2023年02月03日
西川 裕治(にしかわ・ゆうじ):
科学技術国際交流センター (JISTEC) 上席調査研究員
元JSTインド代表 (2015~2018年)
インド大学助成委員会(University Grants Commission: UGC)は、海外のトップ大学がインドにキャンパスを開校することを許可するための法律案を2023年1月5日付けで発表した。これについて詳しくみていく。
インド教育省は、インド国家教育政策2020(National Education Policy 2020:NEP2020)を策定し、これまでにも様々な施策を実施している。NEP2020では、世界トップレベルの大学がインドで開校することを目指しており、NEP2020の方針に沿って今回の法律案策定に至った。
このNEP2020には、インド教育の国際化に関して、以下のような様々な施策が盛り込まれている。その中には今回の法律案にも書かれた「世界トップ100大学のインド国内でのキャンパス開校促進」の方針も明記されている。
- 国際化に関するさまざまな取り組みは、インドへの海外からの留学生数を増やすとともに、海外留学、単位取得や海外での研究活動を希望するインド人学生に、より多くの流動性と機会を提供する。
- インド学、インド言語、インド特有医学であるAYUSHシステム、ヨガ、芸術、音楽、歴史、文化、現代インドなどのインド特有の科目のコースやプログラムをはじめ、科学、社会科学などの国際的に関連するカリキュラム、社会的関与のための有意義な機会、さらには質の高い居住施設とキャンパス内のサポートなどを促進する。これによってグローバルに通用する品質基準目標を達成し、より多くの留学生を引き付けることで「インド国内における国際化」を達成する。
- インドは、高額でない授業料レベルで優れた教育を提供する留学先として、世界の教育提供者(Vishwa Guru)としての役割を果たすことを目指す。そのため留学生を受け入れる各高等教育機関には、海外からの留学生の為に留学生課を設置する。
- 質の高い外国の教育機関との研究・教育協力、教員・学生交流を促進し、相互に有益な了解覚書(MoU)を締結する。
- 優秀な成績を収めているインドの大学には、海外にキャンパスを設立することを奨励し、同様に、世界のトップ100大学の中から選ばれた大学は、インドでの開校・運営を誘致・促進する。そのための法的枠組みを整備し、海外のトップ大学には、インドの他の自治機関と同等の規制、ガバナンス、およびコンテンツ規範に関する特別な免除が与えられる。さらに、インドの機関と世界の教育研究機関との間の研究協力と学生の交流に特に力を入れる。外国の大学で取得した単位は、各高等教育機関の要件に従って適切な場合は、学位の授与にカウントされることとする。
インド教育省は2020年に「2019-20年・全国高等教育調査報告書」(All India Survey on Higher Education 2019-20: AISHE2019-20)を発表しており、同報告書によると、インドの大学の現状は以下のようになっている。
- インドには1,043校の大学(University)(内、307校は傘下に提携カレッジを有する)、42,343校のカレッジ(College)に加えて、11,779校の独立教育機関が登録されている。
- 396校の大学が私立で、420校の大学は地方にある。
- 17校の大学は女子大学であり、ラジャスタン州に3校、カルナタカ州とタミル・ナードゥ州に2校、アーンドラ・プラデシュ州、アッサム州、ビハール州、デリー直轄自治区、ハリヤナ州、ヒマーチャル・プラデシュ州、マハラシュトラ州、オリッサ州、ウッタラーカンド州、西ベンガル州にそれぞれ1校がある。
- 1校の中央(国立)公開大学(Open University)、14校の州立公開大学、および1校の州政府管轄の私立公開大学に加えて、遠隔教育も提供するデュアル・モード大学が110校あり、そのうち最大数の13校がタミル・ナードゥ州にある。
- 大学のうち、522校が総合大学(General)、177校が技術大学(Technical)、63校が農業(Agricultural)と関連大学、66校が医学大学、23校が法律大学、12校がサンスクリット語大学、11校が語学大学に分類され、残りの145 校はその他の大学と確認されている。
インドの大学、高等教育研究機関の中でも、インド工科大学(Indian Institute of Technology: IIT)は、その優秀な素質を持つ豊富な人材(学生)やIIT卒業生の世界的な活躍が世界的に注目されている。そこでインド政府としては、IITだけでなく、それ以外の高等教育機関についても、その質・教育内容を充実させ、かつグローバル化することで、インドの若者の教育レベルを向上させるだけでなく、海外からの留学生を増やすことで、教育を産業として育成していく長期的な目標を掲げ、その一歩を踏み出している。このようなインドの方針に対し、欧米や豪州などの大学は注目していると思われるが、英語での教育が一般的でない日本の大学の姿勢や今後の動きも関心を集めそうだ。