台湾の陽明交通大学(NYCU)は3月11日、最高戦略責任者のヘイデン・チェン(Haydn Chen)氏へのインタビューを通じ、人工知能(AI)が仕事と教育を大きく変える時代において、学生には機械が置き換えにくい「ソフトパワー」が一段と重要になるとの考えを示した。

Photo credit: Central News Agency(出典:NYCU)
同氏は、材料科学の博士号を持ち、台湾や米国、香港、マカオの大学で勤務した経験を持つ。現在はAIを日常的に活用しており、文書作成や分析の効率化に役立てているという。一方で、AIの急速な進展は労働市場にも大きな変化をもたらしており、前まで人気だった分野でも就職環境が一変するなど、将来の予測が難しくなっていると指摘した。そのため、大学教育では何を学ぶかだけでなく、不確実な未来でも価値を持ち続ける能力を育てる必要があるとした。
同氏が重視する「ソフトパワー」には、学際的な学びを続ける力、AIの出力をうのみにしない批判的思考、複雑な情報から意味を組み立てる力、社会的・政治的・文化的文脈を理解する視点、倫理判断、社会的責任、創造性、想像力、共感力などが含まれる。大規模言語モデルは流暢に答えを返せても、古い情報や不正確な内容を示すことがあるため、人間側が主体的にAIを使いこなす姿勢が欠かせないという。
こうした力を育てる基盤として、同氏はリベラル教育の意義を強調した。リベラル教育は単なる科目の寄せ集めではなく、学際的学習、教員と学生の密な交流、学生同士の関わり、寮生活、少人数教育を含めた大学生活全体の設計だと説明する。大学4年間は専門家を完成させる場ではなく、多様な分野に触れ、自ら学ぶ力を養う期間だとの考えを示した。
また、AI時代の教育は技術に抵抗するのではなく、適切に取り入れるべきだとした。学生が生成AIを文章作成や調査に使うこと自体は有効だが、問いを繰り返し磨き、自分の考えを加えながら対話的に使うことが重要だという。同氏は、情報はすぐ得られても、それだけでは知識ではないとし、知識を得るためには、検証し、真実を追い、行動につなげる力が必要だと述べた。ソフトパワーは、AIが形作る未知の時代を進むための「人生のGPS」のような役割を果たすとしている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部