2021年9月22日
大塚雄市(おおつか・ゆういち):
長岡技術科学大学技学研究院准教授・博士(工学)
<略歴>
2007年九州大学大学院工学府博士課程修了(工学博士)。2014年長岡技術科学大学技術経営研究科システム安全専攻准教授に就任。専門は機械材料・材料力学、生体材料学および安全システム工学。インド工科大学マドラス校(IITM)への実務訓練派遣学生の支援、IITMをはじめとしたインド側研究者との共同研究などに取り組む。世界展開力強化事業では単位互換制度の検討や実務訓練制度の拡充などを担当した。
インド工科大学マドラス校(以下、IITM)と長岡技術科学大学(以下、長岡技科大)は大学間連携協定に基づき20年以上にわたり、学生の長期派遣によるインターンシップや国際共同研究などの取り組みを推進してきた。2014年からは日本学術振興会による大学の世界展開力強化事業「長期インターンシップ実績を活用した南インドとの共同実践的技術者教育プログラム」に採択され、学生の相互長期派遣,単位互換制度の確立、産学連携海外インターンシップ協定の構築および共同学位課程を見据えた大学院共同指導制度(Joint Supervision)を導入した。これまでのIITM―長岡技科大の連携教育の取り組みを紹介するとともに、今後の展望について述べる。
長岡技科大は主に高等専門学校(高専)卒業者等を第3学年に受け入れ、大学院までの一貫教育を行い、実践的技術の創出を目指した教育研究を行う工学系単科大学である。そのカリキュラムの特徴に、大学院進学者向けに実施される長期インターンシップ「実務訓練」がある[1](下記参照)。実務訓練において、学生は国内もしくは海外の関係企業・大学などで最長5カ月にもおよび実務に従事し、企業の研究開発・生産現場において自らが学習した知識がどのように実装されているのかを学習し、また実務において自らの知識をどのように活用するのかに主体的に取り組み、学術の意義を体得して大学院での基礎研究に臨む、派遣先は国内企業が多いが、海外の大学や研究機関にも派遣して共同研究などを実施する。その数は45機関65名(令和元年度実績。令和2・3年度は新型コロナウイルス感染症のため海外派遣は中止)に及ぶ。
インドでの派遣先はIITMをはじめ、インデイラガンジー原子力研究所(IGCAR)やIITMに隣接している産学連携拠点に 進出している企業などである。ほとんどの実務訓練先において、日本人スタッフはおらず、日本語でコミュニケーションを取れる人を探すことは困難である。当然学生はインド特有の英語の発音に苦戦しつつも日々各自のテーマに取り組み、インドの文化・生活習慣などに適合していく。摩擦がありつつもそれを成長の糧とし、また日本文化をインドに紹介する旗手ともなる。最終成果報告においては、現地の人に勝るとも劣らない立派な英語の発表を行ってくれる。学生の成長には目をみはるものがある。こうした経験者の話を聞き、本学に海外実務訓練に参加するために志望したという学生も一定数いるほどである。
経費負担、日本の受け入れ企業が負担も
海外実務訓練制度を持続的に運用していくためには、
―が必要となる。
IITM - 長岡技科大の取り組みにおいて、これらすべての課題が解決されたわけではないが、日本学術振興会による大学の世界展開力強化事業「長期インターンシップ実績を活用した南インドとの共同実践的技術者教育プログラム」[2] [3]に採択され、持続的に活動を推進するための体制整備を進めてきた。
この事業では、
― を主に構築した。
それらの狙いについて概説する。日本の大学の学期は4月から3月であり、IITMの場合は6月~7月に始まり4月に終わるなど、単位取得を目指す長期留学においては課題となる。学生が留学のために卒業年次が遅れるなどの不利益が生じないよう、双方のカリキュラム担当者間で各科目の内容を吟味し、単位互換可能な科目の一覧を作成し、単位互換制度を構築した。これにより、留学した大学院生がIITMの研究室にて共同研究を実施し、かつ現地での単位取得を行い、標準年限で卒業したという実績が得られた[4]。
実務訓練に要する経費負担は、補助がありつつも学生が自己負担をすることが多い。これは、物価水準が異なるインドから日本に学生を派遣する場合のボトルネックとなる。世界展開力事業においては、IITMから日本の大学(長岡技科大)・企業に海外実務訓練で派遣し、事業期間内に述べ60名を受け入れた。インドからの学生を継続的に受け入れるため、IITM-長岡技科大-受け入れ企業間で連携協定を締結し、実務訓練に要する経費を、受け入れ企業に負担してもらい、IITMからの学生を選抜・派遣するシステムを構築した。この制度は、インドからの人材確保に関心が高い企業にとっても十分なメリットがあり、今後のモデル制度になることが期待される。
一方、日本からの学生を受け入れるIITMなどインドの大学関係者は、学生の英語力不足・生活様式の違いからくる困難などに、砕心して取り組んで下さる貴重なパートナーである。海外実務訓練の活動を双方向で維持することが強く求められ、日本側もそれに十分に配慮すべきである。
そして、大学院での共同研究を推進するためには、共同での学位授与や共同指導制度の構築が必要である。日本においても国際連携教育課程制度(ジョイントデグリー(JD)プログラム)が創設され、国際連携学科・専攻の設置が認められるようになった。それでも、設置基準の難易度や学位の種別など、様々な課題も存在する。そこでIITMと長岡技科大ではそれまでの学生指導を進歩させ、学位授与は個別で行うが、共同研究で行う博士課程共同指導制度(Joint Supervision)に関する協定を締結し、学生をIITM、長岡技科大それぞれ1名の教員が共同指導する制度を導入した[5]。このようにして、長岡技科大はIITMにとってアジア地域での初の連携大学となった。以上の取り組みは,国際共同研究の推進にも有益であると期待される。
また、共同研究の拡充のため、これまで下記のように2回の国際会議を共同開催した。会議は2022年度も開催予定である。
次世代自動車及び高速輸送機器に向けた未来材料と創製に関する日印会議(2020年3月)
インドと日本の大学の学生交流の推進に向けた長岡技科大の取組について、主に学生の長期派遣制度である実務訓練制度を中心に紹介した。インドに関心を寄せる企業は今後も増加すると想定され、上記のような国際会議などを通じてIITM―長岡技科大の共同研究をさらに産学連携活動に拡充し、国際共同研究と学生交流の双方を継続可能な仕組みへと発展させていきたい。紹介した活動にご興味のある方はご連絡頂ければ幸いである。