インド工科大学 (IIT) の研究者らは7月16日、がんの原因となる細胞内の変化を特定する人工知能(AI)ベースの数理モデルを開発したと発表した。がんの個別化医療に向けた治療戦略策定に期待が寄せられている。研究成果は、医学誌CANCERSに掲載された。
この数理モデルは、DNAの組成に関する技術を用いてがんの進行の原因となる遺伝子の変化を特定することができる。がんは、主に遺伝子の変化によって細胞が無秩序に増殖することで発生する。近年、高精度のDNAシークエンシングによりこれらの変化を測定することが可能となり、がん研究の分野に革命がもたらされた。しかし、これらのシークエンスデータは複雑で大きいため、がん患者のゲノムから正確な変化を特定することは難しいとされている。
今回の研究は、ロバート・ボッシュ・データサイエンス・AIセンター(RBCDSAI)の責任者であるB・ラビンドラン (B. Ravindran) 教授、統合生物学・システム医学センター(IBSC)のコーディネーターであるカルシック・ラマン (Karthik Raman) 博士、そして修士課程学生であるシャヤンタン・バナジー (Shayantan Banerjee) 氏が中心となって行われた。
ラビンドラン教授は、課題の1つとして「がん細胞の増殖を可能にする比較的少数のドライバー変異と、病気の進行に影響を与えない多数のパッセンジャー変異を区別すること」を挙げ、「今回の研究は、患者さんに最も適した治療戦略を特定するだけでなく、人のゲノム構成に合わせて個別の治療法を提供することにも役立つだろう」と期待を込める。
研究者らは、数理モデルによって予測されたドライバー変異が、最終的には新規の創薬ターゲットの発見につながり、「適切な薬を適切な人に、適切な時期に処方する」という考え方が広まることを期待している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部