経済・社会
トップ  > コラム&リポート 経済・社会 >  File No.26-02

【26-02】金融緩和政策の発動

2026年01月28日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):帝京大学経済学部 教授

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。信金中央金庫、日本大学を経て2018年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)など。

 中国人民銀行は、1月15日に記者説明会を開催し、2025年の金融統計について説明した後、金融緩和政策の実施について公表した。本稿ではその内容について概観したい。

2025年の金融統計

 記者説明会では、人民銀行の鄒瀾副総裁が2025年の金融統計について、おおよそ以下の通り説明した。

 人民銀行は2025年に適度に緩和的な金融政策を実施した。貨幣金融環境が既に緩和的な状況の下、5月に金融緩和政策パッケージを実施した。年間の金融統計を見ると、この金融緩和政策が実体経済に与えた効果は明らかである。

 第1に金融総量が増加した。2025年中、社会全体の資金調達を示す社会調達規模残高は前年比8.3%の増加、広義マネーサプライM2は前年比8.5%の増加となり、名目GDP成長率を超えている。

 第2に資金調達コストが低下した。2018年下半期以降、人民銀行は累計10回にわたり、政策金利の引き下げを行った。2025年12月の新規企業貸出と新規個人住宅ローンの加重平均金利はどちらも3.1%前後であり、2018年下半期以降、それぞれ2.5%と2.6%低下した。

 第3に金融構造の改善が進んだ。科学技術、環境、包摂、養老、デジタルの5つの重点分野に対する貸出の増加率は全て二桁となり、貸出全体の増加率である6.2%を上回った。

 第4に金融市場が平穏に運行された。人民元のバスケット通貨に対する為替レートは2025年中、基本的に安定を維持した。債券市場を代表する10年物国債利回りは最近では1.8~1.9%前後で安定している。

金融緩和政策の実施

 続いて、鄒瀾副総裁は2025年5月以来8か月ぶりに金融緩和政策を実施することを公表し、その内容についておおよそ以下の通り説明した(昨年の金融緩和政策については 2025年5月のコラム 参照)。

 中央経済工作会議(2025年12月11~12日開催)において、2026年は引き続き適度に緩和的な金融政策を実施する方針とされた。現在の金融経済情勢の必要性に基づき、人民銀行は先行して2つの政策を実施することとした。第1は構造性金融政策手段(2023年3月のコラム 参照)の金利を引き下げることであり、第2は構造性金融政策手段の拡充である。具体的には次のとおりである。

①各種構造性金融政策手段の金利を0.25%引き下げる。1月19日から実施された。実施後、農業・零細企業支援再貸出の3か月物、6か月物、1年物の金利はそれぞれ0.95%、1.15%、1.25%、再割引金利は1.5%、担保付補完貸出(PSL)金利は1.75%、専用構造性金融政策手段金利は1.25%となった。

②農業・零細企業支援再貸出の限度額を5000億元(約11兆円)増加するとともに再割引の限度額と統合する。この結果、総限度額は4兆2500億元(約95兆円)となった。さらにその内訳として民営企業再貸出1兆元の枠を設け、中小民営企業への貸出を重点的に支援する。

③科学技術イノベーションと技術改造再貸出の限度額を4000億元増やし、1兆2000億元とし、対象範囲を拡大して研究開発投資水準が高い民営中小企業などを支援対象に含める。

④昨年5月に新設した科学技術イノベーション債券リスク分担手段と、従来からあった民営企業債券調達支持手段を統合管理し、合計で再貸出限度額2000億元を提供する。

⑤炭素排出削減支持手段の対象範囲を拡大し、省エネ改造、グリーン向上、エネルギー低炭素転換などより多くの項目を含める。

⑥サービス消費と養老再貸出の対象範囲を拡大し、健康産業を含める。

⑦金融監督管理総局と協働し、商業用住宅に対する住宅ローンの頭金比率を従来の50%から30%に引き下げる。

⑧金融機関に対し外国為替リスク回避サービスの水準を高めるよう促し、為替リスク回避商品を多様化し、企業に対し合理的なコストで弾力的で有効な為替リスク管理手段を提供することを促進する。

