韓国の浦項工科大学校(POSTECH)は8月25日、同校の研究者らが肺胞の動きを再現し、肺細胞の反応も観察できる超薄型の「呼吸する人工肺」を開発し、約24万回の呼吸にわたり安定して作動するとともに、インフルエンザウイルスに対する肺の反応も再現したと発表した。研究成果は学術誌Advanced Materialsに掲載された。
人間の肺胞は呼吸に伴って伸縮し、その動きは肺細胞の成長や機能、炎症や疾患の進行に影響する。しかし、従来の細胞培養は平らで動かない表面を用いるため、肺の動きを再現しにくい。肺オンチップも多くが合成材料のポリジメチルシロキサン(PDMS)を使用し、実際の肺組織の特性を再現するうえで限界があった。一方、柔らかいハイドロゲルは薄膜の作製時に破れやすかった。
POSTECH材料科学・工学科のジョン・サンジュン(Jung Sungjune)教授率いる研究チームは、薄くても破れにくく自由に動くシャボン玉の膜に着想を得た。ポリマーとモノマーを混合した複合ハイドロゲル溶液に型を浸して引き上げ、肺胞のように柔らかく伸縮しながら反復運動に耐える超薄膜を形成した。さらに、吸気時に横隔膜が下がって肺内の圧力が低下する原理を応用し、膜の下側で同じ圧力変化を繰り返す呼吸駆動システムを開発した。

(出典:POSTECH)
3Dバイオプリンティング技術で血管細胞層、基底膜層、上皮細胞層を順に積層し、肺胞に似た3層構造も作製した。呼吸運動は細胞に伝わり、ウイルス感染への反応も実際の肺と同様に現れた。インフルエンザウイルス感染実験では、肺の炎症反応と抗ウイルス反応が呼吸運動によって異なることも新たに分かった。単純な細胞培養や動物実験だけでは確認しにくい薬物応答を、人間の肺に極めて近い動的環境で調べられるという。
同教授は「呼吸の速さと深さを自由に調節できるため、正常な肺からさまざまな疾患状態まで実験室内で再現できます」と述べ、「本研究は新薬開発と肺疾患研究の様相を変えるでしょう」と語った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部