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第11回アジア・太平洋研究会「中国の双循環(二重循環)戦略と産業・技術政策-アジアへの影響と対応」(2022年5月16日開催/登壇者:丸川 知雄、金 堅敏、苑 志佳、大西 康雄)

日  時: 2022年5月16日(月) 15:00~17:00 日本時間

開催方法: WEBセミナー(Zoom利用)

言  語: 日本語

登 壇 者: 丸川 知雄、金 堅敏、苑 志佳、大西 康雄

講演資料: 以下の講演タイトルをクリックしてご覧ください。

YouTube [JST Channel]: 「第11回アジア・太平洋研究会動画

調査報告書:
中国の双循環(二重循環)戦略と産業・技術政策 ― アジアへの影響と対応

丸川 知雄(まるかわ ともお)氏

東京大学社会科学研究所・教授

『中国製造2025』後の産業技術政策」(PDFファイル 651KB)

金 堅敏(Jin Jianmin)氏

富士通 グローバルマーケティング本部・チーフデジタルエコノミスト

中国のデジタルインフラ整備の最新動向 ~半導体、データーセンターを手掛かりに~」(PDFファイル 2.88MB)

苑 志佳(えん しか)氏

立正大学経済学部・教授

本格的な市場獲得型投資へ転換する中国企業の対東南アジア進出 ー時系列から見た中国対ASEAN投資の変化ー」(PDFファイル 2.39MB)

大西 康雄(おおにし やすお)氏

科学技術振興機構 アジア・太平洋総合研究センター 特任フェロー(ファシリテーター)

第11回アジア・太平洋研究会リポート
「インドとの科学技術協力に向けて-政策・データと共同研究現場からみる科学技術状況」

JSTアジア・太平洋総合研究センター(APRC)では、2021年度に中国の政策・経済等に関する有識者の協力を得て、同名の調査プロジェクトを実施し、その成果を調査報告書として取りまとめた。この調査プロジェクトのメンバーの中から、丸川 知雄氏、金 堅敏氏、苑 志佳氏を招いて5月16日、APRC主催の研究会において、その概要に関する講演およびテーマに関するディスカッションを実施した。

(左上から時計回りに、大西、金、丸川、苑の各氏)

調査研究を企画した大西 康雄特任フェローより、当該調査のスタート時点で、中国の双循環(二重循環)戦略を産業と技術政策の2つの視点から分析することが有意義ではないかという着想があったことが述べられた。具体的には、「双循環戦略は、米中摩擦と新型コロナ感染症に対応する側面があり、ポイントが第14次5カ年計画に反映されていくものである」との枠組みを設定し、双循環戦略が産業技術や科学技術にどういった影響を与えているのか等(下図)の問題意識の下、昨年度のプロジェクトに対する報告をとりまとめた。

「中国製造2025」後の産業技術政策 (丸川氏)

まだ2025年になっていない現在において、「中国製造2025」および産業や課題ごとに設けられた実施計画は、果たして生きているのか?という問題意識を述べた。

中国製造2025は本体の政策文書の分量はさほど長くないが、その下に膨大な計画や政策を有している。とりわけ重要であるのが「重点領域技術ロードマップ」であり、ICなど56品目に関する2020年および2025年の国産化率の目標が示されていた。しかし、中国製造2025および「ロードマップ」を含むその下の多くの計画は2018年以降更新されておらず、「死に体」の状態にある。第14次5カ年計画においては、「製造強国戦略」と「戦略的新興産業」に言及があり、さらに知能製造、エコ製造、ロボット産業に新エネルギー自動車産業について様々な政策が出されるなど、中国製造2025の一部の要素のみが継承されている。また、国家標準化発展綱要において、市場と対話した標準化を目指し、経済社会全般へ標準化を広げていくこと、国内外の双方向で標準化を促進することで、2025年を目処に世界の標準を中国の標準に転化する率を高めるといった動きもみせているとした。

次に、中国におけるIC産業政策や、新エネルギー自動車、自動運転に関する政策について述べた。IC産業政策は中国製造2025の核心の1つである。2014年に「国家IC産業発展促進政策の概要」が公布され、2015年版の重点領域技術ロードマップではICの国産化率の向上(2020年に49%、2030年に75%)を目指し、IC産業投資基金も発足した。これが日本・米国のIC産業政策の惹起にもつながった。しかしながら、アメリカの中国に対するIC輸出は5年間に2.3倍に増え、国産化を目指した中国企業が2021年に破産するなど、中国政府の描いたシナリオとは異なった展開になっている。

また、中国における新エネルギー自動車(NEV)の市場拡大や自動運転の研究開発が進んでいる。2018年に自動車に対する輸入関税が15%に引下げられ、外資単独出資によるEVメーカーの設立も認められるようになった。2020年にはNEV購入に対する補助金が2022年末まで延長されることになり、同年には国務院により「新エネルギー自動車産業発展計画(2021~2035年)」が公布されるなど、ますますと勢いがみられる。とりわけ市場拡大には、アメリカ系企業がリードしつつも、EVから自動車生産に参入した中国系メーカーが新勢力となっている。EVとコネクティッドな自動運転車がつながっており、5G通信を伴う自動運転に関する技術開発・実用化が進んでいる一方で、まだ課題を有していることも示した。

