体感を強化する。」

 今回の金融緩和政策パッケージの実施に当たって、潘総裁はウェブサイト上で「4月25日の中央政治局会議の精神を貫徹するため、金融政策パッケージを全力で実施する」と述べている。昨年9月と同様、党中央で金融政策の具体的内容が既に決定された後、ウェブサイトでの発表に先立って記者会見で公表したということであろう。

どのように政策を評価すべきか

 2024年12月に開催された党中央経済工作会議で、中国経済の課題は内需の不足であるとして、それまでの「穏健な金融政策」から「適度に緩和的な金融政策」へ転換し、金融緩和を進める方針が示された。その後、目立った金融緩和政策は実施されずに推移したが、今回、各種金融緩和政策が総動員された。

 金融政策の手段としては前出の3つの分野に加えて第4の分野として人民元為替レートのコントロールが挙げられる。4月25日の中央政治局会議では対外貿易安定の方針が挙げられている。これは輸出の拡大を意味しており、4月に入って人民元の名目実効為替レートを表すCFETS指数は大幅に人民元安となっている( 2025年4月のコラム 参照)。

 従って、今回の金融政策緩和パッケージによって人民銀行は利用可能な金融政策手段をすべての分野にわたって総動員したことになる。政策金利の引き下げ幅が0.1%ポイントにとどまり小幅すぎるとの見方もあろうが、経済の重点分野への資金供給を担う構造性金融政策手段については0.25%ポイントの引き下げが行われている。中国人民銀行としてできることはすべて実施したと評価することが可能であろう。今回の金融緩和政策パッケージがどのような効果をもたらすのか、今後の推移を見守りたい。

(了)


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