アヌサンダン国家研究基金の挑戦と未来

2024年7月5日 剱持 由起夫(JST インドリエゾンオフィサー)

2023年8月、インド議会は「アヌサンダン国家研究基金(ANRF)」の設立を承認した。科学技術省(DST)の科学技術研究委員会(SERB)を基盤とし、2024年2月に法律が施行、DST事務次官を暫定CEOとして正式運営が始まった。そして現在、民間資金の調達と公共性の高い研究活動の確保という二つの課題に挑戦している。

予算計画と資金調達

ANRFは2023年から2028年の5年間で総額5000億インドルピー(INR)の予算を見込んでおり、そのうち72%にあたる3600億INRを民間から資金調達。政府予算は1400億INRで、従来のSERB予算(最大年間100億INR)を大幅に増やすことを目指している。

ミッションと主な取り組み

ANRFの目的は、インドの大学や研究機関における研究開発を促進し、イノベーション創出の文化を醸成することだ。具体的には、以下の取り組みを実施する。

シンクタンク機能

  • 研究開発ロードマップ作成
  • 研究成果に関する年次調査および政策立案に資する科学技術情報の提供

研究開発の支援と推進

  • 競争的研究資金の提供
  • 資本集約的技術の社会実装に向けた橋渡し研究(創薬、半導体製造など)
  • 社会課題解決に向けたプログラム整備
  • 国際共同プロジェクトへの参加

インフラ整備と若手育成

  • 基礎研究に適したインフラ・環境整備
  • 国の優先事項を実現するための戦略的インフラ整備
  • 卓越センター設立
  • 若手研究者育成のためのフェローシップ

ネットワークハブ機能

  • 産学官連携の促進
  • 中央政府と州政府の連携強化
  • インド国内外の研究協力推進

民間資金調達の課題

インドの新会社法(2014年施行)に基づき、企業*は純利益の2%以上をCSR活動に支出する義務があるが、その総額は年間2628億INR(2022年)で、70%以上が健康(1010億INR)と教育(852億INR)に集中している。したがって、ANRFが計画している規模の民間資金すべてをCSR活動から集めることは困難である。

また、CSR活動以外の資金調達では、透明性の確保が重要だ。企業の利益に合致した研究が優先され、公共の利益に資する研究が後回しにされる懸念もある。このような懸念が生じる背景として、民間からの資金提供内容および用途の詳細が公開されていないことが挙げられる。

  • *純資産50億INR以上、総売上高100億INR以上、純利益5000万INR以上の3要件に1つでも該当する企業

今後の見通し

ANRFの設立によって、インドは研究開発を大きく推進するための重要な一歩を踏み出した。産学官連携が進むことで持続可能な研究活動が発展し、社会全体が利益を享受することが期待されている。これを実現するためには、政府、州政府、産業界、学術界などの協力が不可欠。公共性の高い研究活動の支援と十分な民間の確保をどのように具体化するか、今後の運営に注目したい。

上へ戻る