【AsianScientist】重力波データから宇宙の膨張を研究―インド科学者チーム

重力波宇宙論は、宇宙の過去をのぞき込む新たな窓を開いている。(2023年9月14日公開)

2015年に最初に検出されて以来、重力波はブラック ホールや中性子星の衝突など、宇宙で最も刺激的な現象の研究に使用されてきた。宇宙研究者がますます多くの重力波を検出するにつれて新しい窓が次から次へと開かれ、天文学者はその窓を通して宇宙の根本的な謎を調査する。

重力波は、光の速度で伝播する時空の波紋である。これらの波は、相互に旋回しあうブラック ホールなどの巨大な加速物体によって生成される。重力波が広がるにつれて、信じられないほどの速い速度で空間を伸縮させる。その伝播を調べると、宇宙が膨張するにつれて銀河同士がどのように互いに離れていくのかが分かる。

Physical Review Letters誌に掲載された論文の中で、インドの科学者チームは将来の重力波データを使用して宇宙の膨張を研究する方法を簡単に説明した。

Asian Scientist Magazine誌は、パラメスワラン・アジス (Parameswaran Ajith) 氏にインタビューを行った。アジス氏はインドのバンガロールに拠点を置く国際理論科学センターの天体物理学者であり、この論文の共著者の1人である

アジス氏は「宇宙は膨張しているので、銀河同士の距離と遠くの銀河が私たちから遠ざかっていく速度は明らかに関係しています」と説明した。

遠くにある物体、例えばクエーサーや明るく光る活動銀河核などから伝わる光波や重力波は、別の銀河などといった重い物体の周りで曲がる。強い 重力レンズ効果として知られる現象では、銀河がレンズのように作用し、夜空(または望遠鏡)に一つのクエーサーの多重像が見られる。この重力レンズ効果はまだ検出されていないが、物理学者は、多くの重力波データを利用すれば検出できると考えている。

重い物体によって波が曲がると波は異なる経路をたどり、検出器で観測すると時間差が見られる。このことは、宇宙の膨張速度について何かを示すものなのであろうか?アジス氏は「重力レンズ効果によって時間差で像が複数出現するのは、宇宙の膨張によるものであると分かりました」と述べた。

研究者たちは、宇宙の中の銀河の分布の様子を示すモデルを開発した。重力波検出における時間差の発生は、ハッブル定数(宇宙の膨張速度の基礎となるもの)と物質の密度に依存する。

将来の天文学者は現在よりも優れた検出器を使い現在よりも長い期間の重力波を探しているはずなので、はるかに多くの重力波検出データにアクセスできるであろう。このようなデータを利用するモデルがあれば、天文学者はパラメータを扱い定数の値の正確性を高めることができる。

現在、天文学者はハッブル定数を決定するために光波と電波のレンズ作用を研究している。 しかし、塵やガスにより波の伝播は弱まり、その有用性が制限される。ハッブル定数の正確な値に関しては様々な意見がある。

重力波と物質との相互作用は弱いため、重力波は制限を受けず長い距離を移動することが可能である。つまり、天文学者は重力波の過去について詳しく調べることが可能であり、それはより正確なハッブル定数の値を出すのに役立つ。しかし、重力波宇宙論にはそれ以上のものがある。

重力波レンズ効果の研究をすれば、ダークマターの性質など、宇宙の他の大きな問題も明らかになる可能性がある。アジス氏は「将来、観測された重力レンズ効果のある重力波の時間差の分布を利用して、ダークマター粒子の性質を理解できるかもしれません」と付け加えた。

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