2021年06月
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IISc関連のスタートアップ企業、コロナ抗体テストでライセンス取得

インド理科大学院(Indian Institute of Science: IISc)は、傘下のイノベーション開発協会(SID)発のスタートアップ企業であるPathShodh Healthcareが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のIgM/IgG抗体に関して、この種で最初となる「半定量的電気化学ELISAテスト」の開発で大きな進歩を遂げたと発表した。

PathShodhは、インド医療研究委員会(Indian Council of Medical Research:ICMR)の要件に従って、ファリダバードにあるトランスレーショナルヘルスサイエンスアンドテクノロジーインスティテュート(THSTI)でデューデリジェンス検証を行い、中央医薬品標準管理機構(CDSCO)から同テストを販売用に製造するライセンスを取得した。

この技術の斬新さは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)スパイク糖タンパク質(S1)に特異的なIgMおよびIgG抗体の電気化学的酸化還元活性の測定に基づいていることだ。S1タンパク質には、感染前に宿主細胞上のACE2受容体にラッチする受容体結合ドメイン(RBD)がある。それゆえS1スパイクタンパク質を標的とする抗体検査は、ヌクレオカプシド(N)タンパク質を標的とする検査と比較して、感染に対する免疫応答をよりよく示す。米国およびインドにて特許出願済みのPathShodhの技術は、主にイムノクロマトグラフィーELISA技術に基づく市場での定性的迅速抗体検査との大きな違いでもある。

「COVID-19抗体濃度を定量化する機能は、時間の経過とともに低下する抗体反応を推定する上で非常に重要である。そして、感染の再発に対する免疫へインパクト与える可能性がある。この手法はCOVID-19ワクチンに対する抗体陽転反応の解明にも非常に大きな役割を果たし、それはワクチン接種プログラムを支援する役割を果たすからだ」

IISc学際科学部門・学部長兼ナノ科学工学センター(Center for Nano Science and Engineering:CeNSE)教授で、PathShodh Healthcareの共同創設者でもあるナバカンタ バート(Navakanta Bhat)氏はこのように話す。

「このテストは、PathShodhのLab-on-Palmプラットフォーム「anuPathTM」を活用して開発された。このプラットフォームは、COVID-19抗体に特異的な免疫受容体で機能化された使い捨てテストストリップと連動する。テスト結果は、手持ち式のリーダーによって自動的に表示されます。したがって、現在のイムノクロマトグラフィーテストキットのように、テスト結果を手動で読み取ることによる主観的なエラーはない。

このテクノロジーの他のユニークな機能には、10万以上のリアルタイムテスト結果を保存するオンボードメモリ、タッチスクリーンディスプレイ、充電式バッテリー、スマートフォンおよびクラウドストレージへのBluetooth接続、患者データをAadhaar番号(日本のマイナンバーに相当)にマッピングし、かつ、APIを介してテストデータをAarogyaSetu (COVID-19との複合的な戦いに不可欠な医療サービスを国民と結び付けるためにインド政府が開発したモバイルアプリケーション)に接続するなどの機能が含まれる。」

PathShodhのCEO兼共同創設者であるヴィナイ・クマール(Vinay Kumar)氏は、「この新技術は、ナノモル濃度までCOVID-19抗体を検出することができ、血清サンプルだけでなく、静脈または毛細血管(指刺し)全血サンプルでも機能する。今後数週間で製品を市場に投入する予定である。現在の生産能力は、1か月あたり約10万回分のテストだが、製造ラインを拡張することで、さらにスケールアップが可能」と明かす。

PathShodh Healthcareは、ISO 13485認定企業であり、IIScからこの認定を取得した最初の新興企業である。現在提供されている製品のマルチアナライトLab-on-Palmプラットフォーム「anuPathTM」は、糖尿病、肝疾患、貧血、栄養失調の早期診断と管理が可能である。新しいCOVID-19診断テストにより、PathShodhは非感染性疾患(NCD)を超えて製品ラインナップを拡大し、感染症の診断ソリューションの新しいラインナップも提供する予定である。また、同じプラットフォームでCOVID-19迅速抗原検査も開発している。これは、単一のプラットフォームで迅速な抗体検査と迅速な抗原検査の両方を実行する機能を備えた初めてのCOVID-19診断ソリューションになる可能性がある。

この技術の開発・商業化のための資金は、インド政府の科学技術庁(DST)の「COVID-19健康危機への対応拡大センター」(CAWACH)政策により提供された。技術開発は、インド工科大学ボンベイ校のSociety for Innovation and Entrepreneurship(SINE)とハイデラバードの"IKPナレッジパーク"によってもサポートされている。また、IIScの「イノベーション&開発協会」も開発シード資金を提供した。

IIScは、インドでは Mother of Universitiesと呼ばれる最高峰の研究大学(大学院大学)で、日本のトップ大学や企業との共同研究も多いと言われている。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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