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第41回アジア・太平洋研究会「中国のエネルギー安全保障に向けた取り組み」(2025年3月24日開催/講師:竹原 美佳)

日  時: 2025年3月24日(月) 15:00~16:30 日本時間

開催方法: WEBセミナー(Zoom利用)

言  語: 日本語

講  師: 竹原 美佳 氏
(独)エネルギー・金属鉱物資源機構 調査部長

講演資料: 「第41回アジア・太平洋研究会講演資料」(PDFファイル 7.5MB)

YouTube [JST Channel]: 「第41回アジア・太平洋研究会動画

竹原 美佳(たけはら みか)氏

独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構 調査部長

略歴

1993年4月 石油公団入団
総務部総務課、中国室、企画調査部に配属
2004年3月 JOGMEC石油調査部調査課にて中国、サブサハラ等の調査を担当
2010年4月 亜細亜大学大学院非常勤講師
2015年4月 JOGMEC調査部エネルギー資源調査課
2022年4月 現職(中国、韓国、台湾、インド担当)

主な著書:
『躍動する中国石油石化』(共著、化学工業日報社、2007年2月)、『台頭する国営石油会社』(JOGMEC編、エネルギーフォーラム、2008年)、『石油資源の行方』(日本エネルギー学会編(JOGMEC調査部編)、コロナ社、2009年)、『China's Climate-Energy Policy: Domestic and International Impacts』(Routledge 2018年)

※2004年2月29日に石油公団と金属鉱業事業団の機能を集約し、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)設立

※2022年11月14日にJOGMECの業務に、水素や風力に関する業務が追加されること等を踏まえ、「石油天然ガス・金属鉱物資源機構」から「エネルギー・金属鉱物資源機構」に名称変更


第41回アジア・太平洋研究会リポート
「中国のエネルギー安全保障に向けた取り組み」

今回は中国のエネルギー安全保障について、中国政府がどのような政策のもとにエネルギーの確保に取り組んでおり、その現状はどうであるか、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の竹原美佳氏からご講演いただいた。

エネルギー需給実績、対外投資

中国の2024年のエネルギー需給状況を見ると、中国国内で生産は前年比4.6%増の石油換算35.4億トン、消費は前年比4.3%増の石油換算41.8億トンで堅調に増加している。そのエネルギー消費の内訳は石炭54%、原子力・再エネ20%、原油17%、天然ガス9%の割合であるが、石炭9割、石油3割、天然ガス6割を自給している。再エネ・原子力は国産エネルギーと見なされており、全体として自給率は8割との高い値となっている。

2023年まで世界の石油需要(消費量)は中国がけん引していたが、2024年以降中国のけん引力は低下する見込みである。中国の石油需要は経済低迷、交通輸送エネルギー転換など構造的な変化で鈍化しており、また、陸路輸送がピークアウトし、石化シフト(石油をエネルギー生産のための燃料として利用することから、石油化学製品の原料として利用することへの転換を進めること)が進展してきている。原油の国内生産は、生産増強政策により投資は回復して毎年微増してきているが、海洋油田の開発が増産の主軸となっており、国内油田の開発は全体としては成熟化し、大幅な増産は困難な状況である。一方、原油の輸入は微減しているが、国内消費の7割を輸入に頼っている状況は変わらない。

天然ガスの生産・輸入も堅調な増加を見せている。大気汚染対策、燃料転換・生産増強政策により生産量は増加し続けている。ただし、2024年は中国・インドが世界のLNG需要をけん引していたが、2025年以降は欧州需要が増加し中国の需要が低迷する可能性もあるとした。また、中国の天然ガス輸入相手国として2024年にロシアが首位に浮上したことや主要な調達相手国の多様化の動きも注目すべきであると指摘した。

中国の天然ガス生産においてタイトガス、シェールガス、炭層ガスのような非在来型ガスは4割を占めている。中国政府は2025年3月、「グリーンエネルギー開発特別基金管理弁法」を発表し、中国式「Drill Baby Drill」とも言える、非在来型ガス開発利用奨励補助金を支援している。

