インドの埋立地には、化学廃棄物を無害な物質に変える微生物が生息し、環境浄化装置の役割を果たしている。
AsianScientist - 細菌は病気の原因物質として評判は悪いが、これら小さな有機体の中には環境の救世主となるものがあるかもしれない。国際研究チームは、インドの埋立地由来の細菌が、ヘキサブロモシクロデカン (HBCD) と呼ばれる化学廃棄物を無害化できることを発見し、研究成果を科学誌Chemosphereに発表した。
長い間、工業製造は環境汚染の主な原因であり続け、HBCDのような有害廃棄物を放出してきた。難燃剤であるHBCDは、繊維製造で使用されたり電子機器のプラスチックに組み入れられたりして、生産のピーク時には年間1万トンの規模に達した。
HBCDは2014年、世界で禁止されたものの、長い間残る毒物であるため、下水、土壌、空気の中にすでに浸透していた。食物連鎖の中に入り込んでおり、そのため人間の血液サンプルや母乳の中にも見つかっていた。
HBCDが根強く残っていることから、研究者らはこうした化学汚染を無害化して未来をクリーンにする方法を模索してきた。インドのデリー大学とインディアハビタットセンターの科学者らは、スウェーデンの研究者とともに、自然そのものから解決策を見つけた。インドの埋立地に生息するSphingobium indicumという細菌が化学物質を消化できることを明らかにしたのである。
この細菌の解毒能力はLinAと呼ばれる酵素に由来する。この酵素は、HBCDの化学上の兄弟であり現在禁止されている別の殺虫剤の代謝に関与する。酵素は生物学的触媒として知られており、化学物質の分解などの反応を加速させる。
毒素は、定まった結合部位で、錠に差し込まれた鍵と同じような形でLinAに結合する。HBCDは急速に非毒性の断片に分裂し、その後放出され、次の化学物質が酵素の結合部位にはめこまれるスペースがつくられる。
チームは細菌の遺伝子組み換えを行い、それにより細菌が生産した酵素の構造も変えた。LinA酵素は、結合部位で受け入れることができる分子について非常に選択性が高いが、遺伝子を変化させることにより、より大きな化学物質を受け入れることのできる広い部位が出来上がった。
研究者らは、これらの実験から、HBCDだけでなく他の毒素を分解できる酵素を設計できる可能性が現れたとしている。生物学的構造を変更させたバイオトランスフォーメーションは有用な細菌酵素を設計するための鍵となり、ひどく汚染された環境の修復に役立つかもしれない。
「これは、生物学的方法を実際に使用することで、人類が作り出し昔から長い間広範囲に存在している毒物を無害にできる可能性があることを意味します」
研究の筆頭著者であるスイス連邦材料試験研究所 (Empa) のノーバート・ヒーブ (Norbert Heeb) 博士は研究の意義を強調した。