金融政策の今後の展望

 今後の金融政策についての記者からの質問に答え、鄒瀾副総裁はおおよそ次のように述べた。

 2026年に人民銀行は中央経済工作会議の決定に基づき、適度に緩和的な金融政策を引き続き実施する。

 第1に、国内外の経済金融情勢に応じて機敏かつ効果的に預金準備率引き下げや政策金利引き下げを含む多様な政策手段を実行する。流動性を充分な水準に維持し、社会の資金調達条件を緩和し、金融総量の合理的な増加をもたらし、社会調達規模残高とマネーサプライの増加率を経済成長率と物価上昇率予想値との合計に相当するものとする。

 第2に、金融政策の総量と構造の二重の効果を発揮させる。一連の構造性金融政策手段によって、金融機関が内需、科学技術イノベーション、中小零細企業などの重点領域に向けたサポートを拡大するよう誘導する。

 第3に、政策金利の誘導効果を発揮させる。金利政策の執行と監督を適切に実施し、金融機関の業界団体である市場金利自律機構の機能を発揮させる。それによって銀行が理性的に金利を設定する能力を向上させ、社会の総合的な資金調達コストが減少するよう誘導する。

 第4に、期待を適切に誘導できるよう、健全で信用のおける政策の波及メカニズムを制度化し、政策情報を多様な経路で提供して、金融政策の透明性を向上させる。

 預金準備率については現在、金融機関の平均は6.3%であり、依然として引き下げの余地がある。政策金利の引き下げについてみると、人民元為替レートは安定しており、米ドル金利は引き下げ過程にあり、為替レートは制約とならない。国内制約要因についても銀行の利鞘は2025年に入って落ち着いてきており、第2、第3四半期は1.42%を維持している。今回人民銀行が各種再貸出金利を引き下げたことによって銀行の調達コストを引き下げ、利鞘を安定させ、政策金利引き下げの余地を作りだしている。

今回の金融緩和政策をどのように評価すべきか

 今回の金融緩和政策は、中央経済工作会議が2026年の金融政策の方針として「引き続き適度に緩和的な金融政策を実施し、機敏かつ効果的に預金準備率引き下げや政策金利引き下げを含む多様な政策手段を実行する」と定めたことを受けて実施されたものであるが、預金準備率の引き下げや政策金利である7日物リバースレポ金利、さらにこれと連動する貸出市場報告金利(LPR)の引き下げは行われていない。今回は、「現在の金融経済情勢の必要性に基づき、先行して2つの政策を行う」、と説明されているので、今後、預金準備率や政策金利の引き下げが実施される可能性はある。

 今回、政策金利の引き下げが見送られたのは、銀行の利鞘縮小を避けたかったからであろう。現在、不動産市場の低迷などによって銀行の不良債権が増加しており、その償却が進められている。償却の原資となる銀行の利益を確保するために、銀行の利鞘を維持する必要がある。7日物リバースレポ金利やLPRを引き下げると、銀行の貸出金利が低下する。預金金利についても人民銀行は引き下げを指導しているが、それが貸出金利の低下に追いつかない場合、利鞘は縮小してしまう。今回の構造性金融政策手段の金利引き下げは、銀行の資金調達コストを引き下げ、それに見合った貸出金利の低下を促すことによって利鞘を維持しやすい。また、今回の措置で利鞘が確保されることが今後の政策金利引き下げの余地を生むと説明されている。

 構造性金融政策手段による人民銀行から銀行への信用供与の額は2025年3月末で5兆9千億元と、人民銀行から銀行に対する信用供与全体(17兆5千億元)の3分の1を超える。その金利が0.25%引き下げられたことはそれなりの効果を有する。一方で今後、政策金利の引き下げなど追加的な金融緩和措置が実施される可能性もある。金融緩和政策の効果を検討するためには、もうしばらく状況を見守る必要があろう。

(了)


露口洋介氏記事バックナンバー

 

上へ戻る