オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)は8月24日、ワクチン接種と過去の感染による免疫が広がった現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の経口抗ウイルス薬は、パンデミック初期に示されたほど有効ではない可能性があるとの研究結果を発表した。研究成果は学術誌Open Forum Infectious Diseasesに掲載された。
UNSWのローラ・エドワーズ(Laura Edwards)博士課程学生、ベット・リュー(Bette Liu)准教授、ジェームズ・ウッド(James Wood)教授と、モナッシュ大学のアレン・チェン(Allen Cheng)教授らは、ニルマトレルビル・リトナビル(商品名パキロビッド)とモルヌピラビル(同ラゲブリオ)の有効性を系統的レビューとメタ解析で検証した。
両薬はSARS-CoV-2の複製を阻止する。ワクチン未接種者を対象とした2021年の臨床試験では、重症化をそれぞれ89%、30%減少させた。ランダム化比較試験(RCT)8件と観察研究35件を分析したところ、大半のRCTはワクチン普及前のものであった。接種者を対象としたラゲブリオのRCTでは、治療群と非治療群の入院・死亡に統計的な差はなく、入院患者にパキロビッドを投与したRCTでも両群に差はなかった。研究完了後に公表されたパキロビッドのRCT2件も、入院・死亡の減少を示さなかった。
一方、観察研究のメタ解析では、パキロビッドの使用は入院の40%減少、死亡の67%減少と関連した。ラゲブリオは入院の有意な減少と関連せず、死亡に関する結果も一貫しなかった。ただし観察研究では、治療群と非治療群の健康情報を理解・活用する能力や医療サービスへのアクセスなど、全ての背景差を調整することは通常できない。
オーストラリア政府は2022年半ばから2025年半ばまでに両薬へ20億豪ドル超を支出した。研究チームは、パキロビッドには一定の効果があり得るものの、症例数と重症化リスクの低下に伴い便益は非常に小さくなりつつあり、エビデンスが乏しいラゲブリオの役割は慎重に検討すべきだとした。豪医薬品給付諮問委員会(PBAC)は2026年後半に両薬の費用と便益を再評価する予定である。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部