2021年06月
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「模倣研究から独自研究に移行へ」インドのバイオテック界の重鎮、マズムダール・ショー氏が期待

バイオコンの創業者キラン・マズムダール・ショー(Kiran Mazumdar-Shaw)氏は、インドがジェネリック医薬品のサプライヤーから本格的なバイオテクノロジーのイノベーターとなる急速な変化を先導している。

AsianScientist - ブロックバスターとは、10億ドルではなく、10億人の患者を見据えた画期的新薬である-。これを信条とするインド最大のバイオテクノロジー企業であるバイオコンの創業者、キラン・マズムダール・ショー(Kiran Mazumdar-Shaw)氏は、地域のバイオテクノロジー産業に大きな可能性を見出している。マズムダー・ショー氏は、アジアが世界の人口の大部分を占め、より良い医薬品を求めている巨大な市場を前に、模倣研究から独自研究へ移行する過渡期を迎え、期待に胸を躍らせている。

「私は今、(インドで)初めて、全く新しいコンセプトに焦点を当てた最先端の研究に注目しています」

言い換えれば、インドはジェネリック医薬品の最大の供給国である「世界の薬局」から、日本、韓国、シンガポールなどと並ぶ真のバイオテクノロジーのイノベーターへと移行しつつある。このような地域全体の変化の一環として、アジア人を対象とした臨床研究が活発化している。これまでの臨床試験は欧米人を対象にしたものが多かった。

「医薬品に対する反応の仕方や薬物投与量の決定方法には、遺伝的・民族的な違いがあることが分かっています。今では、アジア人を対象とした研究が貴重なデータとして認識されるようになっていると思います」とマズムダール・ショー氏は語る。

バイオコン社の研究テーマの一つは、モノクローナル抗体(mAb)のような生物学的製剤への取り組みである。同社は、インドで初めて独自に開発された新規mAbであるBIOMAb-EGFRや、T細胞の膜貫通型糖タンパク質であるCD6を標的とした初の治療用抗体であるALZUMAbを開発し、自己免疫疾患の治療に役立てている。

「当社はビスペシフィック融合抗体に非常に真剣に取り組み始めました。分子のパイプラインに加えることで大きな成功が見込まれるものと大いに期待しています」

1つの標的を認識する典型的なmAbとは異なり、ビスペシフィック抗体は2つの異なる標的に同時に結合することができ、この特性は特に免疫チェックポイント阻害剤として注目されている。

マズムダール・ショー氏は「人間の免疫システムは非常に複雑なので、何か効果的なことをするためには、複数の抗体を組み合わせる必要があります。当社は、T細胞トラップと受容体ターゲティングアームを組み合わせた融合型二重特異性抗体の開発を始めました。腫瘍抗原を捕捉して、T細胞が腫瘍微小環境を攻撃し始めるようにするのが狙いです」と言う。

マズムダール・ショー氏は、革新的ながん治療法の開発にも力を入れており、特に腫瘍学者のシッダールタ・ムカルジー(Siddhartha Mukherjee)氏とベンチャーキャピタルのクシュ・パルマー(Kush Parmar)氏との合弁会社であるImmuneel社を通じて、CAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)技術をインドの患者にとってより入手可能なものにしている。

CAR-T療法とは、患者自身の免疫細胞を採取し遺伝子組み換えすることでがん細胞を追い詰め、破壊する治療法である。Immunee社は、最初のCAR-T療法薬を米国の20~40倍も価格が低い、あるいは5万米ドルで提供することを目指している。

「当社はCAR-Tのサプライチェーンのあらゆる段階に対応し、中央の研究所ではなく、センターや病院と連携するハブ&スポークモデルにすることで、コストを削減できると考えています」

一代で財を成した女性としての顔を持つマズムダール・ショー氏は、性別に偏りのある業界で逆境を乗り越えてきた研究者でもある。彼女はインドで動物学の学士号を取得した後、オーストラリアで発酵学を学び、1975年にマスターブリューワーとして卒業した。

しかし、インドには女性のマスターブリューワーを雇用する企業は皆無であったため、彼女は酵素の製造に軸足を移した。1979年、バイオコンの最初の製品はビールの濁りを抑えるための酵素だった。また、インドでは女性が資金を調達するのは難しいという障壁もあった。

「女性は思い切ったビジネスを行える大胆さを備えていないというのは誤った通説に過ぎません。それは、私たち全員が時間をかけて打ち破ってきたものです。だから、世の中がまだそれを理解していないことに本当に驚いています」

マサムダール・ショー氏はTwitter Indiaにこのように語った。

機会の均等化にはまだ多くの課題があるが、マサムダー・ショー氏の成功は、インドのみならず世界の女性科学者の可能性を引き出したことは間違いない。

マズムダー・ショー氏をはじめとするアジアの先駆的な研究者のインタビュー記事が、Five Years Of The Asian Scientist 100にて公開されている。

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