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変わる中国農村のデジタル化 都市部との格差是正から「AI+農業」と地域サービスの再設計へ

2026年09月18日

山谷剛史

山谷 剛史(やまや たけし):ライター

略歴

1976年生まれ。東京都出身。東京電機大学卒業後、SEとなるも、2002年より2020年まで中国雲南省昆明市を拠点とし、中国のIT事情(製品・WEBサービス・海賊版問題・独自技術・ネット検閲・コンテンツなど)をテーマに執筆する。日本のIT系メディア、経済系メディア、トレンド系メディアなどで連載記事や単発記事を執筆。著書に「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?中国式災害対策技術読本」「中国のインターネット史:ワールドワイドウェブからの独立」(いずれも星海社新書)など。

 中国では都市部と農村部の間に、所得や教育や物流など、様々な面で格差が存在してきた。農村では農業が盛んだが、その農業にしても農産物を栽培した後に、品質管理、保管、冷蔵輸送、販売先の確保があればさらに所得が上がる可能性があり、それらのインフラが不足しているから上がりにくいといえる。また、高速なネットインフラが整備されても、物流や決済、商品規格が整っておらず、販売ノウハウがなければ、農家がECの恩恵を受けることは難しい。逆に都市部はそれらが揃っているからこそ農村部の先を行く。

 農村振興はこうした格差の是正を目的とする国家的な政策課題だが、2010年代後半からは、通信網、データ、EC、スマート農業、オンライン行政を活用して農村の発展を後押しする「デジタル農村(数字郷村)」が重要な手段として位置付けられている。

 当初の課題は、「農村にインターネットを」であり、農村部のインターネットカバー率がしばしば達成度として挙げられた。その後近年は、農産物のEC販売、物流網の各集落までの拡大、ドローンやIoTを用いるハイテク農業、遠隔医療・オンライン行政、地域文化の動画発信など、デジタル技術の用途が急速に拡大。農村全体から見れば一握りではあるが、モデル農村の様子がしばしば伝えられた。2026年の中国農村政策はこうした流れをさらに一段進めたものとなっている。中央一号文件は「人工知能と農業の発展を結合させる」と明記し、「デジタル農村高品質発展行動」を実施すると掲げた。中国農村のデジタル化は、通信回線の普及から、AIとデータを使って生産、流通、生活、地域運営をつなぐ段階へ移りつつある。

 たとえばファーウェイとチャイナテレコムが広東省清遠市英徳市の連樟村で、地元政府と協力し「デジタル農村」のモデルづくりを進めた。村内に高速な通信環境を整え、オンライン医療やオンライン授業の導入を積極的に進め、法律相談や住民トラブルに関してもオンラインで専門家につなぐ仕組みが導入された。VR映像やライブ配信などで村や農産物を都市部の消費者へ紹介する取り組みも行われた。実際に現地へ行かなくても、スマートフォンやVR機器で村の様子を見てもらい、観光客の誘致や農産物の販売につなげることを目指した。

 別の例を出すと、アリババ(Alibaba)のスーパー「盒馬(Hema)」は野菜を都市部へ安定供給する「盒馬村」を中国各地で展開している。従来の農業の「畑で取れたものを後から何とか売る」方式に対し、盒馬村では都市部の消費者に向けた販売計画や品質基準を先に農村側へ伝え、その条件に合わせて農村側が栽培する。つまり「売れる条件を先に決め、それに合わせて作って選別し運ぶ」方式を導入。盒馬側は自社の小売網や配送網を通じ、農産物を消費地へ届ける。「都市でどんな野菜が、いつ、どれくらい必要とされるか」という販売データと、「農村側でどのように作り、選別し、届けるか」という生産・物流の情報をつなぐ仕組みを作った。

