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中国の食料自給率は世界第63位

SSFSSR法による中国食料自給率の測定(第4回)
中国の食料自給率は世界第63位

2026年03月31日

高橋五郎

高橋五郎: 愛知大学名誉教授(農学博士)

略歴

愛知大学国際中国学研究センターフェロー
中国経済経営学会前会長
研究領域 中国農業問題全般

1.国際比較可能な食料自給率計測方法(SSFSSR)

 食料自給率はグローバルな学術的・実務的な用語であり、第3回 で取り上げた「食料自給率計算方法の10原則」に照らし、国際比較可能性を確保することが最低の条件で、そのために、使用するデータ、方法に統一性が求められることはその際にも述べた。

 一国、例えば中国でしか通用しない食料自給率の計算方法は、額面は同じだが手の込んだ偽造紙幣のようなもの、とみなされてもおかしくはなかろう。このような問題を克服するために開発されたのが「サプライサイド食料自給率(SSFSSR)」[1]で、今回は、この方法についてその要諦を紹介したい。

 今回はこの方法で中国の食料自給率を測定する。その変動の背景に何があるのか等を含めた詳しい考察については、次回に取り上げたい。

 まず、サプライサイド食料自給率(SSFSSR)の仕組みの要諦を説明したい。

 従来の食料自給率の方法は第3回までに概説したように、基本的には、中国人が「食べた食料」(経口食料)を対象に、そのうちの国産率を求めるという考え方に立っている。この方法は食料自給率の計算の際、データの推定に推定を重ね、実務的にも、正確な実態の捕捉には難点を伴うと言えるものである。しかも、計算の対象品目は限られ、穀物だけを対象とし、あらゆる穀物の品目上の差異を無視して重量を単位とするものが中心的な方法だった。

 これに対してサプライサイド食料自給率は、マクロ的視点から「輸入」を含む「供給」、そして「国産」を食料品目それぞれの特質を反映しながら、数量的にしっかり把握することを通じて、ロスも滞貨も含まれる中国の食料の年間における「出し(供給)入れ(国産+輸入)」を残さず把握して計算するものである。

 ここには「飼料自給率」や食べた食料を国産と輸入にどう分けるか、と言った恣意的・操作的な所作が介入する余地は皆無である。

 これによって、中国の食料自給率が世界のどのような位置にあるのかも知ることができる。2023年の例では、データが揃う176カ国中63位であることがわかる。

 以下は、この方法のポイントである。

①すべての食料単位は重量ではなくカロリーであること、

②食料自給率の具体的な計算方法、

③対象品目は64の食料であること、

④対象品目を一次産品(44の食料)と二次産品(20の食料)に分けること、

⑤一次産品の重量単位当たりカロリー(Kcal/㎏)を固定的に用いること、

⑥二次産品のカロリーを「一次産品還元率(PPCR)」[2]という係数を用いてその原料に当たる一次産品のカロリーに戻すこと、

⑦二次産品を計算するのは輸入部分のみであること(国産の二次産品を無視するのは、その部分はその原料に当たる国産の一次産品に含まれており、ダブルカウントになるため。仮に輸入一次産品が「国産」の二次産品に供されているにしても、当該一次産品は輸入品目としてとして加算され、定義上の供給に含まれ、すでにカウントされている)、

⑧使用するデータは国連の統計、「食料バランス(Food balances2010-)」[3]に統一されていること、である。

 次に、上の①~⑧について紹介する。

(1)食料自給率計算の単位はカロリー

 食料自給率計算の下となる共通の単位には、筆者もさまざま試したが、重量かカロリー以外にない。カロリーは、重量に無関係に食料ごとに独立した指標として用いることができる。ただし重量は異質の食料を計る方法としては無意味で、重量がだめならタンパク質という方法もあるが、その個々の食料ごとの量を計ることは難しく、しかも重要な食料の一つである食用油には、タンパク質がその原料の如何にかかわらず存在しない。金額を単位に取る例もなくはないが、生産国が異なる国産品と輸入品を、金額(ドル、人民元いずれでも)で並べることと同じく意味がないと言える。