最後に、中国では、2018年から2020年の間には産業政策に大きな潮流の変化があった中、自動運転をはじめ自ら産業技術を切り開く段階に来ているとして締めくくった。

中国のデジタルインフラ整備の最新動向~半導体、データーセンターを手掛かりに~ (金氏)

これからのデジタルイノベーションやデジタルトランスフォーメーション(DX)に関する視点から、中国のデジタルインフラ整備について講演した。

いまの中国において、経済・社会・政府を包含したデジタルチャイナ戦略が推進されており、既存産業へのDXによる社会実装が先行して成長している。その政策の中で、デジタルコア産業へのシフトとして、2020年のデジタルコア産業における対GDP比6.3%を、2025年には10%を目指すといったものがある。社会実装は民間資本に頼るとする一方で、根幹にあるのは半導体産業の振興政策であり、その上にコンピューティングパワー、そして通信ネットワークや新デジタル技術といった情報インフラがあるとし、政策的に重視している。

半導体製造については、世界中の国々が政策において支援しており、先進ノードといわれる小型の製造能力は台湾と韓国が独占している。中国の半導体市場は世界の35%程度を占める中で、生産できるのは外資系も含めて15%程度といわれている。米中問題がある中で、中国では生産技術力の向上や自国製造といった自給率の向上が急がれている。

中国政府は、生産基盤なり技術基盤がある企業に対するスケールアップとしての投資が多い。一方で日本は、スケールアップに対する支援が少ない。中国の半導体の製造は、露光設備に対する海外からの規制により微細化への限界もあるが、後工程については進んでおり、国内にとどまらず韓国・シンガポール・マレーシアなどの海外に進出している。

さらに、データセンターをはじめとするコンピューティングパワー(計算能力)といった中国の立ち位置はアメリカに次いでおり、特にAIと関係するコンピュータ能力はかなり発展してきていると指摘した。IoTの進展によるデータトラフィックの増加が見込まれる一方で、中国全国のネットワーク化やデータセンターの消費電力に関する議論も進んでいる。その結果、2022年から東数西算プロジェクトが開始された。また、データセンターのグリーン化も推進されている。国内のデジタル整備で進歩したデジタル産業はデジタル一帯一路にもつながるものである。

最後に、中国や世界の状況からみて、日本においてもコンピュータのパワーとしてのデジタルインフラ整備を進める一方で、それを生かすためデジタル循環社会に向けて、データ資産の創出や活用といったデジタルイノベーションとしての社会実装を同時に進行させる必要があるとして締めくくった。

本格的な市場獲得型投資へ転換する中国企業の対東南アジア進出―時系列から見た中国対ASEAN投資の変化― (苑氏)

10年程前に東南アジアに進出する中国企業の調査を実施しており、現在の状況はどのように変化しているかという問題意識に基き、それらの調査結果を報告した。

東南アジアに対して、日本は中国よりかなり前から投資をしており、中国の投資は相対的にまだ小さいともいえる。一方で、中国企業におけるASEANへの直接投資額や残高、現地法人数および現地雇用者数の増大がみられ、この10年で存在感は増していることが述べられた。家電製品や自動車などの製造業が注目され、日本企業のシェアを奪ってきている。また、未来型の戦略として、情報通信分野のクラウドやデータセンターなどや、電気自動車の進出も見られる。

東南アジアへの直接投資としては、エネルギー・交通運輸・ロジスティクスだけで6割強となり、国有企業による一帯一路への投資および整備が大きく割り振られていることが示された。

多くの産業分野においての事例を示された上で、「中国における対外直接投資は戦略的調整段階を迎え、ASEANへの直接投資を意図的に増やそうとする動きがみられる。中国企業によるASEANへの直接投資は、本格的な市場獲得の段階に移りつつある。中国のASEAN進出により、同市場における日本企業の優位性は一部の分野で弱まる可能性があるうえで、中国の製造業の競争力の向上を反映している。競争優位を有する戦略型・未来型の産業分野への投資を意図的に増やすことが読み取れ、中国の"外循環"や"一帯一路"戦略目標とも合致するものである。」として締めくくった。

最後に

本研究会では、中国の産業技術政策や技術開発の変遷、デジタルインフラ整備への重点化、中国のASEANへの進出等について事例を交えた中国の双循環(二重循環)戦略と産業・技術政策に関する多様な視点が提供された。

講演後、登壇者同士・視聴者による活発なディスカッション・質疑応答がおこなわれ、丸川氏より「間もなく中国が高所得国に入ってくると思われるが、今後も14億人の所得を高めるには必ず日本との分業となる」、金氏より「IT技術の進展により中国へのアウトソースする構造は変わってきており、日本企業も考えを変えなければならない。日本にも可能性がたくさんある」、苑氏からは「日本は在来型産業から離れる傾向にあり、東南アジアなどにおいてそうした分野に中国が進出している」など、今後の関係性や可能性等が指摘され、締めくくられた。

(文: JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー 小松 義隆)


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