中国、「2025年国民経済・社会発展統計公報」を公表
松田侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー) 2026年04月06日
中国国家統計局は2月28日、「2025年国民経済・社会発展統計公報」を公表した。2025年は中国の第14次五カ年計画(2021~2025年)の最終年に当たり、中国経済および科学技術政策の成果を確認する上で重要な節目である。
1 GDP成長と需要構造
統計公報によれば、2025年の中国の国内総生産(GDP)は140兆1879億元(1元=約23円)となり、前年比5.0%の成長を記録した。近年の中国政府が掲げる「5%前後」の成長目標にほぼ沿う結果となっている。
産業別に見ると、第1次産業は9兆3347億元(前年比3.9%増)、第2次産業は49兆9653億元(4.5%増)、第3次産業は80兆8879億元(5.4%増)であった。GDPに占める比率はそれぞれ6.7%、35.6%、57.7%となり、サービス産業が過半を占める構造が定着している。
需要面から見ると、最終消費支出がGDP成長に2.6ポイント寄与し、純輸出が1.6ポイント、資本形成が0.8ポイントの寄与となった。消費の寄与が最大ではあるものの、依然として外需や投資が一定の役割を果たしている点は、中国経済の特徴として注目される。
四半期別の成長率は、第1四半期5.4%、第2四半期5.2%、第3四半期4.8%、第4四半期4.5%と、後半にかけてやや減速する傾向が見られた。これは不動産市場の調整や外需環境の変化などが背景にあると考えられる。
2025年の一人当たりGDPは9万9665元で、前年比5.1%増加した。また、労働生産性(就業者一人当たりGDP)は18万4413元で、前年比6.1%上昇している。
2 産業構造と「新質生産力」
近年、中国政府は「新質生産力」という概念を強調している。これは、先端技術やデジタル化を基盤とした新しい産業発展モデルを指す。
統計公報によれば、一定規模以上の工業企業において装備製造業の付加価値は前年比9.2%増加し、工業全体に占める比率は36.8%となった。企業利益も7.7%増加しており、製造業の高度化が進んでいることがうかがえる。
また、ハイテク製造業の付加価値は9.4%増で、工業全体に占める比率は17.1%となった。企業利益は13.3%増と、一般製造業を上回る成長を示している。デジタル製品製造業も9.3%増となり、全体に占める比率は12.5%に達した。
具体的な生産品目を見ると、サービスロボットの生産は1858万台で前年比16.1%増、通信基地局設備は13.5%増、サーバー生産は12.6%増と、デジタルインフラ関連製品の伸びが目立つ。
サービス業でも、戦略的新興サービス業の売上は9.3%増、ハイテクサービス業は7.9%増となった。電子商取引の取引額は46兆7339億元、ネット小売額は15兆9722億元に達しており、中国のデジタル経済が依然として大きな規模を維持していることが分かる。
さらに、固定資産投資のうち、設備・機器投資は前年比11.8%増と大きく伸びた。これは企業の設備更新や産業高度化投資が続いていることを示している。
3 研究開発投資と科学技術活動
科学技術分野では、研究開発(R&D)支出は3兆9262億元となり、前年比8.1%増加した。GDPに対する比率は2.80%であり、先進国に近づく水準となっている。
特に基礎研究支出は2778億元で、前年比11.1%増と比較的高い伸びを示した。ただしR&Dに占める比率は7.08%であり、依然として応用研究や開発研究の比率が高い構造となっている。
国家自然科学基金(NSFC)は年間5万8800件の研究プロジェクトを支援した。これは中国の基礎研究支援制度の中核を担うプログラムである。
また、国家工程研究センターは207カ所、国家発展改革委員会が認定する企業技術センターは1921カ所となり、研究開発拠点の整備が進んでいる。
研究成果の事業化支援としては、国家科技成果転化引導基金が累計36のサブファンドを設立し、総規模は624億元となった。
4 知的財産と技術市場
知的財産の面では、2025年に付与された発明特許は97.2万件で、前年比7.0%減となった。一方で、有効発明特許数は631.8万件となり、前年比11.1%増加している。人口1万人当たりの高価値特許数は16件であった。
また、国際特許出願(PCT)は7.8万件であり、中国企業の国際展開の広がりを示している。
技術市場も拡大している。2025年には技術契約が104万件締結され、取引額は7兆5734億元となり、前年比10.8%増加した。
5 教育と人材
教育分野では、大学院入学者は143.8万人、在学者は430万人となった。高等教育全体の在学者数は3954万人に達しており、中国の高等教育の大規模化が続いている。
義務教育の定着率は96.1%、高校段階の進学率は92.0%となった。16~59歳人口の平均教育年数は11.3年で、前年より0.1年増加している。
これは中国の人的資本水準が徐々に向上していることを示している。
6 科学技術の象徴的成果
2025年には宇宙打ち上げが92回行われ、そのうち商業打ち上げは50回であった。小惑星サンプルリターンを目指す天問2号ミッションも開始された。
また、超伝導量子計算機「祖沖之三号」、核融合装置による「億度千秒」記録、AI大モデルDeepSeekの登場など、先端科学技術分野でもいくつかの象徴的成果が報告されている。
以上の統計から見えるのは、中国経済が単なる減速ではなく、成長モデルの転換期にあるという点である。2025年のGDP成長率は5%と安定的な水準を維持しているが、その内訳を見ると、消費の寄与拡大、設備投資の増加、ハイテク製造業やデジタル関連産業の成長など、従来の不動産・インフラ中心の成長とは異なる構造が浮かび上がる。また、研究開発投資の拡大や基礎研究の強化、技術市場の拡大、高等教育の規模拡大などは、中国が科学技術を軸とした発展モデルを志向していることを示している。他方で、人口減少の進行や国際的な技術競争の激化といった課題も存在する。こうした状況の下で、中国は「新質生産力」や「科技自立自強」といった政策理念を掲げ、産業高度化と技術能力の強化を通じて持続的成長を図ろうとしているといえる。
2025年の統計公報から見える中国の姿は、単なる経済成長の国ではなく、科学技術と産業高度化を軸に発展を目指す国家である。GDP成長率はかつてより低下しているものの、研究開発投資の拡大、先端産業の成長、人的資本の蓄積などを背景に、中国のイノベーション能力は着実に強化されている。第14次五カ年計画の最終年に当たる2025年は、中国が「量的拡大」から「質的発展」へと移行する過程を示す一年であったといえるだろう。
参考資料
- 中華人民共和国中央人民政府「中华人民共和国2025年国民经济和社会发展统计公报」
- 中華人民共和国中央人民政府「攻坚应变顶压前行 稳中有进向新向优----《2025年国民经济和社会发展统计公报》评读」
