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第43回アジア・太平洋研究会 -科学技術イノベーションを巡る最新事情-
「台湾及び韓国における半導体産業と人材育成施策:日本の半導体産業復興に向けての示唆」(2025年6月13日開催/登壇者:田崎 嘉邦、柳 赫)

日  時: 2025年6月13日(金) 15:00~16:30 日本時間

開催方法: WEBセミナー(Zoom利用)

言  語: 日本語

登 壇 者:
田崎 嘉邦 氏
台灣野村總研諮詢顧問股份有限公司(NRI台湾) 董事兼副総経理
柳 赫 氏
株式会社野村総合研究所ソウル(NRI Seoul) 代表理事社長

講演資料: 以下の講演タイトルをクリックしてご覧ください。

YouTube [JST Channel]: 「第43回アジア・太平洋研究会動画

調査報告書:
台湾における半導体人材育成施策と実態

田崎 嘉邦(たざき よしくに)氏

台灣野村總研諮詢顧問股份有限公司(NRI台湾) 董事兼副総経理

台湾における半導体産業と人材育成施策」 (PDFファイル 2.0MB)

略歴

現職は台湾野村総合研究所の董事兼副総経理。台湾には2000~2003年、2008~2016年、2020年~現在と合計3回、16年強に亘る駐在歴がある。
専門は企業のグローバル(主に中華圏)事業戦略、クロスボーダー事業提携、M&A、都市・不動産開発、インフラ開発計画、産業政策の策定等。日本企業向けのコンサルティング業務だけでなく、台湾政府や企業向けのコンサルティング案件も数多く手掛ける。


柳 赫(りゅう ひょく)氏

株式会社野村総合研究所ソウル(NRI Seoul) 代表理事社長

韓国の半導体産業動向及び人材育成施策」 (PDFファイル 1.4MB)

略歴

2003年に慶應義塾大学商学研究科を卒業後、2005年野村総合研究所に入社し、2024年から野村総合研究所ソウル法人の代表理事を務めている。
専門分野は、国家間の技術協力、市場拡大、ビジネスモデルの高度化、企業価値向上支援及びM&A支援などで、特に、半導体、2次電池、化学、エネルギー分野で大手企業やテック企業の企業間・国家間コーディネーター役をしている。


第43回アジア・太平洋研究会リポート
「台湾及び韓国における半導体産業と人材育成施策:日本の半導体産業復興に向けての示唆」

台湾と韓国は半導体製造において、それぞれファウンドリーとメモリ分野で世界シェアトップを占めている。本研究会ではその人材育成施策に着目し、台湾野村総合研究所の田崎嘉邦氏と野村総合研究所ソウルの柳赫氏をお招きし、両国の半導体産業動向と人材育成システムについてご講演をいただいた。

台湾における半導体産業と人材育成施策

半導体製造関連産業は大きく、半導体製造工程の設計、前工程、後工程と、それを支える材料、製造装置の5つの分野からなり、台湾はこのうち、半導体製造工程、特に前工程に強みを有する。さらに台湾には半導体を使ってサーバーやスマートフォンなどを組立する半導体ユーザー企業が存在し、これらを使うマイクロソフト、アマゾンなどの米国企業との強いつながりをもってサプライチェーンを構築している。また、半導体材料や製造装置において強みを持つ日系企業との協力関係を築いている。

台湾企業は、ファウンドリー(前工程)ではTSMC・UMC・PSMCが、OSAT(後工程)ではASEなどが、世界トップシェアを誇る。

台湾の半導体産業は、1976年工業技術研究院(ITRI)が米国のRCA社と半導体技術移転契約を結び、台湾当局が1000万ドルを投資し3インチウェハの試験工場を設立したことから始まる。その後、政府主導で1980年に新竹サイエンスパークが設立され、1987年に試験工場をスピンアウトする形でTSMCが設立された。以降もITRIから半導体企業が次々と誕生し、清華大学や交通大学など半導体研究中心大学による人材教育・基礎研究、ITRIによる応用研究といった役割分担とともに、米国在住の華僑によるシリコンバレーとの関係構築が奏功し、台湾半導体産業の発展につながった。

半導体産業人材は、IC設計、製造工程において高度人材と現場作業人材に分けられるが、台湾の場合、製造が強いため、生産プロセスのR&Dに関わる人材がより求められる。

台湾の半導体産業人材の工程別出身校をみると、上流のIC設計では国立の陽明交通大学・成功大学・清華大学・台湾大学、中流の前工程では成功大学・陽明交通大学・清華大学・台湾大学の順で、上・中流では「台成清交」と呼ばれる名門国立大学の割合が高い。
台湾でも少子化が進んでおり、学生数は減少しているが、STEM関連学部の割合は増加傾向にある。台湾では理系の年収が高く、中学・高校でSTEM啓蒙活動も積極的に行われており、理系は根強い人気がある。

