2023年11月9日
小林クリシュナピライ憲枝(こばやし・くりしゅなぴらい・のりえ):
長岡技術科学大学 IITM-NUT
オフィス コーディネーター
<略歴>
明治大学文学部卒。日本では特許・法律事務所等に勤務した。英国に1年間留学、British Studiesと日本語教育を学ぶ。結婚を機にシンガポールを経てインドに在住。インドでは、チェンナイ補習授業校、人材コンサルティング会社、会計事務所に勤務後、現在は、長岡技術科学大学のインド連携コーディネーターを務めるとともに、インド工科大学マドラス校(以下IITマドラス校)の日本語教育に携わっている。IITマドラス校の職員住宅に居住している。
インド宇宙研究機関(The Indian Space Research Organisation : ISRO)の無人探査機「チャンドラヤーン3号(Chandrayaan-3)」の月面着陸ミッション[1] [2]でプロジェクトディレクターを務めたP.ヴィーラムトゥヴェル博士[3]が10月8日に述べたこの言葉が、2019年のチャンドラヤーン2号の月面着陸失敗等から多くを学び、成功にたどりついた今回のミッションを象徴している。
同ミッションに官学連携の立場から参画したIITマドラス校ではこの日、月面着陸・探査の記念講演と、IITマドラス校同窓生である12名のISROサイエンティストの表彰式 "Over the Moon with Team Chandrayaan-3" が行われた[4]。筆者はこれを取材する機会を得たので、官学連携に焦点を当てお伝えする。
チャンドラヤーン3号は8月23日、月面着陸を成功させた。ISROのS. ソマナトゥ会長の指揮のもとである[5]。月面着陸自体は、それまでアメリカ、旧ソ連、中国が成功しているが、今回のチャンドラヤーン3号は、世界で初めて月の南極近くの着陸に成功した。
チャンドラヤーン3号の目的は、
―であった[6]。
以下は、月面ミッションのプロジェクトディレクターであるヴィーラムトゥヴェル博士が、IITマドラス校で記念講演をした、発表資料である[4]。これまでの各国の月面着陸のヒストリー、月の性質、着陸機の地上実験と月面着陸の難しかった点、フライトパフォーマンス、チャンドラヤーン3号の堅牢性・行われたシミュレーションと試験・軌道上試験、ミッションの要素とプロフィール、制作から打上げにいたるまでの過程、着陸と着陸後の月面探査、実験結果等、詳細な説明がされた。
講演には、IITマドラス校の職員、学生のみならず、近隣の学校の生徒たちも参加し、熱心に聞き入っていた。
このミッションには、ISROだけでも千名にも上る職員が、そして、その他の外部組織・関係者多数がかかわり、成功はこれら全てのスタッフらの尽力の賜物であった。
IITマドラス校には、ISRO-IITMスペーステクノロジー・セル[7]があり、同校の複数の教授もこのミッションに関わり、官学連携を担った。また、IITマドラス校では、ISROから派遣される科学者たちに宇宙関連の研究の博士課程の指導等を施すことが多くある。
ISROヴィクラムサラバイ スペースセンター(VSSC)所長兼インド宇宙科学技術大学(IIST)学長のS. ウンニクリシュナン博士[8]もミッションに関わった1人だ。同所長はIITマドラス校にて、機械工学科現学科長であるP. チャンドラモウリ教授の指導のもと、博士論文「ヘルムホルツ共鳴器ベースの打ち上げロケット用ペイロードフェアリングの音響保護システム」で機械工学博士号を取得している。
S. ウンニクリシュナン ナイル博士
ISROヴィクラムサラバイ スペースセンター(VSSC) 所長
P. チャンドラモウリ教授
(現IITマドラス校機械工学科長、博士課程指導教官)
S. ウンニクリシュナン ナイル博士 の月面ミッション成功の功績を称えた
冒頭で紹介した今回ミッションのプロジェクトディレクターであるP. ヴィーラムトゥヴェル博士[3]は、IITマドラス校機械工学科K. シャンカー教授のもとで、博士論文「粒子ダンパーベースの宇宙船用途の電子パッケージの振動抑制」で機械工学博士号を取得している。
P. ヴィーラムトゥヴェル博士
チャンドラヤーン3号プロジェクトディレクター (ISRO)
K. シャンカー教授
(IITマドラス校機械工学科教授、博士課程指導教官)
P. ヴィーラムトゥヴェル博士の月面ミッション成功の功績を称えた
IITマドラス校 V.カマコティ学長、同窓会担当副学長マヘシュ・パンチャグニューラ教授、上記指導教官2名が、月面探査プロジェクトに関わったIITマドラス出身のISROサイエンティスト12名を表彰した=2023年10月8日
(写真はすべて筆者撮影)