 注意すべきは、一次産品の品目別のカロリーは表1で示される通り既知(FAO等の調査)であるが、二次産品のカロリーは、例えば牛肉1kg当たりカロリーをそのまま用いても意味がない点である。

表1 二次産品PPCR(20品目)
ソース:農林水産省、東都生協、食用油メーカー、筆者調査他.
品目 PPCR
牛肉 11
豚肉 6
鶏肉 4
羊肉 2
その他の肉類 4
鶏卵 2
牛乳・乳製品(バターを除く) 1
バター・ギー 1
トウモロコシ胚芽油 2.2
大豆油 5.5
落花生油 2.5
ひまわり油 5
ごま油 2.1
なたね油・からし油 2.8
パーム核油 2
オリーブ油 4
その他の植物油 3.4
綿実油 6.1
ココナッツ油 1.4
砂糖(粗糖換算) 8

 牛肉1㎏を生産するには、トウモロコシ3,500カロリー程度を要するが、牛肉(ヒレ肉)1㎏自体のカロリーは1,800カロリー程度に過ぎない。食べた名目上のカロリー自体は1,800カロリーだが、実質的な消費は飼料(=穀物)を通じたものであるべきで、3,500カロリーとなる。したがって、20品目の二次産品すべてを牛肉の例のように、実質的な消費カロリーを求めて、それを採用しなければ、形而下的・論理的な一貫性は崩れるだろう。

 ところが牛肉の飼料(二次産品)を一次産品(主要品目のトウモロコシ)のカロリーに還元するには、一つの特別な手段が必要である。その手段がこれまで中国だけでなく、内外で用いられることのなかったPPCR(一次産品還元率)である。

(2)サプライサイド食料自給率の計算方法(計算式)

 次が計算式であるが、こんなふうなものだと思っていただくつもりで掲げる。これで、データさえ揃えば、世界中の食料自給率が計算できるのが利点ではないかと考えている。

image
 

 以下、分子、分母に分けて、それぞれを説明したい。

1)分子

 分子は食料の国内生産全体をカロリーで表示したものである。その具体的な手順は以下である。

∑i=1k(dwi×Ci): i:64品目それぞれのこと、k: 一次産品品目の数(44)、dwi: i番めの一次産品品目の国産重量、Ci: i番めの一次産品品目のkcal/kg(例えば、米だと3600kcal)

2)分母

 分母は供給を一次産品と輸入二次産品の合計をカロリーで表示したものである。計算に使用するFAOのデータの供給には二次産品が計上されているが、これは、輸入部分と国産部分が混在したものなので、二次産品は供給から取り除き、輸入部分として区分計上されている二次産品を対象に、一次産品に還元後、供給に戻した。これで国産部分を控除でき、二次産品のダブルカウントが回避できる。

 分母は二つの部分からできている。

①一次産品供給総カロリー
∑i=1m(wi×Ci) :m: 一次産品供給品目の数(44)、wi: i番めの一次産品品目の供給重量(供給重量kgに、当該品目1kg当たりkcalを乗じたもの)

②二次産品供給総カロリー
∑i=1n(wi×Ppcri×Ci): n: 供給二次産品品目の数(20)、Ppcri: i番めの二次産品品目のPPCR(表3)

 以上の計算例は、上掲の拙文の中で、オーストラリアの食料自給率がケーススタディとして示されているので、参照していただきたい。

(3)対象品目(一次産品と二次産品)