 さて、ここで中国農村ITの改善年表を示し、どのように変化したかを紹介する。

表 近年の農村部を対象にしたデジタル政策と企業動向
年 段階・政策テーマ IT面での主な改善 Alibaba/Tencent/Pinduoduo関連
2018 農村振興の枠組み 通信、EC、農業情報、公共サービスを農村振興と結び付ける土台を形成 --
2019 デジタル農村を国家戦略化 「デジタル農村発展戦略綱要」を公表。通信、デジタル経済、スマート農業、ネット行政、デジタル統治を統合 --
2020 接続基盤・モデル事業 行政村への光回線・4G普及、農業IoT・リモートセンシング、オンライン行政、遠隔地の学校接続を重点化 Alibaba:広西・雲南の産地集荷・加工センター、販売地倉を整備。盒馬村の先行展開
2021-2022 生活・統治への利用拡大 村務公開、住民通知、防災、環境監視、農村EC、ライブコマースなどへ用途を拡大 Tencent:「為村」を基礎にWeChat等を活用した村の情報発信・住民接続。未来郷村型の構想を展開
2023 5G・全産業チェーンDX 5Gを郷鎮以上と条件の整った行政村へ拡大。遠隔教育・医療、金融、文化、防災も重点化 Alibaba:Hemaの需要・品質基準と産地を結ぶ「盒馬村」モデルを拡張
2024 スマート農業の制度化 「全国スマート農業行動計画(2024-2028年)」。農業データ基盤、統合地図、AIモデルを構築 Alibaba+Hema:浙江省景寧県景南郷東塘村に「高山野菜・盒馬村」を開設。Tencent Cloud:未来郷村ソリューションを提示
2025 新質生産力を明記 中央一号文件が農業の新質生産力を初めて明記。AI、データ、低空経済、スマート農業の応用を拡大 Tencent:クラウド、AI、IoT、ブロックチェーン、WeChat接点を組み合わせる未来郷村型の事業を展開。Pinduoduo:農村配送の下り物流へ進出
2025後半 農村ラストワンマイル物流 Pinduoduoが県級中継倉と村級受取拠点を結ぶ「無料配送入村」を試行 Pinduoduo:県級中継倉→村級受取拠点の二段集約輸送を試行。Alibaba/Hema:産地直送と品質規格・選別・物流を接続
2026 AI+農業と高品質デジタル農村 AI、ドローン、IoT、ロボットを重点応用に。遠隔地の通信、農村EC、産地物流、共同配送を統合的に推進 Alibaba+Hema:景寧県漈頭村でAIスマート育種・育苗ハウス。Tencent Cloud:AI・データを活用する農業・統治・文旅ソリューションを展開。Pinduoduo:入村配送を多省で拡大
2026年8月 7年間の政策総括 『中国デジタル農村発展報告(2019-2025年)』を公表。次期は産業DX・農村建設情報化・統治スマート化を一体推進 Alibaba、Tencent、Pinduoduoのような民間プラットフォーム企業が、生産・流通・地域サービスの政策実装を補完する構図が明確に
2026年9月11日 「デジタル農村高品質発展行動計画(2026~2030年)」を発表 2030年までの8つの主要指標を設定。情報インフラ、産業デジタル化、公共サービス、デジタル統治など5分野24項目の施策を提示

 2019~2020年の第一段階は、農村をオンライン化するための基礎工事だった。光回線と4G対応地域を拡大し、農家や村民が情報、市場価格、行政手続き、教育資源へアクセスできる条件を整えることが中心だった。2020年の政策は、農村情報インフラを整備し、行政村レベルで光ファイバーと4Gをほぼ普及させるという目標を示していた。2021年以降は整備した通信網を実際の生活や産業で使う段階に移ったといえる。住民への情報伝達、防災や環境監視、農産物のECやライブコマース、リモート教育・診療などが広がった。2023年にはデジタル農村政策の対象が通信、農業、金融、文化、統治、公共サービスまで拡大している。

 そうした2010年代後半からのデジタル農村の取り組みの総括として2026年8月に、国家インターネット情報弁公室と農業農村部が、「中国デジタル農村発展報告(2019~2025年)」を発表している。

