台湾の国家科学技術委員会(NSTC)は6月24日、成功大学(NCKU)航空宇宙工学科の研究チームが、超小型衛星向けのプラズマ推進システムを開発したと発表した。
同学科のリー・ユエヘン(Yueh-Heng Li)特別教授が率いる研究チーム「ZAP LAB」は、真空カソードアークスラスター(VCAT)を改良するとともに、真空アーク誘起パルスプラズマスラスター(VAI-PPT)を新たに開発した。高効率・低推進剤消費・軽量という特長から、衛星の精密な軌道制御を担う中核技術として期待される。
プラズマクラスターは電気エネルギーで物質をプラズマ(荷電粒子)に変換し、高速で噴射する反作用で衛星を推進する。VCATは固体金属を推進剤に用いており、高圧燃料タンクを必要としないため、軽く小型で安全だ。重量1kg未満、体積はキューブサットの標準単位である1Uサイズ(約10cm角)、消費電力5W未満ながら軌道維持と姿勢制御を可能にし、キューブサットに特に適している。
VCATの課題は、長時間の運転で放電が不安定になり、故障しうる点だった。チームは絶縁層とグラファイト層を交互に重ねた多層絶縁設計により、放電回数を約1000回から40万回超へと増やして寿命を延ばした。宇宙環境試験にも合格して技術成熟度はTRL7に達し、2025年には初期の軌道上飛行実証も完了。台湾が超小型衛星の電気推進で自主的な技術力を持つことが示された。
チームはVCATに加え、パルスプラズマクラスター(PPT)の開発も進めてきた。PPTはテフロンを推進剤とし、電極間の高電圧放電でプラズマを生成・噴射する方式で、精密な姿勢制御に適する。ただし従来のPPTは点火装置が炭素の堆積で劣化しやすい課題があった。チームは点火装置を真空アークに置き換えたVAI-PPTを提案し、運転安定性を大幅に改善。関連技術は台湾・日本・米国で特許を取得している。
さらにチームは、動作電圧を最大2000Vから300Vへと引き下げ、電磁干渉を抑えつつ推進効率を従来の3倍以上に高めた。推力はミッションに応じて調整でき、低推力モードでは姿勢制御や軌道維持を、高推力モードではスペースデブリの回避や衛星の軌道離脱を支援できる。ZAP LABは今後もプラズマ推進技術の性能向上と軌道上実証を進め、台湾の自主的な宇宙推進技術と産業基盤の構築を目指す。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部