インド理科大学院大学(Indian Institute of Science: IISc)分子生物物理学ユニットのアラビンド・ペンマッツァ(Aravind Penmatsa)准教授らは、スーパーバグ(病原性細菌)のトランスポーターの分子構造を解明することで、トランスポーターに対する阻害剤の設計が可能となり病気の治療に役立つと想定した。
同チームの研究は、このようなトランスポーターの1つであるNorCとインドラクダ科の抗体(Indian Camelid Antibody:ICab)との複合体の原子分解能構造を解明し、その結果、トランスポーターが単一の状態にロックされただけでなく、ICabがトランスポーターをボトルのコルク栓のように効果的に塞ぎ、抗菌化合物との相互作用ができなることを明らかにした。
NorCは、黄色ブドウ球菌に存在するトランスポーターで、ノルフロキサシンやモキシフロキサシンなどの広域スペクトルの抗生物質に対する耐性を持っている。NorCのようなトランスポーターは、細胞膜の中に存在し、本来の形で取り出すことが難しい。また、X線結晶構造解析に必要な結晶を形成するために、分子を周期的に配列させることも困難である。
そこで今回の研究では、特殊な洗剤混合物を用いてNorCを本来の形で抽出した後、インドラクダから得た単一ドメインの抗体断片(免疫化はビカネールにある国立ラクダ研究センター"National Research Center on Camel, Bikaner"で実施された)を使用して、NorC と結合したICabの複合体を結晶化させた。ラクダ、リャマ、サメは、従来の抗体に比べてはるかに小さく、抗原表面の深いポケットと効果的に相互作用するユニークなシングルドメイン抗体を持っている。
研究チームは、X線結晶構造解析によりNorC-ICab複合体の構造を明らかにし、ICabがトランスポーターの基質結合腔に入り込み、抗菌性化合物へのアクセスを効果的に阻害していることを発見した。また、トランスポーターは、基質を輸送するためにその構造を変化させる必要がある分子機械であるが、研究チームは、ICabがNorCと結合することで、NorCが単一の構造に固定されることも見いだした。
これらの発見・知見は、病原性細菌のトランスポーターを介した抗生物質耐性に対し、ラクダ科抗体のようなツールを用いた対抗戦略を構築する上で大きく役立つと考えられる。また、NorCの構造を解明したのは初めてで、他の病原性細菌の同様の薬物排出トランスポーターを研究するためのモデルとなると期待される。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部