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金融法草案の公表

2026年04月28日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):帝京大学経済学部 教授

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。信金中央金庫、日本大学を経て2018年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)など。

 中国人民銀行は政府関係部門と連名で3月20日に金融法草案を公表し、パブリックコメントを求めた。今回の草案の内容について検討したい。

金融関連法案のこれまでの状況

 中国では金融に関係する法律について、2020年から改正や新たな制定の動きが相次いで見られた。まず、商業銀行法の改正草案が2020年10月16日に、また、中国人民銀行法の改正草案が2020年10月23日に、それぞれパブリックコメントを求めて公表された。商業銀行法の改正草案では、対象となる銀行の類別が明示され、農村合作銀行や財務公司が商業銀行業務を行う場合、同法の対象となることが明示されたり、コーポレートガバナンスに関する章を新設して取締役会の権能を強化している。中国人民銀行法の改正草案では、主要職責として、それまで「国務院が決定するその他の職責」とされていたのが、「中国共産党中央、国務院が定めるその他の職責」と改められたり、発行する通貨である人民元には、実物形式に加えデジタル形式を含むとする条項が加えられた。

 一方、2022年4月6日、人民銀行は金融安定法草案を公表し、パブリックコメントを求めた。その後、2024年6月30日には第2次草案が公表された。金融安定法は、金融分野の監督管理が分野別であるとカバーできない部分が生じるため、金融全体をカバーすることを目的にしている。第2次草案では業態別監督ではなく金融商品の機能に合わせた機能別監督が取り入れられている。

 また、2022年11月11日に銀行保険監督管理委員会(現国家金融監督総局)は銀行業監督管理法の改正草案を公表した。監督管理の対象を銀行の主要株主や会計事務所、法律事務所など銀行業に関係する第三者機関にまで拡大することが提示されている。

 なお、証券法は2020年3月に、保険法は2024年10月に、それぞれ最新の改正版が施行されている。これらは証券業、保険業に対する監督管理についても定めている。

 この間、2023年3月には、中国共産党に中央金融委員会と中央金融工作委員会が設立された。中央金融委員会は、金融安定や金融面における重要な政策を決定し、中央金融工作委員会は金融機関に対する政治指導や規律監督を担当する。これに伴い、2017年に金融監督当局間の調整を図るために設立された国務院金融安定発展委員会は、2023年10月に廃止され、金融監督や金融政策に関する決定権限は、国務院から共産党中央に実質的に移管された。

 そして、2023年10月には、5年に1度の中央金融工作会議が開催された。そこでは、共産党中央の金融分野に対する統一的指導の必要性が強調され、そのもとで良好な通貨金融環境を作り、金融政策手段を充実させることや、金融監督の強化を行い金融リスクの防止と縮減を進めることが求められた。そして、中央金融委員会と中央金融工作委員会の機能を十分発揮することが要求された。

 2026年3月に開催された中国の国会に当たる全国人民代表大会では、2026年中の任務として、金融法、金融安定法の制定、中国人民銀行法、銀行業監督管理法の改正を挙げている。

金融法草案の公表

 以上のような経緯を経て、今回の金融法草案が公表された。3月20日から4月19日までの間にパブリックコメントを求めるとされている。

 同草案には「草案の説明」と題された文章が付されている。そこには、現状では金融領域で依然として多くのリスクが存在し、実体経済に貢献する能力も不足しており、金融法律体系の協調が欠けているため、基礎的な法律が必要であることが示されている。そして草案を貫く考え方として、共産党の金融分野に対する集中的かつ統一的な指導、金融領域の基礎的法律、総体的発展と安全の3点が挙げられている。

 同草案は全11章95か条からなる。第1章「総則」では共産党中央の金融分野に対する集中的かつ統一的な指導による中国独自の金融システムの構築が挙げられている。

 第2章「中央銀行」では、中国人民銀行が中国の中央銀行であり、金融政策の制定と執行、マクロプルーデンス政策の実施、金融安定の保持に対する責任を負うとして、人民銀行の職能がより簡潔、明瞭に定められている。従来の中国人民銀行法やその改正法案にみられる「国務院の指導の下」という表現がなくなっており、中国共産党中央の直接の指導の下にあるという形になっている。また、人民銀行法改正草案に含まれていた「人民元には実物形式に加えデジタル形式を含む」という表現がこの章に記載されている。

 第3章「金融機関」では、金融機関という幅広い括りで設立や退出、その経営管理、国務院金融管理部門が承認した範囲で活動を行うこと等が定められている。全ての金融機関には共産党組織を設立することが求められている。

 第4章「金融商品とサービス」では、それらを金融機関、その他法人、非法人組織が契約などによって金融活動として提供する商品とサービスと幅広く定義し、それらは法規に従って提供されなければならないと定められている。

 第5章「金融市場」、第6章「金融インフラストラクチャー」では、金融市場安定メカニズムや金融インフラの運営主体のリスク管理制度などが定められている。

 第7章「金融監督管理」では、金融監督管理制度が金融分野全体をカバーすること、同種の金融活動に対しては同じレベルの監督管理を実施することなどが定められている。

 第8章「金融リスク処理」では、市場の力と法治という原則に基づき処理が行われるべきであること、管財人の指定や業務許可の停止など具体的な処理方法などが定められている。

 第9章「金融発展と安全」では、国家が奨励する科学技術分野、グリーン金融分野、金融包摂分野、養老分野、デジタル分野に金融資源を誘導すること、金融分野の政策と財政、就業、産業政策などの協調を図り、政策全体の効果を引き上げるべきことなどが定められている。

 第10章「法律責任」では、本法規の違反に対する処罰について定められている。

 第11章「附則」では、法律内で使用される言葉の定義や政策性金融機関、外資系金融機関などに本法律を適用することなどが定められている。

本草案に対する暫定的評価

 金融法は金融分野全体にわたる基本法と位置付けられており、人民銀行や幅広い金融機関、金融商品などについて基本的事項が定められている。本草案がパブリックコメントに付されたことで、まずは金融法とそれと並行して金融監督管理全体について定める金融安定法を制定し、その後人民銀行法や銀行業監督管理法の改正が行われるものと見られる。さらに改正作業が停滞している商業銀行法をはじめ、証券法、保険法など各業態の法規も必要に応じて改正される可能性があろう。

 金融法草案では共産党中央の指導が大幅に強化されており、金融分野において市場メカニズムを歪め、効率を損なうリスクがある。一方、金融分野全体を対象とする基本法を整備すること、金融安定法でもみられる金融商品の機能別規制を行うことについては、日本にとっても示唆的である。日本では2007年に投資性の強い金融商品について業態横断的な規制を行う金融商品取引法が成立した後も、依然として基本的には業態別の規制が行われている。日本でも金融分野全体をカバーする基本法の制定を考えるべきではないだろうか。

(了)


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