新インド国家予算案(2021年度)から読む科学技術開発への強い意欲

2021年04月02日 西川 裕治(元 JST インドリエゾンオフィサー)

2021年2月1日、インド政府は、毎年恒例となる次年度(2021年度)国家予算案を発表した。予算案には、以下の6つの柱となる重要な事業分野が掲げられている。

  1. 健康と福祉(Health and Wellbeing)
  2. 物的資本・金融資本とインフラの充実(Physical & Financial Capital, and Infrastructure)
  3. 上昇志向のあるインドへ向けた包括的な開発(Inclusive Development for Aspirational India)
  4. 人的資本の再活性化(Reinvigorating Human Capital)
  5. イノベーションと研究開発(Innovation and R&D)
  6. 最小の政府・最大のガバナンス(Minimum Government and Maximum Governance)

インド政府・首席科学アドバイザー事務所(Office of the Principal Scientific Adviser to the Government of India:PSA)、及び、首席アドバイザーであるヴィジェイ・ラグハヴァン教授(前バイオテノロジー庁長官)によると、今回発表された国家予算案の柱には、イノベーションと研究開発が初めて設けられ、その内訳は以下の10のミッション(事業分野)に集約されると発表された。

  • ①国立研究財団(National Research Foundation: NRF):

    2019年に設立が発表されたNRFのあり方が定められた。5年間で5,000億ルピー(約7,500億円)が計上され、国の優先的推進分野に沿った研究エコシステムが強化される。

    予算案の発表後、同氏は「NRFは、インドの研究およびイノベーションの可能性を大幅に強化するために、学際的および社会科学的研究を含むすべての種類、分野にわたる査読付き研究開発を支援する。また、学術機関、特に研究能力が初期段階にある大学での研究に種をまき(seed)、成長させ(grow)、促進する(facilitate)だろう」と述べている。

  • ②国家言語翻訳ミッション(National Language Translation Mission : NLTM):

    NLTMの新たな取り組みにより、インターネット上の知識・情報を、主要なインドの言語で利用できるようになる。NLTMは電子情報技術省(MeitY)によって運営され、インド首相の科学技術革新諮問委員会(PM-STIAC)が掲げる9つのミッションの1つにあげられている。これにより、科学技術分野でのネット検索において高度な英語能力が不要となるとされている。

  • ③深海調査研究事業(Deep Ocean Mission: DOM):

    インドは長い海岸線を有しており、DOMには5年間で400億ルピーの予算が計上される。これは、深海調査・探査と深海の生物多様性保護のための事業で、次のような技術開発が含まれる。

    a)水中ビークルとロボット工学
    b)海洋気候変動に関するアドバイザリーサービス
    c)海洋生物資源の持続可能な利用のための技術革新と保全方法
    d)オフショアベースの淡水化技術
    e)再生可能エネルギーの生成
  • ④新興企業(スタートアップ)への免税措置:

    新興企業に機会とインセンティブを与えるために、予算案では、新興企業の免税を請求する資格、および、新興企業への投資に対するキャピタルゲインの免除が2022年3月31日まで、さらに1年延長される。このことで、インドでのスタートアップの立ち上げや成長が加速される。

  • ⑤Glue Grant:

    インド政府の支援する重点研究機関が、相乗効果を維持しながら自律性も維持できるように、正式な傘型構造として構築するためのGlue Grantを創設する。それにより、科学技術・研究開発クラスターの持つ地理的な近接性という強みを活かして、経済成長や富の創出を推進し、迅速かつ直接的な知識・情報交換を可能にする。このようなクラスター形成は、PSA事務所の下で、バンガロール、ブバネシュワール、デリー、ハイデラバード、ジョードプル、プネの6つの都市で開始されている。

  • ⑥水素エネルギーミッション(HEM):

    グリーンな電源から水素を生成するミッションを2021年度からスタートさせる。水素経済を導入・推進し、発電、電力貯蔵、輸送、工業用暖房、肥料生産におけるグリーン水素の使用を促進することで、大きな貢献が期待されており、エネルギー安全保障の達成と二酸化炭素排出量の削減を目指す。

  • ⑦Jal Jeevan Mission (注:2024年までにすべての地方の家庭に十分な飲料水の供給を目指すミッション):

    この新しいミッションは、4,378の、都市化が進む地方の自治体(Urban Local Bodies)に存在する2,860万世帯への給水と、500のAMRUT都市(注:ATAL: Atal Mission for Rejuvenation and Urban Transformation)での液体廃棄物管理を目指す。これは5年間で実施され、2兆8700億ルピーが計上されている。

  • ⑧Urban Swachh Bharat Mission 2.0(Clean India):

    このミッションは、2021- 2026年の5年間で1兆4167億8千万ルピーの予算で実施される。完全な糞便汚泥管理と廃水処理、ごみの発生源の分離、使い捨てプラスチックの削減、建設・解体活動からの廃棄物を効果的に管理する。その結果、大気汚染の削減および、すべての主要なゴミ廃棄処分場のバイオ・レメディエーション(注:微生物や植物等の生物が持つ化学物質の分解能力、蓄積能力などを利用して土壌や地下水等の汚染浄化を図る技術)を目指す。この事業でClean Indiaを都市部にも広げていく。インドは廃棄物ゼロの国に向けて動き出すことになる。

  • ⑨健康分野での研究開発(One Healthを目指す国立研究開発機関の設立):

    WHO東南アジア地域の研究プラットフォームとして、バイオセーフティーレベルIIIを持つ9つの研究所、および4つの地域国立ウイルス学研究所から構成される国立機関を設立する。さらに、国立疾病管理センター(NCDC)の強化に加え、統合医療情報ポータルをすべての州/連邦直轄領に拡張し、全国の公衆衛生研究所をネットワーク化する。これにより、インドでの健康・医療に関する研究開発が大幅に強化されることが期待される。

  • ⑩宇宙開発分野での研究開発:

    宇宙庁(DoS)傘下の公共事業部門であるNew Space India Limited(NSIL)は、ブラジルからのアマゾニア衛星といくつかの小型のインドの衛星を搭載し、極軌道打ち上げロケット(PSLV)-CS51により打ち上げられる。DoSは、NSILを通じて民間セクターによる幅広い宇宙開発活動への参加を可能にする。

    Gaganyaan(インド初の有人宇宙飛行)ミッションでは、最初の無人打ち上げは2021年12月に予定される。

以上から分かるように、2021年度国家予算案は、インド政府の科学技術開発に向けた強い意欲、決意が感じられるものとなっており、今後のインド科学技術の進展からは目が離せない。