2021年10月
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国産メモリー技術で180nm CMOS生産実証に成功 インド

インド工科大学ボンベイ校(IIT-B)は、パンジャブ州モハリ地区にあるインド宇宙庁(DOS)の半導体研究所(Semi-Conductor Laboratory: SCL)と共同で、180nm(ナノメートル) CMOS(相補型金属酸化膜半導体) ベースで量産可能な8ビットメモリー技術の実証に成功した。8月17日に発表した。

またIIT-Bは、既存のゲート酸化膜を用いたワンタイム・プログラマブル(OTP)技術の代わりに、二酸化ケイ素の超薄膜(原子数個分の厚さ)を蒸着したOTPメモリーを発明した。一般的なOTPメモリーでは、ゲート酸化膜破壊のため高電圧が必要となるが、IIT-Bが開発したメモリーチップでは、高電圧の供給が不要で、少電力かつ少ないチップ面積で済む。

コンピューターは、アナログ出力を持つセンサーチップを通して自然界を認識する。アナログ出力は、デジタイザーチップやADC(アナログ・デジタル変換器)を介してコンピューターの言語に変換される。このようなチップはファウンドリーで大量生産されるが、理想的には、これらのチップは同一かつ均一でなければならない。しかし、製造上のばらつきにより、わずかなずれが生じ、多くのチップが使い物にならなくなる。

この微小なオフセットをいったんメモリーに記憶させ、後で出力に適用することで、不完全なチップを「完璧」にできる。この方法を使えば、汎用のチップを設計し、用途に応じたオフセットを加えることで、高価なカスタムチップの設計が不要となり、ユーザーにとっては時間とコストの節約になる。

IIT-Bは、科学技術省の優先分野の研究強化プログラム(Intensification of Research in High Priority Area: IRHPA)の支援を受けている。また、インド工科大学デリー校(IIT-D)、チェンナイのSETS(Society for Electronic Transactions and Security)、DRDO(Defence Research and Development Organisation)と共同でハードウェアの暗号化を行った。

インド政府は、イノベーション主導での半導体製造の研究開発の重要性を認識し、IIT-Bとインド理科大学院(IISc)に最初のナノエレクトロニクス・センターオブエクセレンス(CENs)を設立し、研究開発能力の向上を図った。研究に続いて、研究成果を製造につなげる必要があるからだ。また、インドの半導体製造エコシステムは、国内で最も先進的な半導体製造ファブ(メモリーチップ製造のクリーンルーム環境を備えた大型施設)を持つSCLが主導している。

関係者は次のようにコメントした。

インド政府主席科学顧問(PSA)ヴィジェイ・ラグハヴァン(VijayRaghavan)教授

「インド政府による"デジタル・インディア構想"の成功は、わが国の電子機器ハードウェア製造能力に裏付けられている。集積回路やチップを含むエレクトロニクスハードウェアに焦点を当てることは、主に宇宙・防衛分野の研究開発の強化に重要である。標準規格の策定、製品設計やIPの開発、半導体製造は、ますます重要になっている。この分野でのインドの参加率・存在感を高めることは、インドの研究開発にとって大きな優先事項である。IIT-BとSCLが提携してこのメモリー技術を初めて確立したことは、インドにおける半導体研究の可能性が高まっていることを示している」

IIT-Bチームを率いるウダヤン・ガングリ(Udayan Ganguly)教授

「研究室から製造工場にたどり着くのは、100個のアイデアのうちの1つ。歩留まりを95%以上にする厳しいプロセスには、世界水準の研究開発インフラに支えられた複数の分野にまたがるチームが、永続的な協力関係を築くことが必要である。このような技術が成功すれば、無数の人々の生活に良い影響を与える可能性が出てくる」

NITI Aayog(National Institution for Transforming India Commission:インド変革国家政策委員会)のメンバーであるV.K.サラスワット(Saraswat)博士

「メモリー技術はデータのセキュリティに不可欠であり、現在および将来のインドの製造現場において必要不可欠となる。イノベーションを起こすためには、メモリー技術を研究から製造に移すことが必要で、世界的競争力と地域貢献で、活気ある半導体エコシステム確立の鍵となる。IIT-BとSCL の共同チームによるトリミング・アプリケーションへのOTPメモリー技術の採用は、この方向へ向けた先駆的な一歩である。この技術は、国内の安全なメモリーと暗号化ハードウェアを可能にし、ゲームチェンジャーとなるであろう」

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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