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第48回アジア・太平洋研究会 -科学技術イノベーションを巡る最新事情-
「ASEANにおけるスタートアップ(活躍する日本人起業家の事例)」
(2025年11月17日開催/講師:佐脇 英志)

日  時: 2025年11月17日(月) 15:00~16:30 日本時間

開催方法: WEBセミナー(Zoom利用)

言  語: 日本語

講  師: 佐脇 英志 氏
公立大学法人都留文科大学 教養学部 地域社会学科 教授

講演資料: 「第48回アジア・太平洋研究会講演資料」(PDFファイル 3.1MB)

YouTube [JST Channel]: 「第48回アジア・太平洋研究会動画

佐脇 英志(さわき ひでし)氏

公立大学法人都留文科大学 教養学部 地域社会学科 教授

略歴

住友銀行(現三井住友銀行)で銀行業務を経験後、30年近く海外ビジネスを経験。
東南アジアにて、電機メーカーの営業・資材責任者、現地代表、印刷会社のCEO、クレーン工場の現地責任者等、20年5回海外駐在をしてアジアの経営に携わる。多民族の人たちと一緒に様々な問題解決を行ってきた。
職務の傍ら、夜学でビジネススクールに通い勉強し英国MBA、オーストラリア経営学博士を修得。
また、地方銀行協会講師「企業価値評価講座」「コンサルタント養成講座」「事業承継講座」「リレーションシップバンキング講座」を担当した。
現在の主研究テーマは、「アジア・アフリカの日本人起業家の実証研究」(科研費、異文化経営学会助成金)。


第48回アジア・太平洋研究会リポート
「ASEANにおけるスタートアップ:日本人起業家の事例」

東南アジア諸国連合(ASEAN)に加盟する11カ国は、2010年代に科学技術力を急激に伸ばし、科学技術イノベーション協力が期待される相手ともなっている。加盟国間の所得格差や科学技術力の差は依然大きい一方で、労働力や資金調達の面で補完関係を築いている。このようなASEAN各国の状況を踏まえ、今回は佐脇教授にこの地域のスタートアップの状況等を講演頂くこととなった。

佐脇教授は、通算20年近くに及ぶ東南アジア駐在経験の中で、1990年代末に日本企業の倒産や撤退を目の当たりにし、その再興に尽くそうと英国と豪州で経営学の学位を取得した。その後「世界で戦える学生を育て、かつその同志(教育者)を育てたい」との動機から、現在は日本の大学で研究教育に従事する。研究対象は、ASEANで活躍する日本人起業家である。起業家たちは、どんなイノベーションを起こし事業を立ち上げたのか。その過程で直面する課題をどう解決(克服)し、学習とネットワーク構築を行ったのか。当研究会では、現在進行中の研究から一端をご講演いただいた。

ASEANのスタートアップの特徴

ASEANのスタートアップ・エコシステムを概観すると、共通の特徴が指摘できると佐脇教授は述べる。

  1. 政府の積極的支援:シンガポールやインドネシアなどでは、政府や公立の研究教育機関がテック系起業を手厚く支援するスキームが確立している。
  2. 幅広い産業分野:小売を中心に、金融(フィンテック)、ヘルスケア、農業や観光にまで及んでいる。
  3. デジタル経済の急成長:電子商取引(eコマース)に基づくビジネスモデルが、スマートフォンなどの新しいデバイスを介して、若い消費者層に素早く浸透し、商圏を形成した。
  4. 多数のユニコーン企業:11カ国を総計しても日本より小さい経済規模(2022年時点)ながら、29社を輩出する(日本は8社)。日本の起業家と異なり、上場よりも事業自体に注力し、起業エコシステム、提供サービス、デジタル人材の豊富さが時価総額の上昇を支える。
  5. 国際的な投資家の関心:ベンチャーキャピタル(VC)も急激な伸びを見せているが、近年は低迷。エクジットはM&Aが中心である。

