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上海オフショア人民元市場と人民元国際化への動き

2026年06月29日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):帝京大学経済学部 教授

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。信金中央金庫、日本大学を経て2018年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)など。

 中国人民銀行の潘功勝総裁は、上海の金融街である陸家嘴で行われた2026年陸家嘴フォーラムにおいて講演し、人民元の国際化を推進する取り組みについて言及した。その内容について検討したい。

上海オフショア人民元外国為替取引の開始

 今回の潘総裁の講演は「中国の金融構造の変遷と金融市場の現代化」と題され、6月17日に行われた。その中で最近の中国人民銀行の政策措置が6点紹介されている。7日物リバースレポ金利を政策金利とする短期金利コントロールの改善、ノンバンクに対する流動性支援手段の創設、銀行間市場データ保管庫の設立と並んで、上海自由貿易区におけるオフショア人民元外国為替取引の試験運用の開始、上海市政府および関連部署と共同での「上海国際金融センターにおけるオフショア金融発展のための行動方案」(以下「行動方案」)の制定、海外中央銀行向けの人民元建てレポ取引手段の導入が挙げられている。

 このうち、上海オフショア人民元外国為替取引についてまず見てみたい。人民元にはオンショア人民元(CNY)とオフショア人民元(CNH)の2種類が存在する。CNYは香港、マカオを除く中国本土で流通する人民元であり、経常取引と直接投資など当局が認可した資本取引についてのみ、香港、マカオを含む本土外とのクロスボーダー取引に使用できる。為替レートは厳格に管理されている。一方、CNHは香港を中心とした中国本土外で流通する人民元であり、取引範囲に制限はなく、為替レートも管理されていない。CNHは中国国内の銀行が直接取引することはできなかった。

 今回、人民銀行は、中国工商銀行、中国農業銀行、中国銀行、中国建設銀行、交通銀行、中信銀行の6行に、浦東にある上海自由貿易区において外貨交易センターのプラットフォームを利用し、CNHを直接取引する試験運用を認めることとした。今後試験運用の状況に応じて、オフショア人民元為替取引市場を拡大するとされている。

上海オフショア金融センターの開設

 次に「行動方案」は、潘総裁の講演と同日の6月17日に、人民銀行のウェブサイトで公表された。同方案では上海にオフショア金融センターを構築し、人民元国際化をより強力に促進することとされている。2027年末までにオフショア金融業務に関する基礎的な規則を整備し、2030年末までに相対的に成熟したオフショア金融制度と法治システムを着実に形成、2035年末にはオフショア・オンショア市場の高水準の統一協調発展の要として、中国の金融の高いレベルの開放と高い質を備えた発展を牽引するというスケジュールが記載されている。

 上海市浦東新区にはオフショア金融試験区が設けられ、具体的な業務として以下の項目が予定されている。

①オフショア貿易金融業務。オフショア貿易は海外の2つの会社の間で行われる貨物の貿易の契約を国内企業が行うもので、その取引に対する資金の提供、資金決済などの金融サービスを上海の一部地域において試験運用することを2025年6月に潘総裁が発表した。今回、その試験運用の地理的範囲を拡大し、業務範囲についてコモディティ貿易から開始して、徐々に拡大していくことが示された。

②自由貿易オフショア債券。貿易の両当事者が国外に所在するオフショア貿易について、貿易当事者が債券を発行し、上海自由貿易試験区にある企業がこれを購入し投資するチャンネルを整備する。

③オフショア再保険。国際的に流入する保険資金を利用して海外投資や海外支払いを行う業務の試験運用を行う。

④財務センター。多国籍企業が上海に財務センターを試験的に設置し、海外資金を集約して多国籍企業のグローバル資金管理を行うことを支援する。

⑤人民元オフショア市場。条件を満たした商業銀行が上海自由貿易試験区においてオフショア人民元外国為替取引を行うことを支援する。前述の上海オフショア人民元外国為替取引がここで取り上げられている。人民元と非米ドル通貨との直接取引を推し進めると記載されている。

⑥非居住者個人金融サービス。非居住者個人の口座開設やカード発行手続きを便利にし、非居住者個人のビジネスの往来や消費活動における支払い決済の需要によりよく応える。

⑦条件が整えば、オフショア金融業務の範囲をさらに拡大していく。

海外中央銀行向けの人民元建てレポ取引手段の導入

 潘総裁は、海外中央銀行などの海外投資者は中国の債券市場での取引を積極化しており、これに伴う流動性管理の需要が高まっていることから、それに応えるためにレポ手段を導入すると述べている。講演と同日の6月17日に人民銀行のウェブサイトで本件公告が発布された。人民銀行は、条件を満たした海外の中央銀行・通貨当局、国際金融機関、ソブリンウエルスファンド(政府系ファンド)に対して、レポ取引手段を通じて人民元の流動性を提供する。レポ取引の形式として担保方式と買い切り方式があり、レポ取引の対象債券は中国国債、人民銀行手形、政策性金融機関債券などとされている。

 海外中央銀行・通貨当局等の対象範囲は、2015年7月に中国国内の銀行間債券市場における人民元建て投資が認められた際と同じであり、今回の措置はこれら公的機関の保有する準備資産としての人民元の利用を便利にする効果を持つ。

デジタル人民元クロスボーダー決済総合サービスプラットフォームの稼働

 潘総裁は、昨年6月の講演で、上海デジタル人民元国際運営センターの設立を宣言したが、今回の講演では、同センターが運営するデジタル人民元クロスボーダー決済総合サービスプラットフォーム「Cross-border e-CNY Transfer Services(CBETS、略称『数幣達』)」が正式に稼働したことを表明した。

 6月16日に26の直接参加銀行がCBETS参加の協議を締結した。CBETSは、デジタル人民元の二国間クロスボーダー決済システムである。香港、タイ、UAE、サウジアラビアと中国が開発している多国間デジタル通貨決済システムであるmBridgeとも接続している(mBridgeについては 2024年6月のコラム 参照)。

人民元国際化推進の動き

 2026年3月の全国人民代表大会で承認された第15次5か年計画では、「人民元国際化を推進し、資本収支項目の開放水準を高め、自主的・コントロール可能な人民元クロスボーダー決済システムを構築する」とされている。

 今回の上海オフショア金融センターの設立は、上海の一部地域において、参加者を限定しながら海外との資本取引について徐々に自由化しようとするものであり、オフショア人民元外国為替取引の開始を含め、人民元国際化を推進するものである。

 海外中央銀行等向けの人民元建てレポ取引手段の導入も、対象を限定したうえで資本取引をより開放し、人民元の国際化を進展させる。

 デジタル人民元の二国間決済システムであるCBETSは、人民元のクロスボーダー決済システムのCIPSや、デジタル通貨の多国間決済システムであるmBridgeと並んで、中国が自主的にコントロール可能なクロスボーダー決済システムとして人民元国際化に貢献する。

 第15次5か年計画で示された人民元国際化推進の方針が、ここに来て具体的に動き始めたと言えよう。

(了)


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