【AsianScientist】集団免疫がデング熱ウイルスを進化させる

インドで行われた研究は、地域固有株に対抗するためにデング熱ワクチンを地元で開発することがなぜ有益であるかを教えてくれる。(2023年8月4日公開)

政府統計によると、デング熱はインドで大流行しており、2022年だけで感染者数は20万人を超えている。人口の半数以上はデング熱ウイルスに対して何らかの免疫を持っているものの、効果があるのは感染したことのあるウイルス株のみに対してである。このため、他の株が流行すると、各地域でデング熱の症例が数年ごとに急増する。

2度目の感染が異なる株によるものであれば、疾患はさらに重度なものとなるため、デング熱ウイルスの進化は複雑になっている。これは抗体依存性感染増強と呼ばれており、ウイルスの感染率が高い集団の中ではワクチンそのものが重症度の高い2次感染を引き起こす可能性があるため、ワクチン開発を複雑なものとしている。この現象は2017年にフィリピンで学童がデング熱ワクチンを接種したときに見られた。これまで感染したことがなかった多くの子供たちがワクチン接種後に重篤な症状を発症し、多くが死亡した。

ウイルス蔓延を抑えるためにも、ウイルスに対するワクチン開発のためにも、デング熱ウイルスのさまざまな株が集団の中での進化形態を知ることは非常に重要である。インド国民の間では、デング熱ウイルスの 4 つの株すべて (DENV-1、-2、-3、-4) が流行している。バンガロールに所在するいくつかの研究所の科学者たちは株の進化を調査し、PLOS Pathogens誌に発表した。

筆頭著者でありインド科学大学の大学院生であるスラジ・ジャグタップ (Suraj Jagtap) 氏は、Asian Scientist Magazine誌のインタビューで、デング熱ウイルスの進化は複雑でほとんど理解されていないと語った。研究チームが驚いたことに、デング熱ウイルス株が進化すると他のウイルス株と類似性を示した。これは他のウイルスではあまり見られないことである。「2016 年以前は、DENV-4 は DENV-1、DENV-2、DENV-3 とは異なっていました。けれど、2016年の流行後、DENV-4の配列はDENV-1、DENV-2、DENV-3に似たものになっていました」とジャグタップ氏は述べた。

チームはこの研究のために、1956年から2018年の間に国内で収集されたデング熱ウイルスの遺伝子配列を調べた。 これらの大部分は、2012 年以降のデング熱ウイルスのゲノム配列に関する著者たちの以前の研究から得られたものである。チームは、4 つの株すべてが 2000 年以来国民の中に同時に存在していたことを発見した。

チームは、ある地域で引き続き起こった急増が異なる株によるものであるというエビデンスも発見した。2006 年、2010 年、2013 年にデリーでデング熱症例が急増した。2006年にはDENV-3、2010年にはDENV-1、2013年にはDENV-2 が大半を占めていた。国内のその他の地域では DENV-2 が多く見られる株であるが、近年、南インドでは DENV-4 が優勢となっている。

国民のかなりの割合が以前の感染による抗体を持っていながらも 4 つの株すべてが流行しているという事実は、ウイルス進化の影響を物語る。チームは進化動態を調査するために、デング熱ウイルスのエンベロープタンパク質をコードする E 遺伝子が時間の経過とともにどのように変異するかを調べた。

ウイルスのヒトへの感染力はエンベロープを通じて発揮される。ウイルスが進化すると、人が以前の感染で得られたウイルスに対する抗体の防御力は低下する。 チームは、すべての株の遺伝子は従来からの配列から変異しつつあり、集団内に存在する免疫から選択圧を受けて進化していることを意味すると指摘した。

現在、インドやその他の国で、いくつかのデング熱ワクチンが開発されている。 しかし、チームは、インドのデング熱株は、これらのワクチンの開発に使用された株から分かれて進化していると述べた。 これは、風土病のワクチン開発においてウイルスの進化を考慮する必要性があることを示している。

デング熱への取り組みは世界的なものだが、一度で解決できる策はない。科学者たちは、さまざまな遺伝子型の株や系統の完全な多様性と、それらがさまざまな集団でどのように進化しているかをサンプリングする必要がある。

「世界中で見られるデング熱の変異種は同じではなく、各大陸に独特なものになっています。 したがって、私たちは、ワクチンは世界規模ではなく地域ごとに設計されるべきだということを提案します」とジャグタップ氏は力強く述べた。

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