コロナ禍での国際連携(日印連携)の可能性① ~金沢大学ビヨンド・コロナ・フォーラムの挑戦~

2021年5月14日

松島大輔

松島大輔(まつしま だいすけ):金沢大学融合研究域 教授・博士(経営学)

<略歴>

1973年金沢市生まれ。東京大学卒、米ハーバード大学大学院修了。通商産業省(現経済産業省)入省後、インド駐在、タイ王国政府顧問を経て、長崎大学教授、タイ工業省顧問、大阪府参与等を歴任。2020年4月より現職。この間、グローバル経済戦略立案や各種国家プロジェクト立ち上げ、日系企業の海外展開を通じた「破壊的イノベーション」支援を数多く手掛け、世界に伍するアントレプレナーの育成プログラムを開発し、後進世代の育成を展開中。

パンデミックとして世界共通の課題として直面しているコロナ禍の中で国際連携や国際交流は可能だろうか?-こうした現場の課題を逆手に取り、まさに「ピンチはチャンス」である。かつて米国第35代大統領ジョン・F・ケネディが指摘したとされる言葉、「危機」は「危」がDangerであるが、「機」はOpportunityであるという逆転の発想で、コロナ禍でも世界的にも類例を見ない新たな取り組みが展開された。その一つの形がビヨンド・コロナ・フォーラム(Beyond COVID-19 Forum:以下「BCF」)だ。詳細は、次のURL(外部サイト)、ビヨンド・コロナ・フォーラム (beyond-corona-forum.online)で確認願いたい。ちなみにこのホームページの作成は金沢大学の学生が地元高校生などと連携し、デザインからすべて作成したものだ。

アントレプレナー(社会変革人財)教育を目的とした金沢大学融合学域先導学類が今年4月に開学したが、BCFはそれに先立ち、その革新的な教育メソッドを内外に知らせる一環で実施された。BCFは、全プロセスをオンラインで完結した、新しいタイプの起業支援プログラムだ。事務局運営のため、金沢大学の学生団体PENTA SHIPsを立ち上げ、大学生主導でコロナ禍に生じた足元の課題を解決していくプロセスは、アントレプレナー教育としての貴重なものとなった。この事務局に参加する金大生が掲げた「君のスマホで世界を変えろ」というスローガンは、コロナ禍という共通の課題をめぐって、世界中の学生を動員することにつながった。その全体構造は次の図参照

ちなみに、この学生団体の名称、"PENTA SHIPs"の命名も秀逸だ。ギリシア語のPentaは「五」を意味するが、読者は「五の船」とはどのような意味かお分かりになるだろうか? ご当地金沢ではつとに有名な話であるが、江戸幕藩制期、金沢を拠点に活躍した豪商銭屋五兵衛からその名を取ったという。「銭五の船」という意味だ。この銭屋五兵衛とは、「海の百万石」とうたわれ、鎖国下の日本にあって、遠くサハリンやアラスカ、はたまたマダガスカル島にも寄港した可能性があるとされており、当時の枢要な物流航路である、環日本海をめぐる北前船によって巨万の富を築いた。その後、ご当地の河北潟を干拓する工事を加賀藩に命じられるなど、数多くの実績を残している。コロナ禍で海外への飛翔を狙うという意味でも示唆的であろう。

従って、BCFはコロナ禍であっても日本国内に活動を限定しない。使用言語も英語と日本語で提供し、全国、全世界の高校生、大学生から、5分間以内の動画を作成し、動画の形式で応募してもらう。内容は、生徒や学生本人や社会が抱えるコロナ禍の課題を設定し、その問題解決に向けた「提言」や「提案」を募集し、その「提言」や「提案」のなかから、プロデューサーが事業の実現に向けてブラシュアップしていくという仕組みだ。単なるアイデアコンペではなく、プロデューサーに参加してもらうことによって、事業化、案件形成に向けて実践を図ることがポイントである。プロデューサーには、金沢大学の研究者を中心に、既に事業を起こした先輩起業家や、起業支援を専門とする経済団体などの支援の専門家、あるいは企業で新事業開発などを手掛け、後人を育てているメンターとして立場にある方々など50名近くを招いて実施した。なお「提言」については、主に高校生を対象とした「アイデアインターハイ部門」を設定、「提案」については、主に大学生を対象とした「Cイノベーションピッチ部門」を設定し、それぞれ、前者がぼんやりとした方向性を提言するもの、後者がより具体的なビジネスプランの提案を期待するものとして示された。

コロナ禍で全国に緊急事態宣言が発令された2020年4月に構想し、5月29日にオンライン開催での開会式を実施し、同年11月23日まで募集を行った。この結果、世界中から407本の提案動画が寄せられ、その中には、今回取り上げるインドからもいくつかの提案が動画で寄せられた。特に海外からの提案・提言動画の応募については、当初、難しいという意見もあったが、逆にコロナ禍でデジタル化が喫緊の課題である中、高校生や大学生にとっては意見やアイデア・提案を発表する極めて貴重な場となった。同時にコロナ禍の切実な「等身大の課題」の設定や発見を前提として、極めて具体的で深刻かつ真剣な動画提案・提言が寄せられることとなった。さらにBCFでは、提案・提言動画の募集にとどまらず、この間、金大生が中心となって、インドやタイと日本人の高校生、大学生による国際会議も並行して実施され、その中で"WHO"や"WSO"といった学生によるフォーラムの立ち上げなども議論された。

動画募集終了後は、プロデューサーたちがそれぞれで、「自らの手で提言や提案を具体的に実現し、その発案者である生徒や学生をスターに育てたい」と思うような「提言」と「提案」を選んでもらった。その選ばれた10作品をノミネーション作品としてオンライン上で提示された。ノミネーション動画のタイトル一覧は、以下の表参照

その後、12月8日から翌2021年1月31日まで全世界、全国からどのノミネーション作品が素晴らしいと思うかについて、広く投票してもらうこととなった。ちなみに、この投票者の中で、「提言」と「提案」の両方において、どの動画が選ばれるかを当てることができた方を、「目利き」として選出するというプロセスを実施し、案件形成に向けたリテラシー向上という教育効果を期待する仕掛けを用意していた。

この投票の結果については、2021年2月12日に開催された、最終成果報告会で公表された。その内容は、次の動画配信サービス(外部サイト)で閲覧可能:https://brainnavi-online.com/set/619

最終成果報告会では、長崎大学の山崎将裕さんによる「運動効果錯覚システム」提言が「アイデアインターハイ大賞」に選ばれた。また金沢商業高等学校の畑奈槻さん、藏方響さん、西村嘉華さんの3人組による「加賀棒茶DIY体験!!」が「Cイノベーションピッチ大賞」に選出された。さらにその両者を見つけた方への「目利き賞」が選出された。これら大賞以外にも、水面下で様々な取り組みが行われ、2月12日には、5つの金沢大学発の学生起業の発表(投資ピッチ)が行われたほか、このBCFを通じて連携を深めた七尾商工会議所と金沢大学により、「デジタル」と「グリーン」の連携を進める、「能登里山里海DXコモンズ」に関する協定書を締結し、一連の起業支援プロセスを終えた。

このBCFのプロセスを通じ、インドとタイとの国際交流、特にスタートアップスやリスタートアップスの連携が、世界同時に蔓延した深刻なコロナ禍の中にあっても、毅然と進められることとなった。そのBCFプロジェクトの詳細や具体的な成果については、次回以降の記事で紹介する予定である。

上へ戻る