台湾の人材需要については、半導体景気の影響を受けて、2023年に採用人数が大幅に減少したものの、AI需要増などにより回復傾向にあり、給与は高水準で上昇を続けている。
現状では台湾の人材需給はそれほど逼迫してはいないが、2300万人の人口で少子化の影響もあり、2030年にはSTEM系人材が70万人近く不足するとの予測もある。このことから、台湾でも半導体人材育成が重要な課題となっている。

台湾は産官学が緊密に連携し、お互いリソースを補完しあう人材育成エコシステムを形成している。台湾教育部では半導体人材プール、つまり人材の量的拡大を促進し、一方で国家科学及技術委員会では博士・研究者など高度人材育成、つまり人材の質の向上策を打ち出しており、それぞれ役割分担をしている。

台湾の半導体産業はサイエンスパークを中心に、台湾西側の南北を縦断するように集積し、北部が電子・半導体産業、南部は化学工業及び半導体後工程に強みがある。

台湾大学、陽明交通大学、成功大学など研究型大学には半導体学院があるが、半導体だけではなく、マネジメントや材料など様々な分野を学ばせる幹部コースとなるのが特徴である。高雄科技大学など実践型大学は、半導体企業出身の教員が多く、企業と密接に連携しながら実践的なトレーニングを通じて後工程や装置エンジニア人材を育成している。さらに企業においては、半導体学院に資金提供し、大学と密接に連携しながら人材育成を行っている。

一方、人材不足に備えるための国際的な人材獲得に向けて、国家発展委員会では台湾移住を促す制度づくりや生活環境整備を担い、教育部では大学等における短期実習を支援する奨学金プログラムなどを提供している。

最後に、台湾では日本との半導体研究者・学生などの交流や人材育成について非常にポジティブであり、台湾と日本を行き来しながら実習や産学共同研究、教員育成など、事例を交えて日台協力の在り方について提案した。

韓国の半導体産業動向及び人材育成施策

韓国の半導体産業は半導体全工程を一貫して行うIDM(垂直統合型)企業を中心として、半導体装置企業、素材企業と生態系を形成し、携帯電話・モバイル機器・自動車・ロボットなどの産業を支えている。

韓国の半導体産業は、世界経済の影響を受けながらも持続的に成長してきた。サムスン電子、SKハイニックスの2社が成長をけん引しており、ファブレス、ファウンドリー、OSATは存在感が薄い状況である。

韓国では1974年に初めての半導体企業の韓国半導体が設立され、1977年にサムスンにより買収された後、1978年にサムスン半導体が設立された。1983年にはSKハイニックスの前身である現代グループがメモリ半導体事業を開始したが、2012年にSKグループに買収され、現在のSKハイニックスに至っている。初期から標準化や大量生産が可能なメモリ半導体を事業の中心としていたが、2024年からは次世代メモリ半導体のHBM市場の主導権競争が激しくなり、SKハイニックスは著しい成長を遂げている。一方、DRAM市場では、中国が急成長しており、韓国の半導体産業は基盤が脆弱であることから今後のシェア拡大は難しいとの意見もある。

韓国の半導体人材は、主力分野であるメモリ、システムでは上級人材の割合が高いものの、全体としては中級人材の割合が高く、従事者は中小企業の多い素材分野に集中している。

ただし、今後製造や基盤分野などすべての領域で人材需要が増加すると見込まれており、2031年には約12万7千人の人材不足が予測されている。従って、人材需給の不均衡の解消や人材需要の多様化への対応が今後の課題となっている。

韓国政府はこれまで半導体産業のニーズに対応する形で、契約学科などの人材育成施策を展開していたが、重要性が高まっている半導体に特化した専門人材育成戦略はなかった。そこで2022年に策定された「半導体関連人材養成方案」では、必要な人材類型別で育成施策を多様化し、政府も人材育成支援を拡大し、教育部を含む5つの省庁が役割分担しながら取り組んでいる。また、これまでIDM拠点のある首都圏の教育機関に半導体人材育成事業が集中しているとの指摘を受けて、これらの事業は地域ごとの需要に合わせて全国に拡大しつつある。

最後に、優秀な人材の早期確保、人材流出防止のための半導体契約学科や、半導体産業の均衡ある発展に向けた人材育成の多様化、企業の半導体教育への参加活性化、地域間均衡発展のための拠点間の緊密な連携、人材の地域定着などの韓国の取り組みは、今後の日本の半導体産業復興に向けて参考となるものがあると述べた。

(文:JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー 安 順花)


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