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中国の国際収支の過去5年間の動き

2026年05月26日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):帝京大学経済学部 教授

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。信金中央金庫、日本大学を経て2018年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)など。

 中国人民銀行は5月11日に2026年第1四半期の中国金融政策執行報告を公表した。今回の報告書には過去5年間の国際収支の動向に関するボックスが設けられている。その内容について検討したい。

経常収支は安定した増加を示している

 今回のボックスは「我が国の国際収支の変動の特徴と影響」と題されている。3月27日に国家外貨管理局が公表した「2025年中国国際収支報告」の数字にも触れながら、その概要を見てみたい。

 2025年の経常収支は7,350億ドルの黒字(中国語では「順差」)となり、外貨準備を除く金融収支は-8,201億ドルと赤字(同「逆差」)で、経常収支の黒字で流入した資金が金融収支において対外投資に運用される形となっており、国際収支はほぼ均衡している。外貨準備は468億ドルの黒字、誤差脱漏は385億ドルの黒字と比較的少額であった。

 過去5年間(2021年~2025年)の経常収支受払合計は7.8兆ドルとなり、その前の5年間(2016年~2020年)に比べて42%増加し、年平均の経常黒字額は4,312億ドル、GDP比で2.3%となった。

 財の貿易は力強く増加している。過去5年間の輸出入合計はその前の5年間に比べ47%増加した。中国の完備された産業体系は海外の需要に適応し、製造業の付加価値がGDPに占める比率は世界トップクラスにあり、全世界のサプライチェーンの安定をもたらしている。

 サービス貿易も安定した増加を示している。2025年のサービス貿易輸出入合計は1兆75億ドルで、2021年比44%の増加となった。サービス貿易の赤字は-2,381億ドルに達し、中国は世界トップレベルのサービス貿易赤字国となった。サービス輸入需要は旅行、知財、金融、商業サービスなど多くの領域におよび、輸入先は主に欧米先進国であり、それらの国々のサービス業に安定した市場を提供している。

金融収支は経常収支に対応して対外投資が増加している

 過去5年間、外貨準備を除く金融収支の年平均赤字額は-3,742億ドルであり、経常収支の黒字4,312億ドルとおおよそ対応している。

 過去5年間、中国の対外投資は年平均-5,037億ドルと急速に増加し、その前の5年間に比べ11%増となった。その結果2025年末の対外資産残高は11.8兆ドルと5年前と比べて33%増加した。そのうち、対外直接投資残高は3.6兆ドルで世界190の国と地域にわたり、現地の就業増加と産業発展に貢献している。対外証券投資とその他投資はそれぞれ2兆ドル、2.4兆ドルで120の国家と地域に資金を供給している。

 外資の対中投資は安定しており、2025年末の対外負債残高は7.7兆ドルと5年前と比べて17%増加した。この結果対外純資産残高は4兆713億ドルと、日本(約3.6兆)を抜いて世界第2位となった(第1位はドイツの4.3兆ドル)。

 対外負債の内訳をみると、対中直接投資残高は4兆ドルで構成比は52%、中国はグローバル企業の対外投資の重要な対象となっている。対中証券投資残高は2.4兆ドルで、5年前と比べて20%増加し、構成比は30%に上昇した。金融市場の開放を進め、外資の投資チャンネルを拡大し、外資の人民元資産保有を促進している。

国内経済の質の高い発展と対外開放の拡大

 中国の対外貿易は輸出の安定的な増加と輸入の拡大が相まって発展している。中国の対外貿易競争力は強く、輸出に強靱性を与えている。中国は世界第2位の消費市場であり、今後もより多くの高品質商品の世界からの輸入が進む。輸入の拡大と安定した輸出の増加によって、よりよい貿易バランスが促進されるだろう。

 国内企業は引き続きグローバルに多元化を推進し、対外投資は平穏で秩序立った発展を示すだろう。また、地域の実情に応じて革新的製品の生産を発展させ、高水準の対外開放を着実に拡大し、地域の経済・貿易協力を積極的に広げ、今後も引き続き外資の対中投資や人民元資産への投資を促進していく。

