【AsianScientist】海洋生物の環境変化への反応で化石記録を研究:インドのチャットパディヤイ博士

インドのチャットパディヤイ博士は、環境変化に対する海洋生物の反応を知るために、その化石記録を研究している。(2023年9月15日公開)

デヴァプリヤ・チャットパディヤイ博士 インド科学教育研究大学プネー校准教授

古生物学者でありデータを愛するデヴァプリヤ・チャットパディヤイ (Devapriya Chattopadhyay) 博士は、海洋生物、特に保存に役立つ炭酸カルシウムの殻を持つ生物の豊富な化石記録を研究している。

海貝など海洋生物の一部は現在も存在しており、科学者たちにカタツムリやカキなどの現在の対応生物を研究し、その行動を理解する唯一の機会を与えている。チャットパディヤイ博士は生物が環境の変化に対してどのように行動し、反応するかを研究テーマとしており、理解しようとしている。環境の変化は物理的なものもあれば、生物学的相互作用に関連している場合もあり、海洋生物の行動や進化に影響を与える。このテーマを扱うにあたり、博士の研究チームは長期化石記録を調べ、古代の海貝に似た生物を使った実験を行い、今日の自然生息地におけるそれらの行動を観察している。

チャットパディヤイ博士はAsian Scientist Magazine誌に対し、自身の情熱、現地調査と化石記録の維持の課題、そして好奇心を育てることの重要性について語ってくれた。

1. 研究で最もワクワクすることは何ですか?

退屈な瞬間は全くありません!私は常に新しいアイデアや手法を試しています。始める前は、答えが存在するかどうかさえ分からないこともよくありますが、答えを見つけるために実験を計画し、探索するときが最もワクワクします。

2. 最近は何に取り組んでいますか?

現在、私はチームとともに、いくつかの大きなテーマに注目をしています。関心のある分野の1つは、海路のつながりが世界中の生物の分布に与える影響です。たとえば、アラビア海は東側はインド、西はアフリカとアラビア半島と接しています。しかし、約3,000万年前、この水域は地中海まで続いており、テチス海路と呼ばれるものでした。私たちは、地形が達して1つの海路が2つの異なる水域に分かれると、海洋生物の種分布にどのような変化を与えるのか調査しています。これを行うために、私たちは現代の分布パターンを調べ、時間の経過による変化を追跡して、これらの生物が分離された水域でどのように進化したかを理解するのです。

3. 研究で直面する困難は何ですか?

たくさんあります。大きな困難の1つは、私が比較的小規模な学術コミュニティに属していることです。そのため、新しいアイデアを積極的に育むために協力や交流を求めることが不可欠です。しかし、パンデミックがあったため私たちはバーチャルなやり取りの価値を知りました。地理的な制限があっても世界中の科学者たちとつながることができるのです。

もう1つの困難は物流に関することです。私の研究では、大量の化石を収集しなければなりません。残念ながら、インドには化石のコレクションを保存し、適切に管理できる専門の自然史博物館がありません。既存のコレクションはさまざまな研究所や大学に分散しています。そのため、責任者が退職したならば一部が失われるかもしれませんし、適切に保管されないというリスクがあります。さらに、化石が豊富にある現場の多くは厳格に保護されてはおらず、開発プロジェクトによって破壊される可能性があります。

さらに、インドでは海外で実施する研究について資金提供が限られています。そのため、外国の博物館のコレクションにアクセスして研究することが難しいのです。最後に、遠隔地のみならず都市部でさえも、現地調査を実施することは、特に男性ではない独身の研究者にとっては困難な場合があります。

4. コルカタのインド博物館や他の政府運営の博物館などのコレクションはどうですか?

博物館の構造は非常に重要です。シカゴのフィールド博物館やスミソニアン博物館のような自然史博物館には、一般公開用の展示物と、研究者用の厳選され管理された標本の大規模なコレクションがあります。これらの博物館は積極的に研究に取り組んでおり、新しい研究プログラムや適切な管理を通じてコレクションを継続的に追加しています。

残念ながら、インドの博物館の多くは現代の管理慣行に従っていないため、重要なコレクションの保管やアクセスは不十分です。その結果、貴重な化石にはその情報タグがつけられることはなく、研究目的で化石を有効に活用することが困難になります。この大きな欠点に対処するには、既存のコレクションの保存とアクセシビリティを改善することが優先されるべきです。

5. 最近、外国の研究機関と協働をしたことはありますか?その経験はどうでしたか?

