2021年05月
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HIVの再活性化を阻止するナノザイムを開発 インド理科大学院

インド理科大学院(Indian Institute of Science: IISc)は4月1日、IIScの研究者が宿主の免疫細胞におけるヒト免疫不全ウイルス(HIV)の再活性化と複製を阻止できる人工酵素、ナノザイムを開発したと発表した。

この研究は、微生物学・細胞生物学部門感染症研究センター(CIDR)のアミット・シン(Amit Singh)准教授と、無機物理化学科のゴビンダサミー・ムゲシュ(Govindasamy Mugesh)教授によって進められたもので、科学誌EMBO Molecular Medicineに掲載された。

彼らの研究によると、五酸化バナジウムナノシートから作られたこれらの「ナノザイム」は、ウイルスを抑えるために必要で、かつ宿主の細胞の酸化ストレスレベルを下げるために役立つグルタチオンペルオキシダーゼと呼ばれる天然酵素を模倣することによって機能するとしている。

ムゲシュ氏はこの利点について「ナノザイムが生体系内で安定しており、細胞内の不要な反応を仲介せず、ラボでの準備も非常に簡単」と説明する。

現在のところ、患者の体からHIVを完全に排除する方法はなく、抗HIV薬は、ウイルスの抑制にのみ成功し、感染した細胞からHIVを根絶することはできない。ウイルスは「潜伏」状態で宿主の免疫細胞内に隠れ、その貯蔵を安定して維持する。過酸化水素などの有毒分子のレベルが宿主の細胞内で増加し、酸化ストレスが増加した状態になると、ウイルスは「再活性化」される。つまり、ウイルスは隠れ場から出現し、再び複製を開始するのだ。

アミット・シン(Amit Singh)氏のチームは数年前、HIVに感染した免疫細胞の酸化ストレスレベルをリアルタイムで測定するバイオセンサーを開発し、 潜伏期から抜け出して再活性化するためにHIVは酸化ストレスをわずかしか必要としないことが分かった。再活性化を防ぐ1つの方法は、酸化ストレスを常に低く保つことで、これにより、ウイルスは永続的な待ち状態に「ロック」される。グルタチオンペルオキシダーゼなどの酵素は、このプロセスに不可欠だ。それらは有毒な過酸化水素を水と酸素に変換する。しかし、宿主細胞にこれらの酵素をより多く産生させるように誘導すると、厳密に制御された細胞の酸化還元機構が破壊される可能性がある。

一方、ムゲシュ氏のグループは、五酸化バナジウムで作られたナノワイヤーがグルタチオンペルオキシダーゼの活性を効率的に模倣できるとの研究結果を発表した。そして、シン氏の研究室は彼らと協力することになった。研究室では、五酸化バナジウムの極薄ナノシートでHIV感染細胞を処理した。シートは、天然酵素と同程度に効果的に過酸化水素を減らし、ウイルスの再活性化を防ぐことが分かったという。

また、抗レトロウイルス療法(ART)を受けているHIV感染患者の免疫細胞をナノザイムで処理した場合、潜伏期はより早く誘発され、治療を停止するとその後の再活性化が抑制され、2つを組み合わせることがより効果的であることが示された。

CIDRの筆頭著者兼リサーチアソシエイトであるシャリニ・サイ(Shalini Singh) 氏によると、V2O5抗酸化ナノシートはHIVの再活性化をブロックするという。ARTとナノザイムを組み合わせると、一部のART薬は、副作用として酸化ストレスを引き起こす可能性があり、シン氏は心臓や腎臓の細胞に損傷を与える可能性があると指摘する。こうしたことから、ムゲシュ氏は研究室レベルではナノザイムは正常細胞に無害であることが判明したが、さらなる研究が必要と話している。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部