 対象となる品目は表2の64品目、うち一次産品44品目、二次産品20品目である。

表2 対象品目(64品目)
ソース:品目はFAOSTATを筆者和訳.
区分 品目
一次産品 大麦とその製品
トウモロコシとその製品
アワ・キビ類とその製品
オート麦
米とその製品
ライ麦とその製品
モロコシとその製品
小麦とその製品
その他の穀類
トマトとその製品
サツマイモ
タマネギ
ジャガイモとその製品
ヤムイモ
その他の根菜類
キャッサバとその製品
その他の野菜
大豆
豆類
その他の豆類とその製品
エンドウ
ナッツ類とその製品
落花生
りんごとその製品
バナナ
グレープフルーツとその製品
ぶどうとその製品(ワインを除く)
オレンジ・マンダリン
パイナップルとその製品
サトウキビ
テンサイ
ひまわり種子
ごま種子
なたね・からし種子
パーム核
オリーブ(保存加工品を含む)
その他の油糧作物
綿実
ココナッツ(コプラを含む)
水生植物
浮魚類
淡水魚
底魚類
その他の水生動物
二次産品 牛肉
豚肉
家禽肉
羊肉
その他の肉類
鶏卵
牛乳・乳製品(バターを除く)
バター・ギー
トウモロコシ胚芽油
大豆油
落花生油
ひまわり油
ごま油
なたね油・からし油
パーム核油
オリーブ油
その他の植物油
綿実油
ココナッツ油
砂糖(粗糖換算)

 主な一次産品は穀物が小麦、大麦、トウモロコシ、米、大豆など、青果物がトマト、ネギ類、果物類、薯類(中国では、穀物に分類)、キャッサバなど、油糧植物として菜種、ヒマワリ、落花生、綿実など、そしてビート等砂糖原料、主要魚介類(植物を含む)、主な二次産品は畜産物が牛肉、豚肉、羊肉、鶏肉、鶏卵、乳製品、食用油が菜種油、ヒマワリ油、落花生油、綿実油、大豆油、そして砂糖等である。

 世界中の人々が日常的な食料としている品目は、香辛料・調味料・はちみつなどを除き、ほぼ全体が網羅されている(アルコール類も非対称)。

(4)一次産品へのカロリー還元率(PPCR:Primary Product Conversion Rate)

 次に、当該二次産品の原料である一次産品への還元率(PPCR)についてである。二次産品はそれぞれの原料である一次産品に還元されるが、畜産物は飼料の主要成分であるトウモロコシ、食用油では菜種油は菜種の種子、大豆油は大豆、落花生油は落花生、ヒマワリ油はヒマワリの種子、砂糖ではビート、シュガーケーン(サトウキビ)などとして還元される。

表3 一次産品カロリー(44品目)
ソース:FAO.
品目 kcal/kg
大麦とその製品 3,460
トウモロコシとその製品 3,560
アワ・キビ類とその製品 3,400
オート麦 3,850
米とその製品 3,600
ライ麦とその製品 3,190
モロコシとその製品 3,430
大豆 3,350
小麦とその製品 3,340
その他の穀類 3,400
トマトとその製品 670
サツマイモ 920
タマネギ 310
ヤムイモ 1,010
その他の根菜類 910
その他の野菜 220
ジャガイモとその製品 670
キャッサバとその製品 1,090
その他の豆類とその製品 3,400
豆類 3,460
ナッツ類とその製品 2,620
落花生 5,670
エンドウ 3,410
りんごとその製品 480
バナナ 600
グレープフルーツとその製品 160
ぶどうとその製品(ワインを除く) 530
オレンジ・マンダリン 640
パイナップルとその製品 260
ひまわり種子 3,080
サトウキビ 500
テンサイ 500
ごま種子 5,730
なたね・からし種子 4,940
パーム核 5,140
オリーブ(保存加工品を含む) 1,750
その他の油糧作物 3,870
綿実 2,530
ココナッツ(コプラを含む) 1,840
浮魚類 860
淡水魚 690
底魚類 420
その他の水生動物 1,360
水生植物 540

 一次産品還元率(PPCR)は二次産品ごとに表3に記載してあるが、例えば牛肉の輸入量=1,000㎏だとすると、次のように、還元された39,160,000カロリーを一次産品のトウモロコシの供給カロリーとして他の供給カロリーに加算される。

1,000㎏×飼料(トウモロコシ)1㎏当りカロリー(3,560kcal)×PPCR(牛肉の場合11)=3,560,000kcal×11=39,160,000kcal

(5)使用データ

 本食料自給率の計算のデータはFAOSTAT掲載の国内供給、国内生産、輸入であり、二次産品の扱い方には留意すべき点がある。それは、二次産品は国内供給及び国内生産の計上を避け、輸入のみを計上するという点である。

