日 時: 2024年8月9日(金) 15:00~16:30 日本時間
開催方法: WEBセミナー(Zoom利用)
言 語: 日本語
講 師: 片岡 広太郎 氏
インド工科大学ハイデラバード校 計算機科学・工学科 教授
講演資料: 「第34回アジア・太平洋研究会講演資料」( 44.9MB)
YouTube [JST Channel]: 「第34回アジア・太平洋研究会動画」
片岡 広太郎(かたおか こうたろう)氏
インド工科大学ハイデラバード校 計算機科学・工学科 教授
略歴
博士(政策・メディア)。
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任助教、国際協力機構専門家、インド工科大学ハイデラバード校計算機科学・工学科訪問助教、訪問准教授を経て教授(現職・本務)。
慶應義塾大学SFC研究所上席所員(現職・兼務)。
在インド日本国大使館科学技術フェロー(現職・兼務)。
主な研究分野はインターネット、およびブロックチェーン。
片岡広太郎氏は10年超に及ぶインドでの教育・研究活動を通じ、日印交流に携わってきた。本研究会では、その経験から見えてくるインド学術・教育界の特徴と、インド科学技術人材を日本で活かすための秘訣についてご講演いただいた。
日本は外国の研究機関と連携する際、具体的なアクションが不明確になりやすい問題点がある、と片岡氏は説く。インドへの関心の高まりは悦ばしいが、相手方の価値観を汲み取り、レベル毎に具体的な双方向性を持たせることが必要である。特に人材交流・活用の観点では、インド人の労働観を知り適切に調整を進めることが成功の秘訣だという。
片岡氏が注目するインド科学技術人材は、どんな特徴を持つのか。トップ層の多くが学ぶインド工科大学(IIT)は、大学評議会を介して連携するシステム(大学群)の総称で、各分校は独立して運営されている。大学の競争力の根幹に研究が置かれ、国際会議や有力学術誌での成果発表が重視される。学生は常に競争的環境で学ぶ習慣から、成果への貪欲さが顕著で、問題を解き続ける高い知的体力、学術論文執筆への高いモチベーションを有し、起業やアイディアソンでの積極的な発表など、課外活動に到るまで、旺盛な研究活動を展開している。片岡氏が教鞭を執るIITハイデラバード校は、2008年以降に新設されたIITの中ではランキング8位であり、かつ最も親日的だという。
また、日本とインドという二分法に敢えて立つと、インドでは「ある研究課題にまず着手してみて、納期までに結果を考え抜きその達成に向けて挑戦する」という考え方が強い。このため進捗管理はおおらかで、失敗やリスクを恐れないものの、目標達成にむけた詳細な調整や管理は好まれない。慎重な吟味を重ね、結果を出すための過程を細かく逆算し、失敗やリスクの抑制が好まれる日本的な価値観とは対照的だ。「その課題に取り組むか否かを決める際に『YES』と答えるニュアンスの差を踏まえるのが、協力の成功する秘訣だ」と片岡氏は述べる。
デジタル分野における労働市場の実態は、たとえインドであっても供給不足の分野が多い。そのため、デジタル人材は絶えず新しい技術やスキルを学び、研究環境や労働市場の変化へ適応することが日常となっている。更に先端研究機器のコモディティ化によって、単に技術を保有するのみならず、それを適切な場面・条件に応用する着想力と実現力が重要度を増している。ここで柔軟なアイディアを持つインド人材の強みが活かされる。
こうした実態の下での労働慣行は、終身雇用ではなくジョブ型雇用であり、採用過程は企業主導となる。そのためインド人材を獲得したいと思う日本企業には、インターンシップで学生の資質を試しながら採用し、数年ごとにスキルやキャリアパスの見直しを考えてもらう姿勢が望ましい。就労に際した法令は遵守しつつ、外国人材が日本に何を求めているか、核となるニーズを見極めてまずこれを充たし、環境整備は徐々に軌道修正しながら進めていく。そして自身の専門性に対する愛着が労働市場の活力につながる環境をつくり、双方向での交流や先端技術へのアクセスを高める工夫を行うことが必要である。「こうした取り組みで、日本の労働市場自体もまた、人材流動性の高く活気ある環境へと変貌できるのではないか」と片岡氏は述べて講演を締め括った。
(文・JSTアジア・太平洋総合研究センターフェロー 斎藤 至)