石炭については2024年国内生産・輸入ともに過去最高を記録した。石炭の生産は世界生産の5割を占めており、中国の石炭消費の1割を輸入している。ただし、豪中関係悪化で2021~2022年の豪州からの輸入が一時停止し、調達先が多様化している一方、石油火力発電の建設承認を加速しており、2024年をピークに石炭の需要は低下していくのではないかと予測される。

電力については、依然、発電量も設備容量も火力が主力電源であるものの、伸びは鈍化している。再エネ・原子力が中国のエネルギー消費の20%を、発電量の37%を占めており、発電設備容量では57%を占め火力を上回っている。2022年以降は、発電量で太陽光や風力発電がそれぞれ原子力を上回っている。原子力発電は中国国内で建設が加速しており、先進国への輸出が頓挫しても中東などと提携や交渉を進めている。

中国のクリーンエネルギー戦略、サプライチェーン確立と誤算

中国は2010年代からエネルギー構造転換、製造業振興政策を展開しているが、安全保障(安定供給)を確保した上で現実的な低炭素化を追求している。

クリーンエネルギーと重要鉱物のサプライチェーンを確立し、エネルギートリレンマ(安全保障、公平性、環境の持続可能性)に適応している。ただし、中国のクリーンエネルギーと重要鉱物サプライチェーンの支配的な地位および生産能力、低コスト製品の輸出は、他国における安全保障上の懸念を招いている。

中国のエネルギー産業政策は、2015年公表の「中国製造2025」に省エネ・新エネ自動車、電力設備などエネルギー関連産業の育成が含まれており、現在は習近平総書記の「新質生産力」に置き換わっている。

一方、レアアースやリチウムといった重要鉱物のサプライチェーンは中国を始めとした特定の国へ過度に依存している状況から、脱炭素化に伴う重要鉱物のサプライチェーンリスクが懸念されている。なお、重要鉱物の精錬能力拡張の様子を見ると、2023年~2035年にかけての銅、リチウム、コバルトの精錬能力は世界全体の増加分の50~75%を中国が占めており、上述の懸念が解消される動きとはなっていない。

IEA(国際エネルギー機関)によると、クリーンテック市場規模や貿易額は2035年にかけて現在のほぼ3倍の規模まで大きく拡大する見通しである。しかし、中国の貿易額に占めるシェアは2035年に向けて製造拠点が中国から大消費地に近い国・地域に分散するなどの理由で漸次縮小すると予測された。また、クリーンエネルギーへの移行が加速し続けるためには、適切な産業政策や貿易政策が重要である。

一方、米国の対中デリスキング措置に対して、中国は対抗関税や、WTO提訴、重要鉱物の輸出管理規制、エンティティ・リストなどの対抗措置を実施している。これに伴い、香港企業がパナマ運河港湾運営から撤退するなどその影響が出ている。

中国のエネルギーにおける今後の注目点

中国のエネルギーに関する今後の注目点として、大きく制裁・関税への対応、産業構造改革、排出削減(低炭素化)が挙げられる。

まず、米国の対資源国制裁強化による中国の原油貿易の影響は、制裁よりも関税による経済悪化に伴う石油需要減少と製油所整理統合の影響が大きい。また、LNGに関しては、米国の関税による経済悪化に伴うエネルギー需要減少と世界のLNG市場への影響は短期・中長期で今後も注視すべきである。中国はエネルギー自給率が高く、輸入依存低減策を推進しているが、消費規模や経済合理性から、今後も資源国との相互貿易・投資など関係深化は必要である。

産業構造改革については、中国は石油の精製処理能力を今後は減らし、製油所の統廃合を段階的に推進している。これによる大手国有・地方製油所設備の集約化、石化シフトが進むと予想される。特に石炭の場合、生産は2027年、消費は2030年前後にピークアウトするだろうと予測し、天然ガスはガスシフトや再エネ調整電源化により拡大するであろうことに注目した。

最後に、排出削減(低炭素化)については、中国のエネルギー消費に占める原子力・再エネの割合は、目標を前倒して達成しているが、GHGの排出においては目標達成が難しい状況である。それに対して、エネルギー強度算出方法の変更やグリーン電力証書(GEC)など、排出抑制政策を導入していることにも注目すべきである。そのほかにも、気候変動における中国の立ち回りや、湾岸産油国とのエネルギー貿易から投資パートナシップへの関係深化も注目すべきである。

(文:JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー 安 順花)


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