国際収支構造の改善が進んだ

 以上が今回のボックスの概要であるが、注意すべき点を2点指摘したい。第1に、中国の国際収支統計は、日米欧など他国の国際収支統計と金融収支の符号が逆になっている点に注意が必要である(2021年4月のコラム 参照)。他国では経常収支が黒字で符号がプラスであれば、金融収支もほぼ同額黒字となりプラスで表される。経常収支が黒字の場合、海外からの支払いとして例えば米ドル預金を受け取る。海外に対するドル預金の保有が増加するので、金融収支において対外資産のプラスと表される。

 各国とも以前はこのような場合はマイナスの符号が付されていた。IMFの国際収支マニュアルの改訂によってこの点が見直され、対外資産の増加としてプラスの符号で表されるようになった。ところが中国は混乱を招くとの理由でこの符号の逆転を採用しなかった。中国の金融収支の赤字(マイナス)は資本逃避を示すものではなく、日本と同じく経常収支の黒字によって海外からの受け取りが生じたことによる対外金融資産の増加を示しており、経常黒字国として当然のことが起きているに過ぎない点に注意が必要である。

 第2に、国際収支構造の改善である。中国の対外資産負債残高を見ると経常黒字を反映して対外純資産残高は継続してプラスを維持しており、2025年末には4兆ドルを超えて世界第2位となった。しかし、対外純資産がこれほど大きいにもかかわらず主に対外投資収益の受払を示す第1次所得収支(経常収支の内訳項目)は継続的に赤字となっている。中国では対外資産サイドで収益率の低い外貨準備の占める比率が大きく収益率の高い対外直接投資の比率が小さいのに対し、対外負債サイドでは高い収益率を支払う必要のある対内直接投資の比率が大きく比較的支払いが少ない対内証券投資の比率が小さいことが主な要因である。第1次所得収支赤字の改善は中国の課題の一つである。

 2020年末の対外資産残高は8兆8791億ドル、うち対外直接投資残高は2兆5,807億ドル、構成比29.1%、外貨準備残高は3兆2,165億ドル、同36.2%であった。対外負債残高は6兆5,923億ドル、うち対内直接投資は3兆2,312億ドル、同49.0%、証券投資は1兆9,558億ドル、同29.7%であった。対外純資産残高は2兆2,868億ドルだった。

 2025年末の対外資産残高は11兆8,760億ドル(2020年末比33.8%増)、うち対外直接投資残高は3兆5,787億ドル(同38.7%増)、構成比30.1%、外貨準備残高は3兆3,579億ドル(同4.4%増)、構成比28.3%となった。対外負債残高総額は7兆7,147億ドル(2020年末比17.0%増)、うち対内直接投資残高は3兆9,819億ドル(同23.2%増)、構成比51.6%、対内証券投資は2兆3,507億ドル(同20.2%増)、構成比30.5%である。対外純資産残高は4兆713億ドルとなった。

 過去5年間で対外直接投資が高い伸びを示し、構成比も増加した一方、外貨準備はわずかな増加にとどまり、構成比が低下した。一方対外負債全体は緩やかな伸びとなる中、対内直接投資、証券投資ともに比較的マイルドな伸びを示した。2020年の経常収支黒字2,237億ドルに対して第1次所得収支は-1,182億ドルと赤字だったが、2025年には経常収支黒字が7,350億ドルと大幅に増加した中、第1次所得収支は-1,095億ドルと赤字幅を縮小している。過去5年間で主に対外直接投資の構成比の拡大と外貨準備の構成比の縮小によって中国の国際収支構造の改善がある程度進んだと言えよう。今後も国内証券市場の対外開放の一層の進展による対内証券投資の拡大なども含めて国際収支構造改善の努力が進められていくものと考えられる。

(了)


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