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中国の金融政策の中間目標と短期金利のコントロール

2026年08月26日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):帝京大学経済学部 教授

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。信金中央金庫、日本大学を経て2018年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)など。

 中国人民銀行は8月12日付で、2026年第2四半期中国金融政策執行報告を公表した。今回の報告には、金融政策の中間目標に関するものと短期金利のコントロールに関するものの2つのボックスが設けられている。それぞれの内容を検討してみたい。

金融政策の中間目標

 中国人民銀行法(1995年制定、2003年改正)の第3条には、「金融政策の目的は通貨価値の安定を維持し、それによって経済成長を促進することである」と定められている。今回の金融政策執行報告には「金融が実体経済をサポートする程度と効果を全面的に把握する」と題した文章がボックス1として設けられており、通貨価値の安定や経済成長を最終的な目標とする金融政策の効果を判断するための、いわば中間目標について述べられている。その概要は以下のとおりである。

 中国の経済が高度成長から質の高い発展へと転じるに伴い、貸出数量という単一の視点ではなく、より客観的で多様化した総合的観点から通貨・金融の状況を理解し、金融が実体経済に貢献する程度と質の高さを全面的に認識することが必要となった。

 社会全体の資金調達額を表す社会融資規模と広義通貨量であるM2はカバー範囲が広いマクロ金融総量指標である。2025年12月に開催された中央経済工作会議では、「社会融資規模と通貨供給量の増加率が物価水準の予想値を加えた経済成長率に相当するようにする」こととされた。

 社会融資規模とM2は統計の性格が異なるので増加速度も異なるのが普通である。2026年6月末の社会融資規模の前年同期比増加率は7.4%、M2の同増加率は8.0%であり、2026年上半期の名目GDP前年同期比増加率である5.4%を上回っており、金融環境は緩和的である。

 さらに、金融の質や構造の改善も実体経済に影響を与える。第一に資金調達コストの低下である。例えば2026年6月の新規貸出加重平均金利は3.05%と3月比0.18%、前年6月比0.24%それぞれ低下した。

 次に資金調達構造である。2026年6月末の科学技術貸出、グリーン貸出、包摂貸出、養老産業貸出、デジタル経済産業貸出それぞれの残高の対前年同月末比伸び率は、12.6%、14.5%、7.8%、23.5%、15.1%であり、全貸出残高の伸び率である5.1%を上回っており、資金調達構造の改善が進んでいる。

 以上がボックス1の概要である。社会融資規模およびM2伸び率と名目GDP成長率の関係、資金調達コストの増減、資金調達構造の改善が金融政策の効果を判断する際の基準と指摘されている。

短期金利コントロール能力の改善

 通貨価値の安定と経済成長という金融政策の最終目標を達成するための具体的な金融政策手段としては、預金準備率の操作、金利の操作、構造性金融政策手段、人民元為替レートのコントロールが挙げられるが(2023年10月のコラム 参照)、今回の金融政策執行報告では「短期金利のコントロールメカニズムの改善」と題したボックス2が設けられ、金利の操作手法の最近の動向について述べられている。その概要は以下のとおりである。

 中央銀行の金融政策における普遍的な手法は短期金利のコントロールであり、先進国では最短金利、多くがオーバーナイト金利をコントロールの対象としている。具体的なコントロール手法については、国によって若干の違いがある。

 中国人民銀行の金利コントロールメカニズムは、国内金利の市場化改革に伴い不断に改善されており、2024年以降、短期金利コントロールの枠組みの改善テンポを加速させている。第1に人民銀行が銀行に資金を供給する公開市場操作の手段である7日物リバースレポ金利が主要政策金利であり、短期金利のコントロール目標水準であることを明確にした。2024年7月には7日物リバースレポ操作を金利入札方式から金利を固定した数量入札方式に切り替え、金利の不確実性を除き、短期金利のアンカーとしての機能を強化した(2024年8月のコラム 参照)。第2に中期貸出ファシリティ(MLF)1年物を固定金利方式から金利入札方式に切り替え、さらに多重価格入札方式として、政策金利としての機能を完全になくした。第3にコントロールの対象である金利を徐々にオーバーナイト金利に移し始めている。2025年には、短期金利のコントロール目標を銀行間市場のDR007(DRは預金金融機関が信用力の高い国債などを使用して行うレポ取引、007は7日物)から徐々にDR001(同オーバーナイト物)に移行させ、2026年に入るとオーバーナイト金利が7日物リバースレポ金利で示される政策金利に誘導する対象であることを市場に明確に伝達した。第4に操作手段の多様化を図り、7日物リバースレポ、1年物MLFに加え、3か月物、6か月物のリバースレポを増加した。第5に、2024年7月に臨時オーバーナイトレポとリバースレポ操作を導入し、それぞれの金利を7日物リバースレポ金利マイナス0.20%ポイントと同プラス0.50%ポイントに設定した。これらは銀行間金利の上限と下限を示すこととなり、DR001の変動はこの区間内に収まっている。

 人民銀行の潘功勝総裁は、2026年6月に上海陸家嘴フォーラムで行った講演で、以下のように述べた。第1に臨時オーバーナイトレポとリバースレポ操作の金利の区間を2026年6月から上下0.25%ポイントずつ合計0.50%ポイントの区間に変更し、従来の合計0.70%ポイントから縮小させ、人民銀行の短期金利コントロール能力をより精緻なものとした。第2に、2026年6月末から、数日前に公告したうえで実施するオーバーナイトリバースレポ操作を臨時のものとは別に導入した。これまで長年にわたって、人民銀行の公開市場操作は7日物リバースレポが中心だった。一方、銀行間市場における金融機関同士の取引においては、近年オーバーナイトの取引が90%を超え、オーバーナイトの資金調達が金融機関の流動性管理の重要な手段となってきた。特に月末や納税期に一部の金融機関の流動性需要が2~3日間高まる。このような時期にオーバーナイトの公開市場操作で人民銀行が資金を供給することにより流動性管理の効率を高め、金融機関のコストを低減することができる。今後政策金利が市場金利によりスムーズに伝達されるようオーバーナイトリバースレポ操作の頻度を増やしていく方針である。

 以上が今回のボックス2の概要である。人民銀行は7日物リバースレポ操作の金利の変更によって短期金利の目標水準を示し、様々な期間の公開市場操作手段を駆使して銀行間市場のオーバーナイト金利をその水準に近づけるよう努めている(図参照)。それに加えて貸出金利の基準となるLPR1年物や5年以上物の金利を人民銀行が設定することによって、短期から長期にわたるイールドカーブのコントロールを行っている。

図 政策金利と銀行間金利の推移

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(出典)中国人民銀行「2026年第2四半期中国金融政策執行報告」

 今後、短期金利の公開市場操作はオーバーナイト物リバースレポに移行していく方針とみられるが、先進国で一般的にみられるように、政策金利は短期金利のみとし、中長期の金利は市場に委ねる方向に向かっていくのか、推移を見守りたい。

(了)


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