中国の食料サプライチェーンの基調-その動向を探る-
(第3回)中国大豆油生産におけるカーギル(嘉吉)の存在
2026年09月30日

高橋五郎: 愛知大学名誉教授(農学博士)
略歴
愛知大学国際中国学研究センターフェロー
中国経済経営学会前会長
研究領域 中国農業問題全般
1.世界とつながる中国の大豆油
中国の食料サプライチェーンを考えるうえで、大豆油をはじめとする食用油は特異な位置にある。中国の一般家庭では多くの種類の食用油が消費されているが、家庭に届くまでのおおまかなサプライチェーンは、3つの形態からなる。一つは食用油自体を輸入すること、他は原料である一次産品の油糧作物が国産であるものを使い製品化するもの、もう一つは輸入原料を使い国内で製品化するもの、である。
今回取り上げる大豆油の場合、中国最大の消費を誇り、大豆そのものを大量に輸入し、それを国内で加工して大豆油を生産するパターンが基本である。大豆油の生産には副産物の大豆粕が生まれるので、そちらは養豚、養鶏、酪農、養魚などの重要飼料として供給されていく。とくに養豚業にとって、大豆粕はほぼ不可欠で、最近、数万頭から数十万頭規模の集約高層養豚が生まれ出したこともあり、大豆粕は不足気味である。だから輸入大豆の大部分は搾油・飼料用である。したがって、中国の大豆輸入は単に「食用油を確保するため」だけではなく、拡大した畜産・水産業を支える飼料蛋白の供給源という顔も持っている。
さて2025年の中国の大豆輸入量は1億1183.3万トンで、2024年の1億503.3万トンから6.5%増加し、過去最高となった。
輸入先は米国との関税競争が尾を引いて、最近は南米への傾斜が著しい。余談だが、中国向けが縮小したため、現在の米国の大豆栽培農家は不況のさなかにある。中国海関(税関)データに基づく2025年実績では、ブラジルが8232万トン、米国が1682万トン、アルゼンチンが789万トンであり、ブラジルだけで73.6%を占めた。3か国を合計すると輸入量の約96%に達する(表1)。
中国産大豆は豆腐、豆乳など食品への直接利用が相対的に多いのに対し、輸入大豆は大型搾油工場に投入される割合が極めて高い。輸入大豆がこれら日常的な食品に回る割合は皆無といってよく、ほぼすべてが大豆油など向けの加工用である。
米国農務省(USDA)の「2026年版 Oilseeds and Products Annual: China」も、この国内産と輸入品の用途構造の違いを指摘しているほどである。
なお、ここで「輸入大豆の品種」について触れておくことにしたい。ブラジル、米国、アルゼンチンから中国に輸入される商業用大豆の大部分は遺伝子組換え(GE/GMO)大豆である。だから、とくにこれといった品種概念は当てはまらない。言い方を換えると、品種名のない農産物は、一般的には遺伝子組換え等に該当する。
つまり「遺伝子組換え大豆」という一つの品種が存在するわけではなく、遺伝子組換えは品種とは別の概念で、除草剤耐性、害虫抵抗性など特定の形質を導入した「イベント」があり、そのイベントを導入した多数の栽培品種が存在するからである。中国の輸入承認も、基本的には加工原料としてのGEイベントごとに安全証明を与える方式である。2024年末にも、中国農業農村部は輸入加工用の新規・更新GEイベントに安全証明を発給している。したがって海関統計の「大豆」から、「ブラジル産○○品種」のような栽培品種までを識別することはできない。
2.カーギル―輸入・港湾・加工・販売を一体化した企業
この中国型の大豆サプライチェーンを見る典型的企業として、米国系多国籍企業カーギル(Cargill、本社:米国ミネアポリス)を取り上げることができる。カーギルは1988年の中国での工場設置以来、中国で「嘉吉」の名称を用いて事業を展開しているが、単なる製油メーカーではない。米国や南米などでの大豆調達から国際輸送、中国での荷揚げ、保管、搾油、精製、さらに大豆油・大豆粕の国内販売までを一つの事業体系の中に結びつける"一社完結型サプライチェーン企業"である。つまり「海外農場―国際物流―中国沿海部―加工―国内市場」というチェーンを企業内部化して接続しているのである(表2)。
