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第12回アジア・太平洋研究会「台湾の科学技術力:蔡英文政権のイノベーション政策と基礎研究動向」(2022年6月10日開催/講師:田崎 嘉邦)

日  時: 2022年6月10日(金) 15:00~16:30 日本時間

開催方法: WEBセミナー(Zoom利用)

言  語: 日本語

講  師: 田崎 嘉邦 氏
野村総合研究所(台湾)・董事兼副総経理

講演資料: 「第12回アジア・太平洋研究会講演資料」(PDFファイル 2.95MB )

YouTube [JST Channel]: 「第12回アジア・太平洋研究会動画

田崎 嘉邦(たざき よしくに)氏

野村総合研究所(台湾)・董事兼副総経理

略歴

1993年 野村総合研究所入社。
台湾には、同社支店・現地法人において、2000~2003年、2008~2016年、2020年~現在と合計3回、12年半に亘る駐在歴があり、2020年より現職。
専門は企業のグローバル(主に中華圏)事業戦略、クロスボーダー事業提携、M&A、都市・不動産開発、インフラ開発計画、産業政策の策定等。
日本企業向けのコンサルティング業務だけでなく、台湾政府や企業向けのコンサルティング案件も数多く手掛ける。

第12回アジア・太平洋研究会リポート
「台湾の科学技術力:蔡英文政権のイノベーション政策と基礎研究動向」

台湾における事業戦略や産業政策を専門とし、アジア・太平洋総合研究センター(APRC)における同名の調査を実施した野村総合研究所(台湾)・董事兼副総経理の田崎嘉邦氏が6月10日、APRC主催の研究会において講演を行った。半導体・電子機器等を主力として高い経済成長を達成している台湾は、科学技術に関してどのようなポテンシャルがあり、あるいはどのような課題があるのか。日本との協業の可能性も含めて田崎氏の講演を以下のようにまとめた。

オンラインで講演する田崎嘉邦氏

コロナ禍でも高い経済成長を達成

田崎氏は、冒頭、台湾の現在の経済について「現在、台湾の経済状況は極めて好調である。台湾の2021年度の国内総生産(GDP)成長率は前年比6.57%であり、かなり驚きがある。2022年の見通しも3.9%程度と維持される見込みである」とコロナ渦にもかかわらず高い経済成長を達したことを指摘。

具体的には「顕著であるのは資本形成であり、特に半導体などを例として、工場・研究開発センターへの投資により製品の輸出が伸び、従業員の所得増にもつながっている。従来、海外で使われていた消費が(コロナ禍で)域内消費に向くという好循環を生んでいる。これは、半導体・電子機器関係の競争力があってこそのものでもある」と分析した。

民間投資が牽引する台湾の科学技術力

田崎氏は、こうした経済成長を支える要因の一つに「科学技術力」を挙げ、「従来、台湾の研究開発は、基礎研究より、応用研究や製品化に注力してきた。こうした状況に台湾も危機感があり、再度、基礎研究に力を入れてきている」と解説した。

続けて、台湾の科学技術力の概観について以下のようなポイントを示した。

  • 台湾では、研究開発費も伸びており、GDP比でも伸びている。要因として、公的部門はあまり変わらないが、民間企業の研究開発投資がこれに寄与しており、台湾積体電路製造(TSMC)も、売り上げ(7兆円程度)の10%を研究開発費に回している。2018年時点では、鴻海(Foxconn)、TSMC、MediaTekが研究開発に数千億円を投資していた。こうした研究を支える人材は、各企業に非常に高給で雇用されており、自由度のある研究費とあわせて、公的部門から人が流れてきている可能性がある。
  • 論文は、臨床医学、工学、化学、材料科学が多い。最近、引用数、平均引用数が上がっているが、世界的に母数が増えている中で、ランキングとしては、20位前後に、やや下がっている。特許は、米国特許申請数は、横ばいである。
  • 技術貿易の収支では、もともと米国からの技術輸入が多かったが国内で開発できるようになってきており、2018年にほぼイーブンとなっている。一方で、中国等の海外への技術輸出が増えきたところ、最近、半導体関連は技術流出を防ぐ法律があり、事前申請として大変厳しくなっている。

蔡英文政権下の科学技術イノベーション政策

田崎氏は、台湾の科学技術政策の経緯について次のように触れた。

「台湾では、科学技術発展計画が4年に1回改訂される。2017年からの計画(前期)では、5+2産業計画と強いリンクを持って推進されてきた。2020年からは、産業計画が6大核心産業計画となり、科学技術発展計画でも意識されている。情報デジタル、情報セキュリティ、医療・健康、グリーンエネルギー、国防、民生等に重点分野とされている」

蔡英文政権における最近の課題と省庁再編については、「前期計画の課題としては、社会・産業のニーズとあっていない、縦割り、産業界に結びつかないことがあった。それでも、日本よりは産学官の連携は密接であると考える。人材育成のための共同出資プログラムなどがある」と述べた。また、縦割りの解消を目的に、科学技術部が国家科学技術委員会に格上げされ、予算配分も含め委員会が実施することとなるだろうとした。

日本との協業の可能性

台湾の課題について、「台湾は、基礎研究の比率が約7%まで低下しており、国際比較でも低い数字である。また、大学のなかでも企業との連携が行きすぎているとの危機感があり、現在はこれを10%まで戻すことが計画されている」と述べた。

日本との協業分野として、台湾が強い材料科学・物理・化学などのほか、宇宙科学などが中心であり、グリーン、バイオテクノロジーなど、政策面で力が入っている分野もあり、後押しが受けやすいとした。研究協力における課題・対策としては、明確な共同研究計画の作成、さらなる資金・研究施設への公的支援、ネットワーク作りのための交流を挙げた。

田崎氏は今後について「台湾は、応用研究・開発が得意だが、基礎研究を大事にしないと壁に当たることを問題視している。次世代技術に向けた動きが出てくるため、こうした分野での協業がこの先、重要となってくるだろう」と締めくくった。

(文: JSTアジア・太平洋総合研究センター 主査 川﨑幹史)


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