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中国人民銀行とグリーンファイナンス

2026年03月26日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):帝京大学経済学部 教授

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。信金中央金庫、日本大学を経て2018年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)など。

 中国人民銀行は2026年2月10日に、2025年度第4四半期中国金融政策執行報告を公表した。その中でグリーンファイナンスに対する取り組みについて述べられている。今回はその内容について考えてみたい。

中国人民銀行のグリーンファイナンスに対する取り組み

 今回の金融政策執行報告では、「グリーンファイナンスの質と効果を引き続き向上させ、経済社会のグリーン低炭素移行に貢献する」と題したボックスが設けられている。そこでは、第1に「グリーンファイナンスの基準体系を改善する」として、概要を以下のように述べている。

 グリーンの概念は幅広く、様々であるため、グリーンファイナンスによってサポートする範囲をはっきりさせ、金融コストを引き下げるためにも基準を明確にする必要がある。人民銀行と関係部署によって、2016年の「グリーンファイナンス体系の構築に関する指導意見」から2024年の「グリーン低炭素の発展に対する金融のサポートをさらに強化することに関する指導意見」、「グリーンファイナンスの作用を発揮し、美しい中国の建設に貢献することに関する意見」に至るまで、グリーンファイナンスの基準体系は進歩してきた。2025年版「グリーンファイナンスがサポートする項目の目録」では、グリーンローン、グリーンボンド、グリーン保険などの商品の標準が統一された。

 第2に「インセンティブメカニズムの改善」として、おおよそ以下のように述べられている。

 グリーンファイナンスの対象の多くは、投資額が多額で期間も長期にわたる一方、正の外部性を備えている。従って、適切な政策インセンティブを付与する必要がある。中国人民銀行は8000億元(約18兆円)の減炭素支持手段(減炭素に資する案件への銀行の貸出元本の60%について、人民銀行が1.25%の低金利で資金を供給する制度)を創設しクリーンエネルギー、省エネ環境保護、減炭素技術などの重要領域に対する信用供与が拡大するよう金融機関を誘導している。同時に、金融機関に対する評定方法を制定し、グリーンローン、グリーンボンド、組織整備、商品開発、炭素排出査定、情報公開などの諸点を評価指標に含め、金融機関がグリーン金融に対する総合的貢献能力を向上させるよう誘導している。

 第3に「部門間の協力と国際協力の強化」として概要を以下のように述べている。

 グリーンファイナンスの資金の有効な配分には、政策部門の協力と産業政策に対する政策の理解が必要である。中国人民銀行は、生態環境部(省)や、工業・情報化部などの産業部門と共同で政策規定を公表し、サポート領域などを明確化している。同時に国際協力面では、G20サステナブルファイナンスワーキンググループ(G20 SFWG)、サステナブルファイナンス国際プラットフォーム(IPSF)、気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)、一帯一路グリーン投資原則(GIP)などの国際プラットフォームや中英、中欧などバイラテラルなメカニズムで協力を進めている。

グリーンファイナンスの現状と今後

 続いて同ボックスでは、中国のグリーンファイナンスの現状について、おおよそ以下のように述べられている。

 2021年から2025年までの第14次5か年計画期間中、グリーンローンは年平均30.2%増加し、全貸出の増加率を21.1%ポイント上回った。グリーンローン残高の全貸出残高に占める比率は6.7%から16.2%に増加し、2025年末の残高は44.8兆元となった。グリーンボンドの累計発行額は5.2兆元となり、2025年末残高は2.4兆元、2020年末比1.8倍、世界第2位の水準となった(米国が第1位)。

 次に中国人民銀行の今後の方針として、以下の3点が挙げられた。

 第1に金融機関の炭素排出査定と持続可能性情報の公開を着実に促進する。第2に健全なグリーンファイナンス商品と市場システムの構築を進め、人民銀行の減炭素支持手段の改善について研究し、より広範な減炭素効果を持つ産業分野を対象範囲に含める。第3に政策協調をさらに進め、産業、財政部門との協力を強化し、産業部門の専門知識を活かして基準の認定を促進する。また財政部門とは、利子補填やリスク分担などについて協力を行う。

 なお、今回の報告の公表後、中国では3月5日から12日に開催された全国人民代表大会で採択された第15次5か年計画において、2030年までのカーボンピークアウトが再確認され、グリーン金融の強化が重要課題の一つと位置付けられた。

日本と中国の金融協力

 世界的な脱炭素化の金融面の仕組みとして、再生エネルギーなど炭素排出量が少ない産業への信用供与を意味するグリーンファイナンスに加え、2020年代に入って、現在炭素排出量が多い産業が低炭素に移行するために必要な投資に対して信用供与するトランジションファイナンスが注目されるようになった。現時点で炭素排出量が多い産業に金融機関が信用供与すると、その金融機関が多量の炭素排出を行っていると認定されてしまう。そのような信用供与が将来炭素排出量の減少に確実につながることを保証し、炭素排出量の計算から除くことがトランジション・ファイナンスの考え方である。国際市場協会(ICMA)が2020年12月に公表した国際原則を踏まえて、各国が国内向けの指針の策定を行っている。日本では金融庁・経済産業省・環境省が連名で2021年5月に「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」を公表し、この分野に注力している。経済産業省では鉄鋼分野、化学分野、自動車分野など8つの分野別に「トランジション・ファイナンス推進のロードマップ」を策定し、資金使途が適格かどうかの参考となる基準を提供している。このような基準は各国毎の実情に即しつつも国際的な整合性が求められる。日本政府は2022年1月にアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)の設立を提唱し、日本、オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの11か国が参加して、2023年3月に第1回閣僚会議が開催された。ここで、トランジション・ファイナンスを進めていく方針が示されており、今後、AZECの枠組みの下で脱炭素化への協力とともに、金融面の基準のすり合わせが進められる。

 中国では、前述の「グリーンファイナンスがサポートする項目の目録」においてトランジション・ファイナンスも取り入れられているが、よりグリーンに重点が置かれている。AZECに中国は含まれておらず、日本との間では前述のG20 SFWG、IPSF、NGFSなどにおいて間接的な調整がみられるにとどまっている。

 中央銀行間では、オーストラリア、中国、香港、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、タイの11か国・地域の中央銀行・通貨当局が参加する東アジア・オセアニア中央銀行役員会議(EMEAP)という枠組みが存在する。EMEAPでは2003年に各中央銀行・通貨当局が資金を拠出し参加各国・地域が発行する債券に投資するアジアボンドファンドを組成し、2021年以降グリーンボンドへの投資を行っている。このような活動を通じて、脱炭素金融面において日本と中国を含めた国際的な協力・調整がより強化されることが期待される。

(了)


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