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第6回アジア・太平洋研究会「台湾IT製造業と米国・中国・日本の経済安全保障」(2021年11月11日開催/講師:山田 周平)

開催日時: 11月11日(木)15:00-16:30

言   語: 日本語

開催方法: WEBセミナー(Zoom利用)

講  師: 山田 周平氏
日本経済新聞社編集ビジネス報道ユニット担当部長

講演資料:「 第6回アジア・太平洋研究会講演資料」 ( PDFファイル 2.46MB )

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山田 周平

山田 周平(やまだ しゅうへい)氏
日本経済新聞社編集ビジネス報道ユニット担当部長

<略歴>

日本経済新聞の特派員として北京で5年、台北で4年の駐在歴があり、中華圏の産業・技術動向や地政学に詳しい。国内ではハイテク産業の取材が長い。共著書に「技術覇権 米中激突の深層」(日本経済新聞出版社)、「現代中国を知るための52章」(明石書店)などがある。
早稲田大学政治経済学部卒、北京大学外資企業EMBA修了。日本経済研究センター研究員、桜美林大学大学院非常勤講師を兼務。

第6回アジア・太平洋研究会リポート「台湾、世界の半導体業界の中心に-日経新聞・山田氏」


中華圏の産業・技術動向や地政学に詳しい日本経済新聞社編集ビジネス報道ユニット担当部長の山田周平氏が11月11日、「台湾IT製造業と米国・中国・日本」と題してアジア・太平洋総合研究センター主催の研究会で講演した。山田氏は、イノベーションやテクノロジーの発展では「0から1を生み出すのは難しいが、1から100は可能なことがある」と指摘。 台湾を軸に米国、中国の日本の半導体産業の状況を次のように語った。

講演する山田氏 (小松撮影)

台湾の半導体産業における戦略

多くの工場が中国へ移転する中、TSMC(台湾積体電路製造)は半導体製造受託としての「ファウンドリー」で世界シェア5割を超えるまでとなり、台湾の聯発科技(メディアテック)は半導体回路設計の「ファブレス」では、米中大手と世界上位を競うまでに成長をしている。また、鴻海精密工業は電子機器の製造受託サービスとしての「EMS」で、世界シェアの4割程度を占めるようになり、IT製造業において台湾は世界的な競争力を有するまでとなった。

台湾は1960年代、高雄地区に輸出加工区ができ、カラーテレビの受託製造をはじめとして製造業が発展し始めた。しかし、下請からの脱却が必要と考え、70年代に電子産業の育成、80年代に半導体産業に対する振興策が、いまの成功に大きく貢献した。2000年代に中台関係の緩和がみえ、パソコンの組立て等の工場は中国に移転し、世界の工場を支えるようになった。一方で、米中ハイテク摩擦の影響により対中抑止の矢面に立たされるなど、政治・軍事的な局面にさらされることが多々あった。

台湾、北米シフトへ大きく舵

TSMCの売り上げを国・地域別にみると、下図に示すように、その7割はこの10年、シリコンバレーなどの北米でもたらされている。

(山田周平氏講演資料より)

米国のトランプ前政権において中国のファーウェイ社との取引が停止し、2020年にTSMCは米アリゾナ州での新工場建設を発表し、北米シフトへ大きく舵が切られた。

半導体サプライチェーン(供給網)で現在、最も技術的な難易度が高いのは前工程といわれている。半導体チップの性能は前工程における回路の微細化技術に左右され、TSMCは世界最先端である線幅5nm(ナノメートル)品の量産が可能であり、他国の追随を許さない企業に発展をしている。

(山田周平氏講演資料より)

かつての日本は、上図に示すような流れを全て担うといった総合半導体メーカー(IDM)で製造を進めていたが、2000年代になり工程別の専業メーカーによる分業が加速化した。半導体チップは単価が高いうえに軽量で空輸しやすく、関税がない等といった理由により集中生産をするのが効率よいとされる。台湾域外での工場建設は大口顧客や政治への配慮によるものとされている。

日本への進出の動き

これまで台湾は米国と良い関係であったが、アリゾナに建設したTSMCの工場への補助金の受給可否や半導体サプライチェーンのデータ開示をめぐり、米国当局との軋轢が表面化している。そうした中、TSMCは最近、日本とは茨城県つくば市に後工程の研究開発拠点を設けたり、熊本県に工場を建設したりする動きをみせている。

TSMC、UMC(聯華電子)といった台湾勢は、シリコンウエハーに回路を加工する「前工程」で圧倒的な国際競争力を持つほどとなっている。また鴻海精密工業は電子機器の製造受託サービスの「EMS」では世界首位に立つなど、台湾は世界の半導体業界の中心となっている。0から1を生み出すことはなくとも、1から100を生み出すような製造において台湾は強みを発揮している。

台湾IT製造業の中国離れ

台湾企業・当局は、「IT供給網を生かしたEV(電気自動車)参入」を長年にわたり唱えており、最近になり、それが現実味を帯びてきたといわれる。さらに、マイクロソフトが台湾初となるデータセンターの開設を計画、グーグルがスマホの開発拠点を2021年初めに新設するなど、IT供給網を生かしたさらなる成長が見込まれている。

昨今の国際情勢において、中国・香港に代わる中華圏の足場として台湾への期待が高まっている。そうした中、台湾出身の技術者や経営者は中国への熱が冷めてきている。米中ハイテク摩擦は台湾経済にとってプラスであるといった意見も多くあり、台湾の世論がIT製造業の中国離れを背後で支えている。

(文: JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー 小松義隆)