インドのベランドゥル湖では、湖の堆積物に結合した界面活性物質を雨が溶解し、泡立ちを引き起こすことが、ある研究から分かった。(2023年10月16日公開)
インド南部の都市ベンガルールにあるベランドゥル湖は、過度に泡がみられることで知られている。時にはあまりにも多くの泡が道路にまでこぼれ、交通渋滞を引き起こすこともある。また、未処理の下水から蓄積したメタンが原因となって湖の一部で火災が発生し、泡から有毒なエアロゾルが湖の境界をはるかに超えて飛散したこともある。
ベランドゥル湖が泡立つ時季は決まっており、通常、モンスーン期前とモンスーン期の雨の後に泡が立つ。研究者たちはこのことに困惑している。雨が降ると起泡物質の濃度は低下するはずなので、さらに泡立ちが進むことはないからだ。インド理科大学院 (IISc) の研究者たちは、Science of the Total Environment誌に掲載された新しい研究で、常識に反するこの現象の背後にある謎に取り組んでいる。
論文の筆頭著者でIIScの大学院研究員であるレシュミ・ダス (Reshmi Das) 氏はAsian Scientist Magazine誌に対し、「雨が降ると、浮遊物質に結合していた界面活性物質が溶けて水に戻ります」と語った。
界面活性物質は、石鹸や洗剤に使用される起泡化学物質の一種である。チームがベランドゥル湖の堆積物を分析したところ、高濃度の界面活性物質の存在を発見した。これらの界面活性物質は市販の洗剤に使用されているものと同じものであるので、人為的汚染により界面活性物質の濃度が高くなったことが示唆される。
界面活性物質は汚れを落とすのに優れている。この性質のため、湖水中の浮遊物質と容易に結合することができる。チームは、堆積物の有機物含有量が多いほど、多くの界面活性物質が表面に付着していることに気が付いた。以前の研究から、ベランドゥル湖の溶存酸素が極めて少なく、濃度はゼロに等しいことが分かっている。酸素が不足すると界面活性物質は分解されないため、長い間存在することになる。
雨がこれらの界面活性物質を曝露させるという仮説を検証するために、チームは研究室で湖の状況を再現した。湖の再現モデルの底には堆積物を敷き、ベランドゥル湖と同様の未処理下水を加えた。次に、上に蓋をして低酸素状態をシミュレートした。
この研究では界面活性物質であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを使用したところ、湖モデルの堆積物に容易に吸着した。この堆積物のサンプルを水で希釈し、遠心分離機で数サイクル振とうし、界面活性物質を分離した。堆積物を含まない水は、湖モデルで泡を形成した。泡は水道水と脱塩水の両方で形成されたため、水中の帯電粒子は脱着に関与しないことを示している。
おそらく同様に、雨が降ると水が増加して湖中の浮遊物質を破壊し、付着している界面活性物質が解放される。チームは 次に雨が降った後の泡の安定性を調査した。廃水を空気にさらし、水道水で希釈したところ、希釈した廃水は希釈していない排水よりも多くの泡を生成し、泡が消散するのに時間がかかった。
チームは今後の研究で起泡の原因となる他の要因を調査する予定である。たとえば、特定の種類の微生物は界面活性物質を抑える能力が優れているとされている。 一方、この研究は、雨の後に泡が増加するという矛盾を都市部の湖の死の兆候として説明している。
ベランドゥル湖には、その分解能力をはるかに超えた未処理の下水が流入しており、界面活性物質をシステム内に留めておく酸素が枯渇している。悪循環が起こり、この問題は年々悪化している。バルスール湖など市内の他の湖でも泡立ちが目撃されている。
この脅威に立ち向かうには、この悪循環を打破する必要がある。ダス氏は 「私たちは持続可能な水処理戦略を計画しています。最初のステップは、湖の酸素濃度を増やすことです。藻類を加えて酸素を増やすか、溶存酸素量を多く含む処理水を加えればよいのです」と語る。