インド理科大学院大学(Indian Institute of Science: IISc)の研究者らは、超流動ヘリウム中に2種類の少数電子バブル(Few Electron Bubbles: FEB)が存在することを初めて実験的に示した。このFEBは、物質中の電子のエネルギー状態や電子間の相互作用が、物質の特性にどのような影響を与えるかを研究するための有用なモデルとなる。これまでFEBの存在は、理論的にしか予測されていなかった。
研究チームには、物理学科の元博士課程学生ネハ・ヤダフ(Neha Yadav)氏、ナノサイエンス・エンジニアリングセンター(Centre for Nano Science and Engineering:CeNSE)のプロセンジット・セン(Prosenjit Sen)教授、アンブリッシュ・ゴッシュ(Ambarish Ghosh)教授が参加し、この研究成果は科学誌Science Advancesに掲載された。
超流動状態のヘリウムに電子を注入すると、ヘリウム原子が存在せず、電子だけが存在する単一電子バブル(SEB)と呼ばれる空洞が形成される。この気泡の形状は、電子のエネルギー状態に依存する。例えば、電子が基底状態(1S)にある場合、バブルは球形になり、また、数千個の電子を含む多重電子バブル(MEB)もあるといわれている。
理論的に計算されたFEBの形状(縮尺通りではない)と電子の空間配置(左の図)。これは、それぞれのFEBが微小な揺らぎに対して安定となる圧力の範囲も示している。右は、渦線上に捕捉されたFEBが破裂する様子(提供:ネハ・ヤダフ氏)
一方、FEBは、液体ヘリウム中のナノメートルサイズの空洞で、わずか数個の自由電子を含んでいる。自由電子の数、状態、相互作用によって、物質の物理的・化学的特性が決まる。したがって、FEBを研究することは、物質中に存在するわずかな電子が相互作用することで、これらの特性の一部がどのように現れるかをよりよく理解するのに役立つと考えられる。また、FEBがどのように形成されるかを理解することで、ソフトマテリアルの自己組織化に関する知見を得ることができ、これは次世代の量子材料の開発にも重要であるという。
研究に参加したヤダフ氏らは、ナノメートルサイズのMEBの安定性の研究中に、偶然にFEBを観測したという。
超流動体や粘性流体の乱流や、超流動ヘリウムの熱の流れなど、FEBが科学者の理解を助ける現象はいくつかある。超伝導体が極低温で抵抗なく電流を流すように、超流動ヘリウムも極低温で効率よく熱を伝える。しかし、渦と呼ばれる欠陥があると、熱伝導率が低下する。今回発見されたFEBは、そのような渦の中心に存在するので、超流動ヘリウムを流れる熱だけでなく、渦同士がどのように相互作用するかを研究するのに役立つもの。
「近い将来、私たちは、FEBに他の種類があるかどうかを知り、あるものが他のものよりも安定しているメカニズムを理解したいと考えています。長期的には、これらのFEBを量子シミュレーターとして利用したいと考えているが、そのためには新しいタイプの測定方法を開発する必要がある」とゴッシュ教授は話している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部