【AsianScientist】 ヒマラヤの野生草食動物が家畜に代わると昆虫の数と種類が変化する

ヒマラヤの草が食べられると植生パターンが変化し、昆虫の数と種類が変化した。(2025年4月17日公開)

生態系のごく一部が変化するだけでも、カスケード効果が起こり得る。たとえば、草食動物の場合だが、野生の草食動物を家畜に代えると植物の構成から土壌の特性まで変化する。14年間かけて行われたある研究が、Ecological Applications誌に掲載された。研究チームは、この影響は昆虫にも及んでおり、クモの個体数が減少する一方で、バッタ、マダニ、ダニが増殖していることを発見した。

この研究の責任著者であり、インド理科大学院 (IISc) 生態科学センター (CES) のスマンタ・バグチ (Sumanta Bagchi) 准教授は「野生の草食動物はかつては地球上のいたるところにいましたが、現在、いくつかの公園や保護区の中だけで見かけられます。その他の場所では、家畜が優勢になっています」と語った。

バグチ准教授とそのチームは、ヤク、バラル、アイベックスなどの在来の草食動物を現地で飼われている家畜に置き換えるとどのような影響が起こるのか調べるために、ヒマラヤのスピティ地域にあるいくつかの区画をフェンスで囲んだ。チームは2万5000以上の昆虫を追跡し、植生や土壌の状態を分析して、草食動物の特質が地上性節足動物にどのような影響を与えるかを調べた。

草食動物は周囲の生態系を変え、他の草食動物の食料入手可能性を減らし、その地域に生育する植物の割合を変える。CESの元博士課程学生で共同筆頭著者のシャミク・ロイ (Shamik Roy) 氏は「植生と土壌の生物的・非生物的変数は複雑に絡み合っており、私たちはまだそれを解明できていません。節足動物は食料と住居を草食動物に大きく依存しており、生態系の中で何世紀にもわたり在来草食動物とのつながりが形成されてきました」と語る。このつながりは、家畜が野生の草食動物に取って代わると途絶えてしまうかもしれない。

CESの元博士課程学生で共同筆頭著者のプロノイ・バイディア (Pronoy Baidya) 氏は「最も驚くべき観察結果の1つは、在来の草食動物と家畜の間には、マダニとダニの数に大きな違いがあることでした」と述べる。マダニとダニは吸血動物であるため、動物から人間に広がる人獣共通感染症を含めたさまざまな病気の媒介者である。家畜に寄生する個体数が多いということは、動物と人間の健康にとって大きな意味を持つ。

家畜放牧地には多くのマダニやダニがいたが、クモの個体数はかなり減っていった。クモがいなくなると、クモの獲物であった葉食性動物が増加する。バグチ氏は「クモは捕食動物です。その生態学的役割はオオカミ、ライオン、トラに似ています。クモの個体数が減ると、バッタが捕食者の支配から解放され、生態系の下流で多くの変化を引き起こすかもしれません」と述べた。クモの個体数がこのように影響を受ける理由は正確にはまだ不明だが、チームは、植物の構成が変化することで獲物を捕らえる能力が妨げられ、食料が減ってくるためではないかと推測している。

チームは、人間と動物が密接に共存する地域では、在来の草食動物を野生に戻す必要性と、媒介動物が媒介する病気の監視を強化する必要性を強調する。また、大規模な家畜放牧が行われている地域では、もっと効果的な保護政策を行うべきと述べる。

「現在、共有地のほとんどは管理が行き届いておらず、村人が生計を立てるために共有地を持続可能な形で利用することはできません。その結果、現地の草食動物が草を食べる地がなくなってきているのです」とバイディア氏は述べた。「私たちの研究が、政府に対し、まず共有地についての制限を解き、次にこれらの土地の適切な生態学的回復を開始するという真剣な措置を取るよう促す一例となることを願っています」

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