一般工業製品とちがって、コスト節約のためのアウトソーシングは、大豆油のような二次産品にとっては無縁なことで、世界市場に対して、一社サプライチェーンをワンセットで売り込むことが特徴なのである。
2025年のカーギルの広報資料「カーギル、『農場と食卓』を緊密につなぎ、より強靱で持続可能な世界の食料体系の構築を支援」によると、同社がブラジル、アルゼンチン、パラグアイで大豆を調達し、中国では広東(東莞、陽江)、江蘇省(南通)、河北(嘉好)、山東(日照)に6つの糧油加工基地を配置していることが明記されている。
カーギルの中国内における工場立地には、それゆえにか、共通した特徴がある。東莞は新沙港、陽江は陽江港、河北嘉好は黄驊港総合港区に位置し、南通の新工場も南通港通海港区に隣接する。南通の環境影響評価書には、通常時には船で運ばれた大豆を港から管状ベルトコンベヤーで工場へ直接搬送することまで明記されている。このような巨大なシステムの設置が多数みられるのはさすが中国である。
日照でも同様である。日照経済技術開発区は「前港・中倉・後廠」、すなわち港、倉庫、工場を近接させた糧油産業を形成している。日照港には大型穀物船用バースがあり、鉄道や油脂パイプラインまで工業団地へ接続している。
したがって、このシステムの特徴は、輸入大豆をいったん全国へ運んでから加工するのではなく、大型船で輸入した原料を港湾周辺で大量処理し、大豆油と大豆粕という二つの製品に変えてから内陸市場へ送ることにある。港湾物流と食品加工が一体化しているのである。
3.カーギルの6つの糧油(精製)加工工場
カーギルは2021年9月29日付けの同社広報「カーギル日照糧油加工工場正式に稼働、北方市場向けサービス拠点」で、日照工場を「中国で6番目の糧油加工工場」と明記し、それ以前に広東、河北、江蘇で5工場を運営していたことを明らかにしている。日照工場は、年間130万トンの大豆圧搾能力を持つ。
6工場について、現在確認できる公表値を整理すると次のようになる(表3)。
南通は従業員数まで公式資料で確認できる。2025年の「嘉吉糧油(南通)有限公司移転建設事業 水土保持方案報告書」によれば、既存工場は従業員700人超で、そのうち自社従業員400人超、第三者派遣300人余りである。また同資料は、既存工場について年間大豆加工能力198万トン、植物油精製39.6万トン、特殊油脂精製36.3万トン、液体油包装9.9万トンとしている。
河北嘉好は6工場中最大で、カーギル公式資料(2023年6月15日付)「カーギル河北嘉好糧油第二期計画正式に竣工、中国北方市場サービスさらに改善」によれば、第二期完成後の大豆圧搾能力は年間330万トンである。第二期では、圧搾工場、精製工場、PET包装工場、全脂膨化大豆ラインを新設し、約160人の雇用を新たに生んだ。
陽江についてはカーギル公式の「嘉吉糧油(陽江)有限公司環境保護公開情報(2019年7月)」に、大豆圧搾3800トン/日、大豆油精製790トン/日と明記されている。
日照は生産工程と製品量まで特に明確である。「嘉吉糧油(日照)有限公司2022年度環境情報公開報告書」によれば、工程は「前処理工場―浸出工場―精製工場」で、年間能力は大豆粕100万トン、粗大豆油22.34万トン、高品質大豆油18万トンである。
販売先についてだが、全6工場の省別数量は公開されていない。しかしカーギルは河北工場を北方市場、南通を長江流域、日照を北方市場の拠点と位置づけている。南通新工場については「長江流域及び全国の顧客」を対象とすることが公式発表にも明記されている。日照ではさらに2026年、隣接する嘉滄(日照)糧油との間に密閉パイプラインを設け、精製した高品質大豆油を直接包装工場へ送る体制が確認されている。年間20万トンの包装能力を持つ設備であり、「精製→充填」まで工場間で直結する例である。
このように世界の穀物メジャーの一つに数えられるカーギルの中国大豆油事業は6つの生産拠点を中心に、原料―輸入―生産―販売というチャンネルを中国を舞台に展開しており、今後における拡大も視野にある。中国で展開されたカーギルの大豆油サプライチェーンは、その圧倒的なスケールをもって、世界におけるモデルとなったのである。
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