 報告書ではこの期間に「デジタル農村を進める政策・制度の整備」「農村の通信・情報インフラの強化」「スマート農業の発展」「農村ECやライブコマースなどデジタル経済の新業態」「地域文化、無形文化遺産、動画などデジタル文化の発展」「村務、行政、公共サービスにおけるデジタル統治の改善」「農村の情報サービス向上と、住みやすく働きやすい環境づくり」において進展があったと評価している。また2019年以来の農村情報インフラについて、「各県にギガビット接続、各郷鎮に5G、各村にブロードバンド」レベルまで整ったという。ただし郷鎮や県といっても広いので一般的に市街地で実現したくらいの解釈が無難だろう。

 2026年の中央一号文件では、「地域の実情に応じて農業の新質生産力を発展させる」としたうえで「AIと農業の発展を結合させる」と明記している。2025年の中央一号文件にも、AIなどの技術について活用場面を広げる方針はあった。しかし2026年は、AIを農業の数ある周辺技術の一つとして扱うのではなく、農業の生産性・競争力・供給能力を高める中核要素として位置付けた。また政策ではAIとともに、ドローン、IoT、ロボットの農村での活用拡大を明示している。今後しばらく、中国大手IT企業がモデルケースを発表するだろう。

 中央一号文件が示したデジタル農村の範囲はドローンやIoT機器を使ったいかにもハイテクな農業生産に限らない。同文書では農村・遠隔地のネットワーク接続改善や、ECプラットフォームの農村進出を支援し、産地の予冷、保管・鮮度保持、選別、加工などの施設を強化する方針も示している。

 さらに9月11日には、中央インターネット情報弁公室、農業農村部、工業・情報化部が「デジタル農村高品質発展行動計画(2026~2030年)」を発表した。2026年の中央一号文件で掲げた「デジタル農村高品質発展行動」を具体化したもので、2030年までの8つの主要指標と、農村の情報インフラ、産業のデジタル化、公共サービス、デジタル統治など5分野24項目の施策を示した。AIと農業の融合、農村EC、コールドチェーン物流のスマート化、遠隔教育・医療なども盛り込まれている。

 農村発のライブコマースやECは既にある。森林や畑を背景に「こんな自然豊かな場所で採れた農作物を発送します!」とライブ動画でアピールして販売するというのは今や珍しくはない。今後のデジタル農村では動画配信で注目を集めるのに加え、農産物を安定的に売るために品質検査、規格化、選別、梱包、冷蔵、在庫管理、配送、返品対応、リピーター獲得といった裏方のインフラまでを整えていく、というわけだ。農産物の産地で予冷・保管・選別・加工能力を高めることは、鮮度を維持し、規格をそろえ、都市部の消費者に安定して届けるための前提になる。

 また物流面では、農村の配送・郵便施設の共同利用、農村の旅客・貨物・郵便輸送の融合、共同配送、集落まで届く宅配網の深化が掲げられた。この流れの中で注目されるのが、ピンドゥオドゥオ(Pinduoduo)による集落への無料配送の試行だ。同社は2025年第4四半期以降、県レベルの中継倉庫と村レベルの配送拠点をつなぎ、村までの二次輸送費を負担する仕組みを複数省で展開しているとされる。物流網に入れば集落は消費地となり、農作物などの出荷もさらに容易になる。

 中国農村のIT化が「接続の整備」から、「データとAIを使って農業、物流、生活、地域産業を再設計する」段階へ進んだ。2026年からは、AI、スマート農業、EC、物流、デジタル行政を実際の生産性向上と生活改善へつなげられるかが問われる。これまで同様、中国の通信キャリアやIT大手企業が新政策に合わせた様々なテストサービスを一部の集落に導入し、技術力と成果をアピールすることだろう。それらは本当に使えるものなのか、村民が喜んで協力し事業が継続するかは過去を振り返っても眉唾物ではあるが、とはいえ中国の農村の未来を示すのは間違いなく、日本の農村振興でも一部は参考になるだろう。


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