【AsianScientist】トラの保護、インドの炭素排出削減に貢献

トラの保護介入により森林消失が防止され、排出量の削減と生態系への恩恵がもたらされたことが研究から分かった。(2023年8月9日公開)

インド政府は2005 年、同国内でそれ以前に行われていたトラ保護活動を発展させるために国立トラ保護局 (NTCA) を設立した。これにより、指定トラ保護区における監視が強化され、森林保護法の施行が強化された。その結果、インドのトラの個体数は、2006 年の 1,411 頭から現在の3,000 頭以上に増加した。この研究はNature Ecology and Evolution誌に掲載され、この取り組みが炭素排出量の大幅な削減にもつながったことを証明している。

この研究によると、トラの保護政策により、トラの保護区全体で5,800ヘクタール以上の森林消失が防止された。これは、100 万トン近くの二酸化炭素(CO2)の排出が防がれたことを意味する。大量とは言えないものの、トラ保護に付随する利点であり、重要なことには変わりはない。研究者らの推定によると、これらのトラの保護区により相殺される炭素の金銭的価値は、生態系サービスとして約 9,200 万ドルになる。

シンガポール国立大学(NUS)の保護科学者でありこの研究の筆頭著者であるアーカシュ・ランバ(Aakash Lamba) 氏は、Asian Scientist Magazine誌のインタビューで、トラの保護はそれ自体が採算に合うものであると語った。研究者らは本研究のために、トラが生息する国内の162の保護地域(45のトラ保護指定地域を含む)を調査した。介入の恩恵を受ける十分な時間がある保護区のみを分析対象にするために、この保護区には、2007 年から 2015 年の間に政策が実施されたトラの保護区のみが含まれた。

政策の最終的な利益を定量化するにあたり、研究チームは、合成コントロール法を採用した。これは、反事実シナリオ(過去の事実に反する可能性)を調べる統計手法である。チームは、トラが生息しているがトラの保護のために特別な介入は行われていない117の保護区から得たあらゆる種類のデータを組み合わせて、合成対照群(薬物試験の対照群と考えていただきたい)を作成した。データ 要素には、保護区周辺の人口密度、保護区を通過する道路、気象データ、地理データ、さらには最寄りの都市までの距離などが含まれていた。

チームはその次に、この対照群を、介入を行ったトラの保護区からのデータ(治験薬を投与される治験グループのようなものと考えていただきたい)と比較した。これにより、介入が実施されていなかったと仮定した場合、45の保護区がどのような状態になっていたかについて具体的なことが分かってきた。つまり、介入と結果(森林消失の削減)との間の因果関係が示されたのである。

ほぼすべてのトラ保護区が介入の恩恵を受けており、反事実シナリオと比較して森林消失が増加したのはわずか4保護区だけであった。ナウェガオン・ナグジラは、トラ保護区のうち最大面森林消失防止面積を持ち、インド中央部のトラの生息地間の重要な接続ポイントとして機能している。これにより、トラの生息地の保護と森林消失防止との間に直接的なつながりがあることが明らかになった。

しかし、インドでは1,000頭以上のトラがトラ保護区の外に生息している。この研究は、多くの地域で専門的なトラ保護介入を実施すれば、すべての者が利益を得るであろう可能性を示している。介入はトラの個体群を保護し、生態系保全の取り組みを広く強化し、生態系サービスの付加価値を高め、潜在的な収益経路としてカーボン・オフセットを提供する。

たとえば、この研究から、生態系サービスで9,200万ドル相当の炭素を相殺することに加えて、カーボン・オフセット市場で販売された場合、節約される排出量は600万ドルに達する可能性があることが分かった。カーボン市場において、排出削減と生物多様性保護を組み合わせた介入の価格は、排出削減のみを目的とする介入よりも高くなる。

カーボン市場と、排出量の増加と生物多様性の損失の問題に対処しようとしている国家の両方にとって、このような定量的研究は、あらゆる介入の潜在的な価値を評価する手法を提供してくれる。

他の政策介入を調査するためだけではなく、現場で起こっていることを詳細に調べるためにも反事実研究を広く使う必要がある。「他の保護区内の森林法を理解し、有効なものとそうでないものを知ることは、管理と政策に情報を提供するための重要なステップになるでしょう」とランバ氏は話した。

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