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第30回アジア・太平洋研究会「ASEANのさらなる経済発展に向けて」(2024年3月15日開催/講師:渡辺 哲也)

日  時: 2024年3月15日(金) 15:00~16:30 日本時間

開催方法: WEBセミナー(Zoom利用)

言  語: 日本語

講  師: 渡辺 哲也氏
東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA) 事務総長

講演資料: 「第30回アジア・太平洋研究会講演資料」(PDFファイル 4.94MB)

渡辺 哲也(わたなべ てつや)氏

東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA) 事務総長

略歴

東京大学法学部卒業後、通商産業省入省。
内閣官房 TPP 政府対策本部 内閣参事官、経済産業省通商政策局通商機構部長、経済産業大臣特別顧問などの後、2023年から現職。


第30回アジア・太平洋研究会リポート
「ASEANのさらなる経済発展に向けて」

今日、世界の成長センターの1つとして、科学技術や経済を牽引するのが東南アジアである。その躍進は、過去30年間続くGDPの伸びと、若い生産年齢人口に支えられ、「epicentrum of economic growth(自らが経済成長を牽引する)」という表現が端的に表している。諸外国と幅広くパートナーシップを結ぶ同地域との連携協力は、日本にとっても新たな活路となる。その経済発展をどう支え、共に歩んでいくのか。東アジアASEAN経済研究センター(ERIA)の事務総長を務める渡辺哲也氏を講師に迎え、その展望をご講演いただいた。

東南アジアの経済統合を支える国際機関として

ERIAは、東アジアの経済統合深化を図るべく政策研究・立案を行う国際機関として、日本が主導する形で、ASEAN10カ国と日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの各国の合意に基づき、2008年にインドネシア・ジャカルタで設立された。6つの領域(経済・通商、エネルギー、ヘルスケア、環境、デジタル、農業)で加盟国の政策立案に資する調査・研究を実施し、政策提言と能力向上を支援している。とりわけ近年は、(1)新たな技術分野の進展に関わって、経済成長と脱炭素化をどう両立していくか、また(2)国境を越えるデータ交易をどう扱うかを課題に、様々な調査研究プロジェクトを推進している。

ERIAは経済統合を支える国際機関であるものの、その地域の成長を急速に進める駆動力として科学技術イノベーションも重視している。例えば近年、ASEANの科学技術・イノベーション委員会(COSTI)とは緊密な連携をはかり、域内工科大学とのネットワーク強化に力を入れるなど、「信頼されるパートナー」としてのERIA、さらには日本とASEANとの連携強化にも貢献している。

米中対立を契機とした緊張が高まるなかで「昨年ASEAN議長国を務めたインドネシアはどう地域の存在感を保っていくかを戦略的に考えている。グローバル・サウスとしてのインド太平洋地域の平和と安定のためには、どちらかの勢力につくのではなく、リスクヘッジをしつつバランスを取るとの非同盟の伝統的な考えに基づいて地政学的緊張を緩和する行動をしている」と渡辺氏は指摘する。また、経済面では、半導体、電気自動車(EV)、重要鉱物などの分野において、ASEAN各国は検査、パッケージングなどのサプライチェーンの下流は既に占めているが、中核は担えていないと言う。例えばニッケル・コバルトなどの産出から精練・バッテリー生産へと転換するように、現状からサプライチェーンのより上流から下流まで一貫して食い込めるかが国際競争の確保において重要となると指摘する。

活気ある生産年齢人口が推し進める 急速なイノベーション

インドネシア国民の平均年齢は、日本の40歳代に比べて、20歳代後半と若い。シンガポールやタイなどの諸国は高齢化の兆しを見せるものの平均年齢は日本よりはるかに若い。この地域の人口ボーナスは、将来の経済成長を支える大きなポテンシャルとなる。「ジャカルタ市内の中心部は、多くの自動車とバイクで毎日朝と夕方以降は大渋滞だ」と、渡辺氏は日々の実感を込めて述べる。

顕著な成長を見せるのがスタートアップだ。活気ある生産年齢人口に支えられて、その資金調達額、ユニコーン誕生数で、共にASEAN諸国は日本を凌いでいる。逆に日本は、ASEAN諸国への直接投資を規模・件数共に増やしており、資金面で強力に支援する。2020年から2023年まで日本の大型投資案件は多く、100億円を超える投資もインドネシアで2件、ベトナムで1件、シンガポールで1件、それぞれ行われた。

「他の新興国と同じく、東南アジアでは社会インフラや金融システムの未整備など、社会課題がそのまま事業課題となる。特に既存のインフラ整備を飛び越えて最新の技術製品が整うリープフロッグ型発展が、地域の発展を加速度的に後押ししていくだろう」と渡辺氏は見ている。

日ASEAN協力の将来を支えるハブとして

東南アジア地域の人々が自らの地域の世界的位置づけについてしばしば口にする「3つのミドル」(middle ground)がある、と渡辺氏は語る。「グローバルサプライチェーンの中間」「政治的中立」「経済的中間(中所得国)」だ。「世界を牽引する多様な国々がASEANとパートナーシップを結びたがっている。インドは『アクト・イースト』構想を打ち出して東南アジア地域との連携を窺っているし、EU、アメリカ、中国も同様にASEANと関係を深めようとしている。近年の国際関係の主軸をなす米国・中国のいずれにも与せず、対等に関係を保持しリスク分散を図る『ヘッジング』戦略を採りながら、自分たちの道を歩んでいる」と渡辺氏は指摘する。

こうした中、ERIAはASEANと東アジア地域の協力を促すハブとして、各国政府の政策策定にも深く関与している。例えば、インドネシアに対してはOECDやCPTPPへの加盟申請を支援し、ベトナムに対しては2045年までの先進国入りに向けた政策提言報告書「ベトナム2045」を提供している。また各国の産業界・学術界とも緊密な連携を図っている。

また、ERIAは東南アジア域外関係でも連携を進めており、日本が議長を務めた昨年のG7関係閣僚会合へ参加した。またG20においてもグローバル・サウスとの協力強化を支援するため、多くの関連閣僚会合に参加している。2023年には、議長国のインドと協力し、エネルギー転換閣僚会合で脱炭素化の現状を、農業閣僚会合ではデジタル農業の取組を報告した。またデジタル分野と持続可能性に関する調査と政策提言能力を強化するため、デジタルイノベーション・サステナブルエコノミーセンター(E-DISC)をERIAに設置し、ASEANの産学官連携やスタートアップ育成のための若い世代との交流の場とした。

さらに、脱炭素関連分野では、2023年3月に発足した、東南アジアを中心とした協力枠組である、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)を通じて、アジア・太平洋全体で温室効果ガス排出ゼロを目指した取組が日本主導で本格化する見通しだ。2023年12月には、日ASEAN友好協力50周年の節目として開催された日ASEAN特別首脳会議に併せて、初のAZEC首脳会合が開催され、そこではアジア・ゼロエミッションセンターをERIAに設立し、政策等の策定支援、官民連携推進を行うこととなった。

「半世紀を経て日本とASEAN各国のあり方は変わったが、ASEANから日本への期待は引き続き高い。その発展に今後も尽力したい」と渡辺氏は講演を締め括った。

(文:JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー 斎藤 至)


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