 FAOSTATには、二次産品が、たしかにそれぞれの品目が国内供給、国内生産として掲載されているが、それらは、一次産品の形をもって、すでに国内供給及び国内生産としても計上されている。にもかかわらず、二次産品それぞれを国内供給及び国内生産として計上すると、それを生産するために投じられた原料(一次産品)とともに、供給・生産に加えられてしまうことになる。これは重複計上に当たる。

 他方、輸入された二次産品それぞれの品目は、PPCRを用いて、当該原材料に当たる一次産品に換算した後、当該年次分として国内供給に加算する。

(6)PPCRをいかに下げるか・・・・一つの重要な視点

 上掲のサプライサイド食料自給率(SSFSSR)の計算式で、キーポイントの一つとなるのが一次産品還元率(PPCR)である。計算式から理解できるように、この式の分母のPpcri(ある二次産品、例えば牛肉の還元率)をPpcr(1-R)iとおくと、PPCRをRパーセント低下させると分母はその分小さくなること、すなわち食料自給率がその分に応じて上昇することが分かる。

 言い換えれば、原料である一次産品を使って二次産品を作る際、その作り方を効率化することで、食料自給率は上昇することをこの式は示している。

 つまり中国に限ったことではないが、この点をいかに改良するかという点が、農業現場や食料の加工現場における課題であることが浮かび上がる。

2.SSFSSRによる中国の食料自給率の動向...低下傾向が顕著

 以下では、サプライサイド食料自給率(SSFSSR)の計算をすると、中国の食料自給率が低下傾向にあることは疑う余地がないことに焦点が当てられる。この点については、第1回 でも紹介したが、その後2023年のデータがFAOによって公開されたのでこれに基づく食料自給率を加え、さらにこれを機会に、2021年の食料自給率を新たに加えることとした。

表4 中国の食料自給率推移
ソース:高橋試算による.
年次 自給率
2010 88.8 (%)
2015 88.9
2020 75.4
2021 74.1
2022 75.3
2023 78.5

 そこで2010年以降のおおまかな様子を示す表4によれば、2010年にはまだ90%近い88.8%、その5年後の2015年も88.9%と高い水準にあった。ところがさらにその5年後の2020年になると75.4%に急落、以後、2021年74.1%、2022年75.3%、2023年78.5%と70%台に落ち込んでいることが、あらためて確認できよう。

 ちなみに、国の規模が大きく異なることもあり、中国の食料自給率の1%は、日本の食料自給率に換算すると14.6%分に当たる。影響が大きいのである。

 世界の食料需給がタイトであることを条件に、中国が日本を上回る購買力を使って食料自給率を1%下げると(必要な食料の1%分に相当する量の輸入を増やすと)、日本の食料自給率自体が14.6%上がる。とはいっても、良いこととはいえない。

 たとえば、現在の日本の食料自給率が20%とすると、その結果は34.6%になる、すなわち輸入していた、必要な食料の14.6%を国産で補う必要が生じることになる。これを国内調達できないと、日本人はその分を食べられなくなる恐れが生じるということである。中国の食料自給率の動向は、日本にとっても無縁ではない。

 何が起きるか分からない世の中であることから、世界の食料需給事情が切迫してくると、あながち机上の話としてスルー出来ないと思われる。

 ところで、食料自給率というものは短期間に上下に大きく動く性格のものではないのだが、中国の食料自給率が、2015年から2020年の比較的短期間に10%ポイント以上もの低下となったことは、かなり異常なことと言える。この頃に起きた新型コロナが影響したとも考えられるが、それが収束した2022年あたりになっても2015年頃の水準に戻っていないことに注目すると、確かに新型コロナの影響も否定できないが、もしかしたら、もっと別の構造的な理由があったとも考えられる。この点は、次回に記したい。

 ここ数年、日本の食料品価格は下がることを知らないが、国際食料市場における中国との競争の結果、日本の買い負けという事態も背景にあるのではなかろうか。


1 https://doi.org/10.1186/s40066-025-00570-z(英文)

2 PPCR:Primary Product Conversion Rate。ソースは米国農務省、日本農水省、日本農畜産業振興機構、食用油メーカー、筆者による北海道牛乳生産農家調査から得た。

3 https://www.fao.org/faostat/en/#data/FBS


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