米国立科学財団 (NSF)がインド訪問―AI、バイオ、地球科学、天体物理学等で連携強化

西川 裕治(にしかわ・ゆうじ)

2022年09月05日

西川 裕治(にしかわ・ゆうじ):

科学技術国際交流センター(JISTEC)上席調査研究員

元JSTインド代表

米国立科学財団 (NSF) の高レベル代表団が8月上旬、インドを訪問し、同国のジテンドラ・シン科学技術相と会談した。双方は両国間の科学技術協力と、この協力をさらに高いレベルに引き上げる方法について話し合った。インドと米国が科学技術分野で関係を深めている。最新状況を紹介する。

インド科学技術省は、8月9日に印米会談の内容を発表した。それによると、ジテンドラ・シン大臣は、双方はすでに協力セクターを特定しており、①医療、②技術、③宇宙、④地球および海洋科学、⑤エネルギー、⑥新興技術、⑦科学技術教育―における分野で協力が進んでいると表明した。また同大臣は、インドと米国は科学的発見と技術革新に関して長年のつながりと共通の関心を持っており、より大きな世界的利益のために、これらの連携をさらに強化し活用する時が来たことを強調した。

米NSF代表団と会談するジテンドラ・シン科学技術相

ジテンドラ・シン科学技術相と米NSF代表団メンバー
(いずれもインド科学技術省リリースより)

ジテンドラ・シン大臣は、米NSF代表団に対して、ナレンドラ・モディ首相は、常に科学の探究を最優先事項と考えており、2014年以来、独立記念日のスピーチのたびに、クリーンネス(清潔)、水素ミッション、デジタル、ヘルスケアシステム、クリーンエネルギー、ネットゼロ・エミッション、スタートアップ育成などの主要な科学的課題やプロジェクトに注目してきたことを紹介した。

さらに、量子、メタバース(コンピュータやコンピュータネットワークの中に構築された三次元の仮想空間やそのサービス)、クリーンエネルギー技術、サイバーフィジカルシステム、先端材料、通信技術などの技術分野において、双方が有意義で的を絞り、かつ成果物主導のR&Dパートナーシップに焦点を当てるべきであり、両国が相互に関心のある分野でディープテックの新興企業を共同で特定、育成し、促進するための道を模索すべきであるとも述べた。

インド側は、統合データシステムに対して、米NSFの支援を求めた。現在、データ収集はさまざまな機関によって独自の方法で行われているが、統合データシステムの構築により、データ分析と関連する大きなメリットがもたらされることが期待されている。NSFの国立科学工学統計センター(National Center for Science and Engineering Statistics)との連携による知識パートナーシップは、この分野における長期的な能力開発の観点から大きな付加価値があると考えられると伝えられた。

2023年にはNASA(米航空宇宙局)とISRO(インド宇宙研究機関)の協力で合成開口レーダー衛星が打ち上げられる予定であることから、宇宙部門、主にスペースデブリの管理などの新興分野での協力拡大についても要請した。

米国とインドの研究機関と学生との間の連携を確立するアウトリーチの側面を持つ両国の科学技術教育パートナーシップは非常に重要であり、昨年開催された教育ラウンドテーブル(Education Roundtable)には、STEM教育の推進に熱心な多くの大学が参加するなどの成果があったことが報告された。

今回の会談で、米NSFディレクターで米代表団長のセトゥラマン・パンチャナサン(Sethuraman Panchanathan)博士は、①人工知能(AI)、②バイオテクノロジー、③地球科学、④天体物理学、⑤遠隔医療、⑤アグリテック、⑥乳製品部門―などでの研究分野で新たな協力、連携の促進について約束した。

最近公表されたインド科学技術庁(Department of Science and Technology: DST)の2020--2021年度年次報告書においては、インドと米国の科学技術に関する協力・連携活動として、印米戦略的エネルギーパートナーシップ閣僚対話(SEP)が明記された。DSTが関与するSEPの二国間対話は、2020年7月にオンラインで開催された。そこでは、エネルギー効率を含むさまざまなトピックが話し合われた。それには、石油・ガスの開発と貿易によるエネルギー安全保障、再生可能エネルギー開発、持続可能で包摂的な成長促進、クリーンエネルギー研究の促進、民生用原子力エネルギー分野での協力も含まれた。

また、同報告書は、両国間で進行中のPACE-R(Partnership to Advance Clean Energy Research)活動 (スマートグリッド) および、将来のクリーンコール技術や炭素回収とその利用と貯蔵などについても触れている。さらに、AI、スマート&コネクテッド・コミュニティ、その他の将来の産業における科学と工学の研究協力に向けて,両国政府の取り組みを促進するため、米NSF とDSTの連携で「計画・戦略グループ」が組成されたことが報告された。

今回の会談には、インド政府主席科学アドバイザー (Principal Scientific Advisor: PSA)のアジェイ・クマール・スード(Ajay Kumar Sood) 教授、PSAオフィス長官(Secretary)のパルヴィンダー・マイニ(Parvinder Maini)博士をはじめとして、PSAオフィスからも多くの高官、専門家が参加しており、インド・米国間の科学技術協力関係は今後ますます強化されるとみられている。

このように、印米間の科学技術協力は時代にニーズに基づいて進化・拡大しており、日本としてもインドの将来性に鑑み、日印間で科学技術分野におけるいっそうの協力・連携の強化・拡大は喫緊の課題と言える。

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