一方で事業環境としては、政府主導の影響から政府系企業への経済の依存度が高く、従来の大手財閥による寡占構造が続く点が、スタートアップの成長を妨げる要因とも指摘されている。

表 各国ユニコーン企業数
国名
社数 689 163 68 23 15 13 8 7 3 2 1 1

出典: CBInsights(2025年1月)から講師作成 * 橙色がASEAN諸国。なお以はイスラエル。

特徴2や3の代表例に、シンガポール発のShopee、中国アリババグループ傘下のLazada、インドネシア発のTokopediaという三大巨頭の攻防がある。各社は創業間もなくの2010年代に市場シェアの獲得を巡って熾烈な競争を繰り広げた。2025年現在、Shopeeが5割超の市場シェアを握り、LazadaとTokopediaが残る半数の獲得を争っている。一方で、中国のECプラットフォームTik Tok ShopやTemuも東南アジア進出を急速に進めており、市場は今後も激しく変化するとみられる。

更に2020年代、各社は新型コロナ禍明けにVC金額件数やユニコーン企業数で大きな盛り上がりを見せた後、急激に冷え込んでいる。先進国スタートアップも経験した「冬の時代」をどう乗切るかが課題となっている。

イノベーション戦略と日本人起業家の特徴

イノベーションの理論的系譜には、シュンペーターの5つの類型やドラッカーの「7つの機会」がある。これを踏まえて佐脇教授は、ASEANスタートアップの主要なイノベーション戦略として、タイムマシーン経営戦略(海外で成功したビジネスモデルの国内移転)、ピボット(路線変更)戦略、リープフロッグ(先端技術による一足飛びの成長)戦略を提示する。そして数十件に及ぶ日本人起業家らの事例観察から、起業家たちもこの3つを駆使し活躍している、とみる。

但し留意すべき点に、佐脇教授は日本人起業家が直面する事業環境の厳しさを挙げる。実は起業家たちの多くは、各国政府のスタートアップ・エコシステムから恩恵をほとんど得られていない。更に日本の政府や金融機関からの支援も十分に得られず、日本人駐在員のような本国企業の支援もない。一方、競争相手となるASEANの起業家たちは、各国政府のエコシステム等の恩恵を受ける、西欧型エリート教育を受けた気鋭の若者たちだ。

この逆境へ日本人起業家らは果敢に立ち向かい、強靭に事業を展開している。更に、WAOJE(世界海外起業家組織)のような和僑コミュニティを形成し、相互扶助の体制を自ら構築しつつある。「日本の若者の『起業家精神の欠如』、『海外離れ』、『創造性の欠如』は、日本の失われた30年の元凶と言えるが、ASEANで活躍する日本人起業家はこの欠如を克服しており、日本の将来を再興するうえで参照すべきロールモデルだ」と佐脇教授は説く。

質疑にて「日本の学生が海外離れする要因は何か」と参加者に問われ、「家族など身近な存在に海外経験者が乏しい」ことを佐脇教授は挙げる。インターネットやSNSに溢れる情報の渦に接して満足するのでなく、自ら現実の外国に足を踏み出してみることが重要だ、と指摘する。

日本人起業家の新たなフィールドを見据えて

佐脇教授は新たな課題として、インドとアフリカの日本人起業家研究にも着手している。アフリカ54カ国には中国人が約200万人在住し、その半数は起業家だが、日本人は総数でみても、インドで8,000人、アフリカ全土で6,000人に留まる状況がある。しかしながら、少数ながら先鋭的な起業事例が存在しており、これらの地での日本人起業家にも注目したい、と佐脇教授は述べる。

質疑にて「マレーシアやベトナム等に日本が出資した理工科大学との連携」について参加者に問われ、佐脇教授は理工系分野での日ASEAN連携の可能性にも期待を述べた。その際「自分たちが現地に教える」という姿勢や技術至上主義に陥るのではなく、「何が学べるか」「生まれた技術をどう活用するか」が重要ではないか、と指摘し、佐脇教授は講演を締め括った。

(文: JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー 斎藤 至)


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