エドテック大手バイジューズの企業価値急落、行き詰ったユニコーン

2024年5月24日 剱持 由起夫(JST インドリエゾンオフィサー)

教育とITを融合させた「エドテック」企業として、時価総額が1兆円に達したベンチャーが世界に2つある。インドのバイジューズ(Byju's)と中国のユアンフーダオ(Yuanfudao)だ。バイジューズは2022年に220億ドルと評価され、有料ユーザー数も世界最大規模(280万人)だったが、2024年にはその価値が95%以上も減少し、10億ドルにまで落ち込んだ。

インドのスタートアップ投資はコロナ禍の2021年にピークを迎え、多くのユニコーン企業が誕生したが、その後は縮小傾向にある。2023年には前年の約3分の1まで減少した。このような状況下で、バイジューズの企業価値も急落し、Times of IndiaやBusiness Standardなどの主要メディアが報じている。急落の主な要因はマネジメント問題とされているが、本記事ではコンテンツの観点からその背景を探る。

バイジューズは、バイジュー・ラヴィーンドランが2006年に立ち上げた企業である。彼は難関とされるインドのMBA入学試験(CAT試験)で満点を取った経験を活かし、まず試験対策クラスを始めた。2011年には小学校から高校まで(K-12)のカリキュラムを提供する会社を設立し、2015年にはAIを活用したアプリをリリースした。このアプリは生徒の理解度に応じて最適な学習内容を提供するものだった。AIを基盤とする新世代のエドテックである。

マーケティングにも力を入れ、リオネル・メッシを広告に起用し、不安定なインドのインターネット事情に配慮したオフラインの学習コンテンツも提供した。アプリを通じて親が子どもの学習状況を確認できる「見える化」も特徴的だ。しかし、他社が提供する教材との差別化が難しく、AI技術の優位性を十分にアピールできていないとの指摘がある。Indian Expressが端的に述べているとおり、ユーザーは「どこにでもある教材」と感じており、AIによる最適化への対価を理解していないのが現状である。

パンデミックが終息し通常の授業が再開されたことで収入が減少し、資金繰りが悪化した。バイジューズの企業価値の急激な下落は、AIの活用が必ずしも持続可能な収益確保に結びつかないことを示している。India Todayによると、バイジューズだけでなく多くのスタートアップがビジネスモデルの再構築を迫られている。しかし、バイジューズは現在も10億ドルの企業価値を維持しており、社会からの根強い期待がうかがえる。AIを活用したエドテック企業のモデルとして、今後の動向が注目されている。

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