パンデミック中に私たちが始めた注目すべき協働の1つは、世界中の研究者と行ったものでした。具体的には、ドイツとイギリスの2人の研究者が私にアプローチしてきました。彼らは古生物学研究におけるバイアスの役割を理解したいと考えていました。特に古生物学データベース (PBDB) などの化石記録の世界的なデータベースにおけるバイアスに興味を持っていたのです。世界中の研究者がこのデータベースを使用して、深海の生物多様性を再構築しています。彼らは、古生物学データベースの記録は各国にきれいに分散されていると考えられるかどうか、尋ねました。

私たちは協力を通じて、バイアスの具体的な事例を調査しました。古生物学データベースには、国内総生産 (GDP) が低い国や植民地時代の問題を抱えた国からの記録が十分にないことがわかりました。つまり、地球の歴史と、数百万年にわたる生命の変化に関する私たちの知識は、主にごく一部の場所から収集されたデータから得られているのです。データベースは発表文献からデータを収集しており、発表率は国の教育レベル、経済、植民地の歴史に影響されることが多いため、このバイアスが生じるのです。

私たちはZoom会議を通じてこの協働を実施し、Nature Ecology and Evolution誌に掲載された論文を執筆しました。これは興味深く実りある取り組みでしたが、私たちは当初お互いのことを知らず、論文が発表された最近まで直接会うことはありませんでした。私はこの協働がパンデミック中の最大の収穫であり、物理的な会議がなくても人々とつながることは可能であると考えています。

6. あなたのような古生物学者になりたいと思う若い女性にアドバイスをお願いします

古生物学者になるには、様々な方法が考えられます。しかし、好奇心は科学者に共通して見られるモチベーションです。ある若者が自然全般に強い好奇心を示したならば、それは、古生物学が天職となる前触れかもしれません。

男女関係なく独立心を持つことは大切だと思います。古生物学に限らずあらゆる分野で成功するには、独立心が不可欠です。

しかし、独立心を持つということは、時には孤独を感じますが、その孤独は快適に感じるものです。私が観察したところ、科学分野で成功した女性の多くは、好奇心と独立心を兼ね備えています。このような女性科学者たちを見ると、通常は女性の選択肢とは考えられないキャリアを追求してみようという気になります。したがって、どのような道を選んだとしても、好奇心を育み、強い独立心を育みなさい、というのが私からのアドバイスです。

7. 科学者になっていなかったら、何になっていたと思いますか?

もし私が科学者になっていなかったら、アイデアを伝える仕事に就いていたでしょう。そのような仕事には、教育やサイエンス・コミュニケーションがあるでしょう。私の経験は多様な職を考えられるほど広範囲に及んではいないので、他に具体的な選択肢は思いつきません。自分の人生で何をしたいのかを意識した瞬間から、科学分野の職に就くことは私にとって自然なことだと感じました。他にも興味のあることはたくさんありますが、それらは漠然としたものであり、将来のキャリアとして考えられるものではありませんでした。ですから、科学者になることは常に私がやりたかったことだったと思います。

8. 仕事をしていないとき、何をしてリラックスしますか?

あまりリラックスする時間はありませんが、興味のあることはいくつかあります。まず、私は研究分野や学術的関心を持つ分野以外の本を読むのが好きです。次に、私は音楽、特にヒンドゥスターニーの古典音楽に強い興味があります。でも、自分で演奏することはできません。ウォーキング、ハイキング、そして娘と過ごす時間を楽しんでいます。娘の成長を見守ることで、私も子供時代を思い出すことができ、とても満足しています。

9. あなたは女性研究者として長いキャリアを持ちます。STEM分野で多くの女性が仕事を続けるために、政府はどのような政策を取るべきと思いますか?

政府の政策は STEM 分野の女性を支援するために重要な役割を果たしますが、その政策は効果的に実施されなければなりません。たとえば、保育・介護施設に関する政策は重要ですが、機能的な保育・介護施設を設立するには、財政支援とインフラ支援が伴わなければなりません。施設の各職員の関与や熱意だけに依存すべきではありません。政府は政策を実施し、必要な資源を提供する責任があります。

もう1つの側面は、ジェンダーの代表やさまざまな背景からの代表を含む、研究機関の多様性を高めるという目標です。このような目標を実現するのは困難な場合があり、実際の成果に効果的に反映させるには慎重な検討と努力が必要です。単に目標を述べるだけでは十分ではありません。真の多様性と包括性を達成するには、積極的な措置を講じる必要があります。

10. 最後に、古生物学者を目指すアジアの若者にアドバイスを

古生物学者の観点から見ると、特に今日の世界では、古生物学の定義は拡大し続けていると言えます。古生物学はもはや化石の研究に限定されません。環境や生物多様性という大きな問題に取り組むのに役立つ独特な情報を与えてくれます。古生物学は、現代の実験の範囲を超えて、時間的・空間的に大きなスケールの中で生命が環境と相互作用してきた方法を垣間見せてくれます。したがって、研究者を志望するアジアの若者がこれらのテーマに情熱を持っているのであれば、研究分野として古生物学を検討することをお勧めします。

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