インド理科大学院(IISc)はインド宇宙研究機構(ISRO)と協力して、宇宙空間での生物実験を可能にするモジュール式の自己完結型微生物培養装置を開発したと発表した。9月3日付。この装置を利用することで、最小限の人間の関与でSporosarcina pasteuriiという細菌を活性化し、数日間にわたっての成長を追跡する方法を開発した。この研究は科学誌 Acta Astronautica に掲載された。
宇宙は地上とは大きく異ななり、通常の実験室と同じ動作条件は期待できず、プラットフォーム設計は、完全に自己完結型である必要がある。IISc-ISROチームが開発した装置は、LEDとフォトダイオードを組み合わせたセンサーを使用し、実験室で使用される分光光度計のように、光の密度や散乱を測定することで細菌の成長が追跡できる。
この装置には独立したコンパートメントが設けられており、異なる実験が実施可能となる。カセットと呼ばれる各コンパートメントは、スクロース溶液に胞子として浮遊しているバクテリアと栄養培地を混合するチャンバーで構成され、遠隔でスイッチを入れることでバクテリアの成長を開始させる。また、各カセットのデータは、個別に収集・保存される。
カートリッジは、バクテリアが成長するため、従来とは異なる環境で完全に密閉されており、体積も非常に小さい。そこで、小さな容積で安定した増殖結果が得られるかを確認する必要があった。また、LEDの点灯・消灯によって細菌の成長特性に影響する熱が発生してはならない。3個のカセットが組み込まれたカートリッジの消費電力は1W以下となっており、宇宙船搭載用には4個のカートリッジが積載され、12の独立した実験を行うことができる。
研究チームは、験室の通常の環境下と同様に、胞子がデバイス内で成長し、棒状の細菌に増殖したことを電子顕微鏡で確認した。また、この概念実証の成功に続いて、次のステップとして「フライトモデル(装置)」の準備に着手している。これには、デバイスの物理的スペースの最適化や、振動や重力加速度などのストレス対応性能の最適化が含まれている。また、この装置はミミズのような他の生物の研究や生物以外の実験にも応用できる。このような極端な環境下での微生物の振る舞いを理解することで、有人宇宙ミッションに貴重な知見をもたらす可能性がある。
インドは2022年にインド初の有人宇宙船「ガガンヤーン(Gaganyaan)」を打ち上げる計画で、科学者らは、このような実験のために、多くの分析を1つのチップに統合した「ラボ・オン・チップ・プラットフォーム」の利用を検討している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部