2021年09月
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コロナと結核蔓延防止で空気除菌技術を開発へ インドと英国の大学

インド工科大学マドラス校(IITM)は8月12日、インドのベロール工科大学(VIT)チェンナイ、英国ロンドン大学クイーン・メアリー校(QMUL)と共同で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)および結核の蔓延を防ぐための空気除菌技術とガイドラインを開発すると発表した。

オフィスや病院など屋内閉鎖空間用で、空気感染する病気を抑制するために、堅牢で低コストのバイオエアゾール防御システムを開発することを目的としており、インドのデリーに拠点を置くスタートアップ企業Magneto Cleantech社とも協力し実施される。

COVID-19のパンデミックによりインドでは40万人以上が亡くなった。結核では2019年にインドでは4400万人以上が死亡しており、結核は依然として世界の死因のトップ10に入っている。このプロジェクトは、インドとその隣接国を対象としており、プロジェクトが成功すれば、多くの人々にも恩恵をもたらすと期待されている。

このプロジェクトは、空気中の病原菌を効果的に除去し、人々がより安全にアクセスできる閉鎖空間を実現するバイオエアロゾル保護システムを開発する必要性から生まれた。研究では、意識向上と性能(パフォーマンス)ベースのエンジニアリングを推進するために、バイオ安全性とバイオ汚染物質、さらにその除去過程を可視化する高度なセンシング技術を研究する。

今回の研究は、インド政府の目標である "Atmanirbhar Bharat(自立したインド) "および "Start-up India(起業するインド)"の政策に沿って、コンソーシアムで製品の開発、商品化を目指すもので、新進気鋭の若いエンジニアにも参加の道も開かれる。

このプロジェクトは、英国王立アカデミー・エンジニアリング(RAENG)の「Transforming System through Partnership」スキームから主な資金援助を受ける。プロジェクトの総予算は約8万ポンド(約1200万円)で、期間は2年間(2021年4月~2023年4月)。参加団体からも一部の資金援助が行われる。

この研究には教育的な要素が多く含まれており、インドと英国の学生に、世界中の社会に影響を与える深刻な課題の解決に向けて協力する機会を提供するものとなっている。

インド側のアカデミックパートナーは、IITMのアブダス・サマド(Abdus Samad)教授と、VITチェンナイのニティア・ヴェンカテサン(Nithya Venkatesan)教授で、サマド教授はシステム全体の設計と全体調整のチームをリードし、ヴェンカテサン教授は電気部品とIoT(モノのインターネット)の設計を担当する。

英国側は、ロンドン大学クイーン・メアリー校のエルダッド・アビタル(Eldad Avital)博士がリーダーとなり、英国チームのコーディネートを行い、流体力学と数学的モデリングを担当する。英国リーズ・ベケット大学のクライヴ・ベッグス(Clive Beggs)名誉教授はプロジェクト・コンサルタントを務め、微生物学とUVC(近紫外線)を担当する。

産業パートナーであるインドのMagneto Cleantech社(デリー)CEOのヒマンシュ・アガルワル(Himanshu Agarwal)氏と共同設立者バヌアガルワル(Bhanu Agarwal)氏は、空調システム全体の設計指導を行い、インドの建物や空調システムのニーズに合わせた全体設計にするための監督やシステムを顧客の現場で性能評価を担当する。

プロジェクトに参加する大学や企業のコメントは以下の通り。

IITM海洋工学部のプロジェクトコーディネーターであるアブダス・サマッド教授

「IITMは、社会的な問題を解決するために、常に共同研究に取り組んでいる。2020年3月にCOVID-19のロックダウンで、皆は恐怖を感じた。そこで、空気中のウイルスによる痛みや苦痛を軽減する方法を考え始めた。同じころ、英国王立工学アカデミーが、産業界とリンクした国際共同研究のための研究費提供を発表し、我々はすぐに行動を起こし研究を開始した。市場には様々なUVC(近紫外線)ソリューション存在しているが、空気の殺菌や不活性化には不十分であり、このプロジェクトでは、消費者フレンドリーで安全なソリューションを提供する」

ベロール工科大学(VIT)電気工学部のニティア・ヴェンカテサン教授

「試作機の設計は、学際的な最適化、流体力学的な分析や、英国とインドの一流の研究者が開発した近紫外線(UVC)の活用と、センサーおよび制御の新機軸に基づいて行われる。新時代のバイオセンシングやIoTデバイスによるシミュレーションを用いて、リアルタイム環境でシステム性能をモニタリングするメカニズムを探求する。重要な点は、この空気清浄装置を、清掃、換気、ソーシャルディスタンスなどの施策と協調・並行して使用するガイドラインの確立も目指している。それは、インドなどの発展途上国の高人口密度地区での特徴を考慮し、高度な流体力学モデル、リスク分析、国・地域の利害関係者との協力などを通じて達成される」

英国ロンドン大学クイーン・メアリー校(QMUL)のエルダッド・アビタル博士

「実用的なシステムを設計するには、多分野のチームが必要で、最終的には、電子・電気システム設計者、微生物学者、流体システム設計者などの専門家が集まった。COVID-19は急速に広まり、デルタなどのような変異株が登場している。それを封じ込め殺菌するためには、適切な技術の開発が必要であり、我々の研究結果は、室内の空気消毒に適している」

英国リーズ・ベケット大学のクライヴ・ベッグス名誉教授

「ウイルスやバクテリアは室内の空気中に容易に放出され、その濃度が高まると病原体を吸い込むため、人間の脅威となる。我々の空気除菌装置は、室内の空気中の病原体の濃度を下げ、COVID-19や結核などの蔓延を抑制する可能性がある」

インドのMagneto Cleantech社(デリー)CEO のヒマンシュ・アガルワル氏

「インド亜大陸での空気浄化システムの最も難しい課題は、重度の汚染と汚染物質の負荷に対処することであり、堅牢な設計と定期的なクリーニングが必要である。我々が取り組むのは、業界の規制に適合しリアルタイムに可視化して、多くの人々に恩恵を与える実現可能なソリューションを考案することである」

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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