【The Conversation】 新しい人工衛星NISARは地球のあらゆる動きを監視する

地球表面の変化をセンチメートル単位、かつほぼリアルタイムで時間帯や天候に左右されずに検知できる新しい人工衛星が、数日後にインドのチェンナイ近郊にあるサティシュ・ダワン宇宙センターから打ち上げられる。

この人工衛星はNISARといい、重さ約3トン、12メートルのレーダーアンテナを備え、15億ドルの費用が費やされた。この衛星は足元の地面とその上を流れる水をかつてないほど詳細に追跡し、農家、気候科学者、自然災害対応チームに貴重な情報を提供することであろう。

条件が整った時のみ

地球を撮影する衛星は、何十年にもわたり、貴重な科学ツールとして活用され、天気予報や緊急対応計画など、多くの用途で重要なデータを提供してきた。また、地球の生態系や気候の長期的な変化を追跡し、科学者を助けてきた。

これら地球観測衛星の多くは、地球表面の画像を撮影するために太陽光の反射を必要とする。つまり、衛星が画像を撮影できるのは、昼間、雲のない時間帯のみである。

そのため、熱帯地域など雲が頻繁に発生する地域や、夜間の画像が必要な場合、多くの衛星は問題を抱える。

米国航空宇宙局(NASA)とインド宇宙研究機関(ISRO)のコラボレーションである人工衛星NISARは、合成開口レーダー(SAR)技術を用いて地球の画像を撮影することで、これらの問題を克服している。この技術は、NISAR衛星の名の由来ともなっている。NISARはNASA-ISRO SARの略である。

SAR技術とは何か?

SAR技術が発明されたのは1951年のことであり、軍事利用のためだった。SAR衛星は太陽光の反射を利用して地表を受動的に画像化するのではなく、地表に向けてレーダー信号を能動的に照射し、その反射信号を検出することで機能する。暗い部屋でフラッシュを使って写真を撮るようなものだと考えてみればよい。

つまり、SAR衛星は昼でも夜でも地表の画像を撮影できる。

レーダー信号は雲や煙があってもほぼ遮られることなく通過可能であるため、SAR衛星は地表が雲、煙、灰に覆われていても画像の撮影が可能である。これは、洪水、山火事、火山噴火などの自然災害発生時に特に役立つ。

レーダー信号は、生い茂った植生など、特定の構造を通過することもできる。また、水はレーダー信号の反射に影響を与えるため、水の存在を検出するのにも役立つ。

欧州宇宙機関(ESA)は、最近のバイオマスミッションにおいて、SAR信号の植生透過特性を活用した。この技術は森林の3D構造を画像化することが可能であり、また、地球の森林に蓄積されているバイオマス量と炭素量を高精度で測定することができる。

シンガポール地球観測所リモートセンシング研究所所長のサンホ・ユン (Sang-Ho Yun) 氏は、特に熱心に災害管理におけるSAR活用を進めている。ユン氏はこれまで15年間、SARデータを使い地震、洪水、台風など、数百もの自然災害の被災地をマッピングしてきた。

6月18日に打ち上げ予定のNISARは、こうしたこれまでの成果を大きく発展させるものである。

NISARのデータから生成される画像は、2013年にNASAの人工衛星であるUAVSARのデータに基づいてペルーのアマゾンのジャングルの洪水多発地域を撮影した画像と似たようなものとなるであろう
(NASA/JPL-Caltech)

地球上の多様な生態系の監視

NISARの開発には10年以上が費やされ、これまでに建造された地球観測衛星の中で最も高額な衛星の一つとなった。

この衛星は、12日に2回、地球上のほぼすべての陸地と氷面の高解像度画像データを世界中に無償で公開する予定である。

NISARの規模は、欧州宇宙機関のSentinel-1 SAR衛星とほぼ同じである。しかし、NISARは1つのレーダー周波数ではなく、2つの補完的なレーダー周波数を使用する初のSAR衛星となり、Sentinel-1衛星と比較して解像度の高い画像を生成することができる。また、南極大陸についてはSentinel-1よりも広範囲を対象とし、植生をさらに深く進むことができるレーダー周波数を使用する。

NISAR衛星は森林バイオマスの監視に使用される。NISARには植生を貫通すると同時に水を検知する能力があるため、浸水した植生の正確な地図作成も可能である。

これは、地球の湿地について深く理解する上で重要である。湿地は高い生物多様性と膨大な炭素貯蔵能力を持つ、不可欠な生態系である。

また、高度の変化がレーダー反射信号の微小な変化を引き起こすため、NISARは地表からの高度の変化を数センチメートル、あるいは数ミリメートル単位で検知できる。

NISARはこの技術を用いて、ダムの沈下を追跡し、地下水位の地図を作る(地下水は地表の高さに影響を与えるため)。さらに、同じ技術を用いて、地震、地滑り、火山活動による地盤変動や被害の地図作成にも使用される。

災害用の地図は、災害対応チームが被災地で発生した被害を十分理解し、対応計画を立てるのに役立つ。

農業の改善

NISARは、どのような気象条件であっても高分解能で土壌の水分レベルを推定できる独自の能力を備えているため、農業用としても役に立つ。

このようなデータは、健全な植生を確保するための灌漑時期の決定に役立ち、水利用効率と作物収量の改善にもつながるため、農業用途にとして非常に重要である。

NISARミッションのその他の主要な用途としては、地球の氷床と氷河の流れの追跡、海岸浸食の監視、油流出の追跡などが挙げられる。

これは非常に意欲的な衛星ミッションであり、科学と社会に多くの恩恵がもたらされると期待されている。

(2025年7月10日公開)

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