科学出版物数で世界トップ3入り、女性科学者の制度拡充...インド科学技術庁、2021年レビュー(上)

2022年02月28日 青木 一彦(JST インドリエゾンオフィサー)

インド科学技術省は、傘下の科学技術庁(DST)が2021年に取り組んだ施策のレビューを発表した。2021年12月28日付。

レビューは21項目にわたってDSTの成功事例(Major Success Stories of DST During 2021)をリストアップ。具体的には、インドの科学技術ランキングの上昇、スーパーコンピューティングミッションの推進、インド国内の科学インフラへのアクセスの実現、インド北東部への支援等を紹介した。また、女性科学者のための制度的サポートの拡充のほか、特定部族、農民のための施策やインド北東部等の特定地域への施策、市民の科学技術参加の施策、多くの研究機関による多様な研究成果について報告した。

レビューのうち、1~11の主な内容は以下の通り。

1.世界の科学技術指数でランキング上昇

Global Innovation Index(GII)によるインドの科学技術は世界の46番目に上昇した。また、NSFデータベースによると、科学出版物の世界上位3カ国に入り、博士号の数で3位となった。

2.インドはスーパーコンピューティングミッションで急成長

National Super-Computer Mission(NSM)の下で、2021年7月以降、4台の新しいスーパーコンピューターがインド工科大学(IIT)ハイデラバード校、IITカンプール校等に設置され、約75の機関と数千人を超える研究者がその恩恵を受けた。

3.各教育機関の科学インフラへのアクセスの実現

科学技術インフラを活用したトレーニングプログラム(STUTI)により全国の科学技術インフラへのオープンアクセスを通じて人材能力開発を強化した。また、大学の研究と科学の卓越性の促進プログラム(PURSE)により大学の研究開発基盤の強化を支援した。

4.女性科学者のための制度的サポートの拡充

Women Science Programは、女性大学におけるイノベーションと卓越性のための大学研究の統合プログラム(CURIE)により新しいイニシアチブを開始した。また、30の機関が制度変革のためのジェンダーの進歩プログラム(GATI)を開始した。さらに、女性研究者のためのインドとドイツの共同研究開発プロジェクトが開始された。

5.STIハブ、診断キット、起業家イニシアチブを奨励するコミュニティ

公平で包摂的な経済成長を生み出すためのSTIコミュニティのイベントとしてTech नींव @ 75プログラムや、「Vigyan Utsav」と呼ばれる1年間のプログラムをSTIエコシステムのために開始した。また、COVIDレジリエンスリソースセンターを設立した。 7つの指定カースト(SC)/指定部族(ST)のために7つのSTIハブを設立した。また、サルモネラ菌等を検出するためのキットを開発した。

6. 北東部でのサフラン栽培

これまでカシミール地方の一部に限定されていたサフランを北東部技術応用研究センター(NECTAR)での集中的な取り組みを通じて、北東部にも広げ、北東部の南シッキムのヤンガン村で初めてサフランの栽培に成功した。

7. Intel Indiaと提携、より深い研究を推進するイニシアチブ

SERB(科学技術研究委員会)がIntel Indiaと共同で立ち上げたFund for Industrial Research Engagement(FIRE)を通じて、インドの研究コミュニティは全国規模で画期的な影響を与える可能性があるディープテクノロジーの分野で研究機会を追求できるようになる。

8. ソニーインディアと連携、IoTセンサーボード使用のイベント開催

IITマドラス校の技術基金(IITM-PTF)とソニーインディアソフトウェアセンターは共同で、全国の市民がSAMVEDAN 2021 - Sensing Solutions for Bharatというイベントを通じて、インドの全ての国民がIoT(モノのインターネット)センサーボードを使用して社会的なインド固有の問題を解決するコンペティションを開催した。

9.最先端ビル「オフィスブロック-I」建設

DSTとDSIR(科学産業研究庁)があるテクノロジーバワンキャンパスに新しい最先端の建物が建設され、DSTとDSIR、およびそれらの傘下機関が使用できるようになった。

10.INSPIRE Manakへの参加学生の数増加

INSPIRE MANAKプログラムで、全国の学校から選抜された合計392,486人の学生から選ばれた上位60人のイノベーターに賞が授与された。(注:JSTではさくらサイエンスプログラムでDSTを通じて上位入賞者を日本に招聘している)

11.低コスト技術でAtmanirbhar Bhara推進

Make in India(注:インド国内での製造を促進する施策)のもと、いくつかの低コストのテクノロジーによりAtmanirbhar Bharat(自立したインド)を以下のように進めた。

  • インドの鉄道のトイレで廃棄物を自動で収集する7倍安価な技術を開発した。
  • 電力網を保護するスマートシステムを開発して電力会社のシステムに組み込んだ。
  • 低コストの半導体製造プロセスを開発し、最大20 Vの電圧を処理する集積回路(IC)の設計に使用された。
  • 海藻寒天由来のアガロースをベースに慢性創傷患者に費用効果の高い被覆材を開発した。
  • 接触面からホコリを取り除く粘着マットを開発して家庭、オフィス、病院、実験室の衛生環境を改善して高価な機器の機能を確保した。
  • IITボンベイ校のチームは従来と比較して50%早い速度で機械から熱を放散できる3D印刷のための多機能ヒートシンクを開発した。
  • TDB(技術開発理事会)は、現地生産の強化、現地サプライチェーンの構築、現地固有の製品のグローバルブランドへの転換を支援するためにSELF-RELIANT INDIAプログラムにより新興企業による技術の商業化の提案を募集した。
上へ戻る